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映画『グアイウ 地下鉄の怪物』ネタバレ感想/シンガポール発モンスタームービー

2023年制作(シンガポール)
英題:Circle Line
監督、脚本:J・D・チュア
キャスト:ジェセカ・リウ、アンディ・チェン、ピーター・ユー、パトリック・ペイシュー・リー
配給:ツイン
カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2023上映作
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カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2023上映作が、配信レンタルに来ていたので早速鑑賞。

乗客を乗せた地下鉄が突如暴走、廃墟となっているトンネルに向かってしまう。そこに襲いくる謎の巨大生物。乗客は助かるのか…という至極シンプルなストーリー。

乗客である母子にスポットを当てた物語になっているが、主軸の物語としては弱すぎる上に他の乗客のストーリーも殆どないに等しく、怪物の正体もなぜこのような状況になっているかも全く明かされない。突っ込みどころしかないが、うーむ、嫌いじゃない!むしろ楽しめてしまった。

タイトルからして、ポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』を連想してしまう。恐らく邦題をつける側も意識したとしか思えない邦題。原題は“Circle Line”。地下鉄環状線といったところである。では“グアイウ”はどこからきたかというと、中国語からである。中国語で怪物は“Guàiwù”と発音する。(漢字は、日本とほぼ同じ)

そう、本作はシンガポール映画ではあるが、言語はマンダリン(華語)である。シンガポールは他民族国家であり、中華系は1番多い。公用語もマンダリン(華語)のほかに、英語、マレー語、タミル語の4つが認められている。また、本作は台湾の映画会社も製作に携わっている模様。キャストにも台湾人の方がいる。

ちなみに、韓国語で怪物も괴물(goemul)である。『グエムル 漢江の怪物』も『グアイウ 地下室の怪物』も、厳密にいえば怪物という意味の言葉をメインに持ってきてサブタイトルでまた怪物を使っているという変な邦題の気もしなくはない。

話が逸れたが、怪物のビジュアルや、地下に潜んでいる点などの類似点から、『グエムル 漢江の怪物』を連想させるような邦題をつけたのだろう。しかし、本作を見ると改めてグエムルの素晴らしさをしみじみと感じてしまう。グエムルでは、しっかりと環境汚染が原因で怪物が生み出されたことや、韓国の社会構造やメディア操作などを皮肉ってコミカルにしつつ絶妙なバランス感覚で描く。

本作では、そもそも怪物がなぜ生み出されたのか、何なのか全く説明しない。冒頭に怪物を見つめる少年を映し出す。その姿から怪物が乗客の中で唯一少年だけを攻撃せず、自分の住処に連れて行った理由が何となく察することはできるが…それ以上のことはない。

メインの母子の話としては、母親が事故を起こし夫は亡くなり、子供はそのトラウマからうまく話すことができない。そんな子と自身の罪悪感を抱えた母親が怪物を前にして何が何でも息子を守るというストーリー展開。分かりやすいストーリーだが、それについても薄い。

他の乗客の背景は殆ど語られないが唯一語られるのは、ティーンエイジャーの娘の姿だ。部活のレギュラーに選ばれなかった娘に電話口の父親が「また来年頑張れ」と言うと娘は「来年は卒業している」と幻滅した様子で話している場面が冒頭に挿入される。

その娘も乗客の1人であり、父親は鉄道会社の職員であった。娘が乗っていることを知った父親は単身捜索に向かう。そこで怪物と遭遇。母子を助けに行こうとする娘に、父親は何よりも娘の無事が大事なのだと説き伏せ娘を逃し、自分は怪物の戦って命を落としてしまうという一応お涙展開が描かれている。

他の乗客の扱いは雑でしかないが…80分という短い尺というのもありさらりと見れてしまう。また、怪物のビジュアルは凄く良いのである。この点に関してはグエムルより良いかもしれない。ただ、グエムルは2006年製作ということもあり、当時と現代ではCG技術はまた違うであろう。

監督を務めたJ・D・チュアは、短編やドラマ制作を経て本作が初長編作となる。しかし、『メカニック』などハリウッド大作で制作アシスタントをしていた経験もあるのでどことなくシンガポールというお国柄はあまり強くない、ハリウッドよりのパニック映画になったのかもしれないとふと思った。

私はこの手のB級モンスター映画は大好きなので楽しめたが、肩透かしをくらう可能性は高い映画なので心して見ていただきたい。

見出し画像(C)2021 TAIPAN FILMS & MM2 ENTERTAINMENT

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