見出し画像

遠い星のカンパネルラ

人物表

カンパネルラ(10・13)木星人
リリー(10・13)木星人
ジャック(7)村人
ビーンズ(43)村長・ジャックの父
村人1
村人2

本文

○森の中(夜)
鬱蒼とした森の中に、一隻の小さな宇宙船が墜落し、煙を上げている。宇宙船には木が倒れかかっている。ボロボロになった宇宙船の中から、緑髪のカンパネルラ(10)と、ピンクの髪色のリリーが出てくる。
カンパネルラ「……最悪だ。よりによって地球なんかに落ちちまった」
カンパネルラは右手を宇宙船に向けると、宇宙船に倒れかかっていた木は時間を遡るようにみるみると小さくなっていく。
リリー「そんなこと言わないの。これからここで暮らすんだから」
カンパネルラ「……地球人が俺らに何をしたのか、忘れたわけじゃないだろ。太陽系最悪の星だよ」
リリー「そんなことないよ。地球人にだってきっと……」
リリーが激しく咳き込み出す。
カンパネルラ「リリー! 大丈夫か!?」
カンパネルラは心配そうにリリーに駆け寄り、背中をさする。
リリー「きっと良い地球人だっているよカンパネルラ。もう戦争は終わったの。生まれながらにして争いを望む生き物なんていないんだから」
カンパネルラ「……地球人は別だよリリー。変わらない。そういう星なんだ」

○村はずれ(朝)
中世風の小さな村のはずれに、川が流れている。川の周りには木々が生い茂っており、様々な植物が自生している。採集ポーチを身につけたカンパネルラ(13)が、足元に生えた青い花を摘み取り、丁寧にポーチに入れる。カンパネルラは左手に植物図鑑を持っている。村の方向からジャック(7)が手を振りながら走ってくる。
ジャック「カンパネルラー!」
カンパネルラ「おぉ、ジャック。一人でここに来て大丈夫なのか?」
ジャック「うん! カンパネルラがいるなら大丈夫だよ! ねぇ、何してたの?」
カンパネルラ「いつも通り。薬の材料集め」
ジャック「あー、またかー。ねぇ、誰の為に薬を作ってるの?」
カンパネルラ「……誰の為って訳じないよ。薬売りになるんだ俺は」
ジャック「んー、なんか隠してる気がするんだよなぁ……」
カンパネルラ「なぁジャック、シロツメクサっていうのはこの辺に生えてるか?」
カンパネルラは図鑑を指差しながらジャックに見せる。
ジャック「シロツメクサね。それはもう生えてないよ。戦争の時に保護できなくて絶滅しちゃったって、お父さん言ってた」
カンパネルラ「そうなのか……」
ジャック「これも薬に必要なの?」
カンパネルラ「……見てみたかっただけだ」

○イグリム村(夕)
カンパネルラとジャックは汚れた服で村に帰ってくる。収集ポーチには沢山の植物が入っている。
ジャック「明日はさ、マックラ池の方に行こうよ! スイレンが見れるハズだよ!」
カンパネルラ「スイレン? それは花か?」
遠くから、ビーンズ(43)が二人に向かって手を振る。
ビーンズ「おーい! ジャックー!」
ジャック「あ! お父さん!」
カンパネルラは戸惑った表情を浮かべる。ビーンズは二人に近寄る。
ビーンズ「お母さんが夕飯の準備を手伝ってくれって、探してたぞ」
ジャック「もうそんな時間か! ねぇカンパネルラ! 一緒にご飯食べようよ!」
カンパネルラ「……いや、俺は帰らなきゃ」
ジャック「えー、帰っちゃうの?」
ビーンズ「遠慮することないぞ?」
カンパネルラ「いいんだ、俺は……」
カンパネルラは足早に去っていく。
ジャック「……また断られちゃったね」
ビーンズ「村に顔出すようになってしばらく経つのになぁ……」

○宇宙船内(夜)
宇宙船内は多くの植物で彩られており、中央にはベッドが置かれている。ベッドの上にはリリー(13)が横たわっている。その隣でカンパネルラが薬研で植物を擦り潰している。
カンパネルラ「……リリー、シロツメクサはもう絶滅しちゃったんだって」
リリー「あー、そうなんだ。見たかったな」
カンパネルラ「明日はスイレンってのを見にいくんだ。もう三年もいるのに、まだまだ見たことない植物ばっかりだ」
リリー「……カンパネルラ、地球のこと好きになった?」
カンパネルラは動揺した様子。
カンパネルラ「えっ、そんなこと……」
リリーが咳き込み出す。カンパネルラは薬研に入った液体を小瓶に移し、それをリリーに飲ませる。リリーの咳が落ち着き出す。
カンパネルラ「大丈夫か?」
リリー「……ありがとう」
カンパネルラ「別に、地球なんて嫌いだよ」
リリー「……もしかして、怖いんでしょ?」
カンパネルラ「……え? 怖いって?」
リリー「自分の考えが変わっちゃうのが」
カンパネルラ「……違うよリリー、変わんないよ。地球が木星を滅ぼした、って過去は永遠に変わらないんだからな」
リリー「……カンパネルラはもっと素直になれれば、もっと幸せになれるのに」
カンパネルラ「……リリーは、こんな生活でも幸せだって言えるのかよ」
リリー「私は幸せだよ。カンパネルラと一緒だからね」

○山奥
曇り空、木々が鬱蒼と生えた山道をカンパネルラとジャックが川に沿って歩いている。
ジャック「もう少しだよ! この先にある洞窟に池があるんだ!」
カンパネルラ「ジャック、誰かいるぞ?」
二人の先に猟銃を持ったビーンズと、村人二名が立っている。
ジャック「あ! お父さんだ!」
ビーンズ「ジャック! 来ちゃダメだ!」
ジャック「え? どうして?」
ビーンズ「猪狩りだよ。人里に降りる前に駆除しに来たんだ。危ないから帰りなさい」
カンパネルラは猟銃を怪訝な表情で見つめる。
ジャック「僕らマックラ池に……」
村人1が突然猟銃を撃つ。
村人1「ビーンズさん! そっちです!」
村人1が指差す方向に、ジャック目掛けて走る大きな猪がいる。
ビーンズ「ジャック! こっちに走れ!」
ビーンズは猟銃を構えて撃つが、走る猪には当たらない。
ビーンズ「ジャック! 逃げろ!」
ジャックは恐怖で動けない。村人二人は銃を猪に向け構える。
ビーンズ「やめろ! ジャックに当たる!」
カンパネルラ「ジャック!」
猪がジャックの目の前に迫る。カンパネルラは右手を猪に向ける。木々がざわめき出し、猪はジャックの目の前で動きを止める。
ビーンズ「カンパネルラ……、お前……」
ジャックは恐怖でその場にへたり込む。猪の足には木の根が巻き付いて身動きが取れなくなっている。
カンパネルラ「はぁ……! はぁ……!」
カンパネルラはハッとした様子で手を下す。それと同時に銃声が鳴り響く。カンパネルラの右肩が銃で撃たれる。
カンパネルラ「がっ……!」
ビーンズ「おい! 何してるんだ!」
村人2「見たでしょう!? アイツ、植物を操ったんだ! 木星人ですよ!」
ジャック「カ、カンパネルラ……?」
カンパネルラは右肩を抑えるが、服に緑色の血液が滲み出す。
村人1「本当だ! 木星人だ……!」
カンパネルラ「や、やめてくれ……! 俺は、俺はただ……!」
ジャックとビーンズは呆然とカンパネルラを見つめる。
村人1「あんな戦争を仕掛けておいて……、よく地球に来れたな!」
カンパネルラ「俺は……、俺は……!」
ビーンズ「カンパネルラ……、お前、本当に木星人なのか……?」
ビーンズは冷たい目でカンパネルラを見る。カンパネルラは泣き出しそうな目でビーンズを見ている。ビーンズは深く息を吐き出す。
ビーンズ「……見なかったことにするから、村から出ていってくれ」
村人二人は絶句した様子でビーンズを見る。カンパネルラは咄嗟に走り出し、一心不乱に山を下る。
ジャック「カンパネルラ!」
カンパネルラ「(M)……リリー、リリー、リリーの言ってた通りだったよ。俺は、地球のことも、地球人のことも好きになってたんだ。……ごめんねリリー。直ぐに帰るからさ、また別の場所で暮らそうリリー」
一発の銃声が山に響く。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?