映画『ノベンバー』ネタバレ感想/純愛と醜悪さのコントラスト
2017年制作（ポーランド、オランダ、エストニア）
原題：November
監督、脚本：ライナー・サルネ
キャスト：レア・レスト、ヨルゲン・リイイク、ジェッテ・ローナ・ヘルマーニス、ディーター・ラーザー
配給：クレプスキュールフィルム
第10回京都ヒストリカ国際映画祭上映作品
“死者の日”をむかえようとするエストニアの小さな村。冒頭から得体の知れないものが牛を連れ空を舞う。何も説明されないが、牛を奪ったのは“クラット”といい、悪魔と取引し自分の魂と交換して道具に魂を与えたものである。極寒の冬、食べ物などをクラットを使ってお互いに奪い合っている。
また、この村には大きな公爵の邸宅がある。恐らくドイツ人であろうと思われる。このあたりからエストニアをロシア帝国が支配する前の時代であろうと察せられる。公爵邸で働く女中は、病気で寝たきりの侯爵夫人の服を平然と奪う。村人は、教会（侯爵がドイツ人だとするとルター派か…）の礼拝に参加しているが、恐らく村人はまともに信仰していない。
聖餐で配られるパンを礼拝後に吐き出し、これを使って狩りをするとよく狩れると願掛け程度に使っている。パンはキリストの体であり、村人らの行為は神への冒涜にほかならない。“死者の日”においてもあまり先祖を大切にしている素振りもなく…アニミズムとヨーロッパのキリスト教文化が融合したかのような独特な空気感の中で描かれる人間の生々しさ。
そんな大人の醜悪さと対照的に、村の未来である年頃のハンスとリーナはとてつもなくピュアである。リーナはハンスを愛し、ハンスの妻になりたいと思う。しかし、ハンスは侯爵の娘に恋焦がれている。身分も全く違う、叶うはずのない恋なのにハンスは諦めず、毎夜侯爵の家を眺めている。そしてなぜか侯爵の娘は夢遊病で夜になると屋根の上に現れる。
侯爵の娘を見つめるハンスのそばにいる狼。実はこの狼の正体は、黒魔術のようなものを使って、リーナが擬態した狼である。村人が頼っている魔女にリーナもハンスと結婚したいと相談する。すると「その女を殺すしかない」と言われる。殺すつもりで侯爵邸に忍び込むリーナであったが、すんでのところでやめてしまう。
娘が死んでしまったら、ハンスが悲しんで死んでしまうかもしれないというリーナ。恋で死ぬ奴はいないと魔女は言うが、リーナはそれほどまでに純粋にハンスを愛しているのだ。リーナを不憫に思った村長と魔女が、侯爵の娘のような服で着飾らさせる。ドレスを着たリーナをハンスは侯爵の娘と勘違いする。
勘違いとはいえ、やっと思いが成就しそうなところを、リーナとハンスはただ一晩中見つめ合うだけで、触れ合おうとも言葉を交わそうともしない。やっと手を伸ばし2人は唇を重ねる。リーナはそれで十分だというかのようにその場を去り行く。
呆然と幸福に包まれていたハンスは雪解けの中から指輪を見つけ、求婚しようとリーナを追いかける。掴みそうであった幸福か運命のかけ違いで無惨にも立ち消える。
リーナは悲しき運命に絶望し湖へと入っていく。幻想的な幸福は悲劇へと向かう予兆のように見えるが…この映画は悲劇ではなく喜劇で終焉を迎えるのである。滑稽さと皮肉の効いた人間の貪欲さが清々しい。
見出し画像（C）Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017
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