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中国映画『白い小船』ネタバレ感想/内向的な少女の葛藤と切実さ

2023年制作(中国)
原題:小白船 A Song Sung Blue
監督:ゴン・ズーハン
キャスト:ジョウ・メイジュン、ホアン・ズーチー
東京国際映画祭2023「ユース」部門で上映

東京国際映画祭2023は、色々あってチケット発売に出遅れ、数日経って残っているチケットをぽちぽち取っていたため、気になっていたメジャーな映画は見に行けないが…アジアのこれからを担う監督作品を数本鑑賞することに。本作はその一つ。

監督を務めたゴン・ズーハンは、短編を製作し、本作が初長編作となる。1996年生まれの女性監督ということで、自分と同世代だと驚かされる。

舞台は、北朝鮮との国境近くの中国東北部の町。15歳のLiu Xianは、医師として働く母が海外に単身赴任することになり、離婚し離れて暮らす父親のもとに預けられることに。そこで父親の恋人の娘・Mingmeiに出会い、Liu Xianは心を動かされていく。

内向的な少女の思春期の葛藤を言葉ではなく、眼差しで語る姿勢を見て想起するのは、韓国映画『はちどり』なわけであるが…このような主人公は増えてきたように思う。

台湾映画であるが、『アメリカから来た少女/アメリカンガール』にも近いものを感じる。また、本作を見て一番想起したのは、2023年に公開された『兎たちの暴走』である。

〝あなたのためなら何だってする〟

これは『兎たちの暴走』で、主人公シュイ・チンが産まれて間もない頃に自分を捨てて都会に行ってしまった母に対し、シュイ・チンが抱く感情である。母を恨むのではなく、母を取り巻くものから救ってあげたいと思う。

それは、シュイ・チンが今の生活に息苦しさを感じていることもあり、飛び立てる自由さを持った母に対し憧れのようなものも感じているからなのかもしれない。勿論、母に対し愛情も求めているからこそ、母にとって自分は大切な存在で、決して裏切ったりはしないと伝えたいという思いもある。

そのような『兎たちの暴走』に描かれたシュイ・チンが母に抱く感情に近いものを、『白い小船』にも感じたのだ。そして、『兎たちの暴走』も東京国際映画祭2020にて、上映されている。

Liu Xianは、Mingmeiに対し、憧れのような恋心のような感情を抱いている。いつも不機嫌そうな顔で無口のLiu Xianは、母のことをよくわからないという。母は仕事ばかりで自分には無関心だと感じているのかもしれない。それ以上に父のことを嫌っている。

最初は、父に対する嫌いという感情の奥には思春期にある男性への嫌悪感のようなものや、Liu Xianが同性愛者であることを仄めかしているのか…と思っていたが必ずしもそうではないようだ。Liu Xian自身のジェンダーアイデンティティについて明確に描くことはなく、思春期の揺らぎとして描いていると感じた。

しかし、何度も繰り返されるLiu XianとMingmeiが今にもキスしそうな距離で互いを見つ合ったり、遠くに座りながらも視線を交差させる場面はクィア映画らしい女性の恋愛と互いの心の距離の近さを感じさせる。恐らくMingmeiはLiu Xianの気持ちがわかっていたからこそ、これ以上踏み込ませないようにしていた部分はあるのだろう。

両親の男女関係に対して複雑な思いを抱えているのは親のそのような姿を見たくないというものに近いのかもしれない。母も仕事場の同僚に良い仲の男性がいる様子が仄めかされたり、父はMingmeiの母に対する愛情を隠していない。

Mingmeiは、既婚者の恋人がおり、ある日腫れた顔で帰宅する。何も言わず怪我の手当をするLiu Xianに、Mingmeiは、恋人が既婚者であること、その妻に叩かれたことを話す。それを聞いたLiu Xianは、Mingmeiの恋人を殊更に敵対視する。

「妻を殴る人はいずれあなたのことも殴るよ」

美人で、自由そうに見えても、何かしらの抑圧を受けている。そのような場所から抜け出せないのは本人のせいかもしれないし、それだけではないかもしれない。Mingmeiは、母とは朝鮮語で話し、仲間たちも皆、朝鮮語を話す。

詳しくは語られないが、北朝鮮の国境沿いにある町ということもあり、北朝鮮から逃れてきた人々かもしれないし、朝鮮族かもしれない。そのような漢民族ではない中国の少数民族が暮らす文化圏の様子が描かれているのも本作の興味深いところだ。

また、友達もいない、浮いてしまっているLiu Xianに思いを寄せる少年との交流も年相応でとても良かった。

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