水底の若葉
水底から水面を見上げる
口の端からあぶくが一つ、二つと
この身を置いて、水面へと上がって行く
子供の頃
兄が捕まえて来たカエルは
小さな飼育ケースの中で呆然としていた
大きめの石がひとつ
ケースの中に張られた水には
餌のミミズが膨張してカエルの泳ぐ場を奪っていた
田んぼに行った帰りの車内には
瓶いっぱいに詰められたヤモリ
ちらりとこちらに背をよじるたびに見せる腹の赤色のまだらが嫌でしかたがなかった
グロテスクな光景
本当は、瓶の向こうの
飼育ケースのその向こうにあるとも知らずに
子供の頃の私は見たままの世界を見ようとしていた
「色を作れないから、絵を描けない
どんな色を作ろうとしても、みんな汚れた茶色になってしまう」
とそう言った
会話はいつも
あちらこちらが抜けて歯抜けだらけ
言葉とちぐはぐな行動に
信用と不信の間を混乱しながら行き来をして
結局は疑い続けて来たのだ
最後の最後まで、歯抜けの部分にはまる言葉を見つけることは出来ずに
パズルは完成することなく、バラバラに戻して箱の蓋を閉める
代わりに最後に分かった事はと言ったら
その人にはその人の生きる世界があり
その世界の色や形、人々の顔つきまで
私はその見え方を知らなかった
ただ、それだけのこと
本当はきっとはじめから世界は違って見えていたのだと気づき
分かり合おうとした分だけ絶望したのは今頃
ただ、それだけのこと
それなのに、不思議と本能に忠実すぎる背中を見送れば
水底に取り残された気分になる
口から出たあぶくが水面へと向かう
それは、その人の姿の様で
自分の重たさが、本当に良いものなのかと腹を覗き込んでは虚しさが込み上げてくる
カエルをケースに入れた
ミミズを餌にあげたんだ
イモリを瓶に詰めた
誰かが、誰かを傷つけた
ー知らなかったー
きっと、その一言で片付いてしまう事を知っていながら
水底に取り残されている
ー知らなかったー
そう呟いたのは誰だったのだろう
手のひらにのこされた幸福は本物なのだろうか?
akaiki×shiroimi
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