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公園の同士たち
木曜日の私は殺気立っている。
黒歴史時代(高校時代)を抜け出してからは、道に迷う人から声をかけられたり、小さな赤ん坊がニコニコ近づいてきたりすることが多い。
そういうときは「私も良いオーラが出るくらいまともになったんだなぁ」と己の成長を自負していたりした。
だが、木曜日だけは絶対に人が寄ってこない。
というのも、木曜日は唯一の出社日で、私が週の中で最も早送りボタンを連打したい曜日なのだ。
たった週に一度の出社で何を甘ったれたことを言っているのかと世間が私を罵倒する様子は容易に想像できるが、毎日出社が当たり前の時代が続いていたら私は会社を辞めていただろう。
テレワークが我が社のスタンダードになったことだけがコロナ禍のもたらしてくれた唯一の利益だ。
出社の何が嫌かって、全てが嫌なのだが、
特に同僚のオジが嫌なのだ。
このオジの中身はオバだ。
お局オジだ。
どうだ、この表現だけで厄介さがお分かりいただけるのではないか。
彼(彼女)を一瞬たりとも私の視覚・聴覚・嗅覚で察知したくない。
お局オジのいる空間に向かう日は朝から殺気立っている。
どんなに空が青くても道路脇の花が美しくても、「みんな消えてしまえ」と言わんばかりの顔で歩いている。
どうにか自分から湧き出る殺気に抗おうと、大好きなアイドルの音楽にノリノリで身体を動かしながら歩いているんだから、その不気味さは倍増だろう。
発狂しそうになりながらほぼ3時間ぶっ通しの打合せを終えて、私が昼休みに向かうのはオフィスから徒歩5分くらいの場所にある公園だ。
適当につまめるご飯とコーヒーを買ってアイドルの音楽に身体を揺らしながら向かう。
面白いのは、この公園には同士しかいない。
みんなが「みんな消えてしまえ」という顔でご飯を食べているのだ。
同じ顔をしているから、もう「同志」と呼んでもいいかもしれない。
私はこの公園が大好きだ。
都心の皇居に近いオフィス街だから、きっとその多くは会社員だろう。
綺麗な服に綺麗な靴を身につけ、首からは有名企業であろう会社の社員証をぶら下げ、そしてみんな顔が終わっている。
嗚呼、ここがあってよかった。
みんながいてよかった。
君たちは消えないでくれよ。
と、私は思うのだった。
今日はパンを急いで食べて、20分ほど島本理生さんの本を読んだ。
夢中になって読んでいて、気がつけば時計は12:50を指していた。
パッと顔を上げると、みんなが会社という名の戦場に戻ろうとしていた。
その背中が切なくもカッコいい。
がんばれ、あなたも。
私も戦うよ。
これが毎週木曜日のルーティンだ。
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