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【麻布中合格】発達障害の塾無し受験②

受験まで2ヶ月 巨人の肩に乗る戦略

偏差値50台。
本命は横浜の発達障害に手厚い私立中学。
発達障害で進学塾に行けなかった息子が「麻布に行けるなら、行ってみたい」発言。
残された時間は2ヶ月足らず。
合否に関係なく「全力で限界突破する経験」をさせるため、私は「巨人の肩に乗る戦略」を決定しました。

2023年2月1日 麻布受験当日の朝の様子はこちらです

発達障害の塾無し受験①はこちらです

そもそも息子が麻布を知ったのは、元麹町中・工藤勇一校長の「息子さん、麻布が合うと思いますよ」という、教育界の巨人の知と経験から導きだしたアドバイスがきっかけでした。

インクルボックスより〜工藤勇一 校長〜

発達障害の勉強に市販の本ではなく学術論文を500本読んだのは、私がMBA大学院の早稲田大学ビジネススクールで修士論文を執筆する際、ご指導いただいた入山章栄教授から「赤平さん、調べるなら原典にあたった方が良いですよ」という、学術の専門家からのアドバイスがきっかけ。

インクルボックスより〜入山章栄 教授〜

私の発達障害やニューロダイバーシティに関する知識は、師匠である「ニューロダイバーシティの教科書」著者・村中直人先生の教えによるものでした。

インクルボックスより〜村中直人 先生〜

このように、人生の重要な交差点で多くの「巨人」の先生方の知識や経験をご教授いただき、私は「巨人の肩に乗り」発達障害の息子の支援に応用してきました。
※皆さんの動画はインクルボックスで配信しています

そしてもう一つ、息子のサポートで毎日のように実践している事があります。
それが「仮説思考」です。
早稲田大学ビジネススクール元教授で、元ボストン・コンサルティング日本代表の内田和成先生から教わった考え方です。

「仮説思考」内田和成 先生

著書にも書かれていますが仮説思考は「限られた情報、少ない時間でベストな解をだす方法」です。また、仮説思考は繰り返し行う事で、その正確性や速度が増します。
息子の麻布受験まで残り2ヶ月、進学塾に通っていないので情報はネット検索のみ。麻布の説明会も行っていない。願書出願は間に合うのか?学校の場所はどこなんだ?通えるのか?

日能研と四谷大塚のギャップ

ずっと、気になっていたことがありました。
それは息子の日能研模試と、四谷大塚小学生テストの模試の偏差値の違いです。いつも四谷大塚の方が、だいぶ良い数字だったんです。
私は「息子は文字を書く苦手さがあるから、記述のある日能研は点数が取れない」「四谷大塚は選択問題だけだから、点数が取りやすい」と深く考えず解釈していました。
ギリギリのこのタイミングで思い直し、仮説思考を使いました。

  1. 息子は日能研の記述問題が「分からなくて書けない」のではなく「答えは分かるが書けない」のではないか?

  2. 残り2ヶ月で大幅に偏差値を上げるには「最も落としている記述を獲る」ことが最大の伸び代ではないか?

  3. 麻布は「思考力を問う記述問題が多い」のならば、「WISCで思考力の指数が高い」息子と相性が良いのではないか?

WISCとは、発達障害の診断で参考として採用される大変有名な知能検査です。
詳細な説明は省略しますが、息子の場合「言語理解」と「ワーキングメモリ」が基準より大幅に高く「知覚推理」が高く、一方で「処理速度」が相対的に低く、そのアンバランスさが発達障害の特徴となり診断材料の一つとなっていました。

ここで改めて、息子の日能研模試の国語の解答を確認しました。

息子の日能研模試解答(国語)

見事に、記述を落としていました。
そこで息子に「解答が分からないのか」を聞いてみると、息子の口頭での説明はかなり回りくどく長いのですが、問題の本質は理解しており正解でした。仮説1は、おそらく正しい。
ボトルネックは「必要な要素を短時間で選択して端的にまとめる」能力。「処理速度」が低い息子が一番苦手な部分。

脳内ゴミ屋敷、情報のケスラーシンドローム


ネットで検索すると麻布の問題は「知識より思考力を問う」と多くの学習系サイトにありました。
小学校6年間、毎日、息子の登下校から習い事全てに帯同し、平日6:00~8:00と14:00~19:00、土曜8:00~18:00で息子とコミュニケーションをとって来ました。学校の作文や記述の提出物も全て見て来ました。そしてWISCの結果。さらに私の20年を越えるプロアナウンサーとしての経験。
それらから私が確信を持っていたのは「息子は言葉や文章に非凡なセンスがある」です。非常に独特なアングルの言葉の選択をします。我が子ながら「負けた」とプロとして悔しい感覚すらあります。これが仮説3の根拠。
こうなると「息子は文字を書くのが苦手で記述が書けない」前提は、間違っている可能性がありました。

WISCの説明の詳細は省略しますが、
「非常に高い『言語理解』と『ワーキングメモリ』があるため、問題文からの情報量を膨大に取得してしまい、かつ思考がマンダラチャートのように拡散する。それを整理する『処理速度』が遅いため書き起こせない」
という新仮説に至りました。
イメージは、脳内ゴミ屋敷、情報のケスラーシンドローム
※発達障害の人で「注意が弱い特性」があると、片付けができずゴミ屋敷になってしまう傾向があります

これで勝負の一手が、見えて来ました。

「制約と誓約」(HUNTER×HUNTER)

「このままだと麻布は絶対に受からない。お父さんと、ギャンブルしてみないか?」
仮説2から、残り時間の少ない中、受験に必要な知識系の勉強を一切なくし、記述力向上に完全特化した「質より量をこなし慣れていく戦略」を息子に提案したところ「やってみる」と即答でした。
使用した教材は2点。

一つ目は「山川の日本史」。たまたま2018年に購入し自宅にありました。
これを使い「P25~30を以下の言葉を使って100文字以内で要約しなさい(10分)」のように問題を作成しました。
1日の目標は2000字書く事。正解不正解は問わず、写し書きでも良いからとにかく時間内に書く事。質より、物量。

2017年版 山川の日本史

二つ目は中学入試の国語の過去問。2022年初頭に買ったものがありました。
この問題集の「記述問題のみ、やる」ことにしました。「抜き書き問題」はやりません。
12月中に全部終わらせる目標で取り組みました。

2022年版 過去問(国語)

限られたリソース、限定したフィールドでの戦い。
このときから1日1時間の集中が限界だった息子が「心身に負荷の大きい過集中」を発動させ、1日5時間の集中が可能になっていきました。
MBAの戦略論で言うと「差別化集中戦略(マイケル・ポーター)」。
マンガ論でいうと「クラピカの制約と誓約(HUNTER×HUNTER)」。

「前受け」を知らなかった

年が明け、2022年1月。
受験生が塾で最後の追い込みをするなか、息子は1日5時間の記述特化、受験の知識勉強はしない、受験生として歪なギャンブルをしていました。
受験後に知ったのですが、中学受験では全23種類の「特殊算」というものがあり、受験の必須スキルとのことでした。息子も私も、知りませんでした。
息子は数学検定で身につけた(前回のnote参照)、数学の基本スキルを我流でアレンジし、駆使していました。

引用)かるび勉強部屋さん

1月のある日、いつものように学校へ息子を迎えに行くと、クラスメイトのお母さんから「受験はするんですか?」と聞かれました。
私「横浜の発達障害に手厚い私立を受けます」
お母さん「じゃあ埼玉や千葉を受けるんですね?」
と、全く噛み合わない会話がありました。

これは、受験が全て終わった2月中旬に「二月の勝者」という中学受験マンガが無料配信されており、それを読んで初めて知った「前受け」という中学受験の基本戦略でした。
※「前受け」2月1日の本命中学受験の前に、本番想定で1月に行う千葉・埼玉での中学受験本番のこと

その日ふと、致命的なミスに気づきました。
「麻布の過去問、やってない」

最後の14日間

2019年に購入し、難しすぎて静かに「どこかに」しまった麻布の過去問。
(前回のnote参照)
焦って探して見つけ出したのが2023年1月17日、受験本番まで14日。
平成21年〜30年の問題が掲載されていて、平成21年から着手。
この日から2日に1度は本番と全く同じ時間割で麻布の過去問をやりました。

実際に使用した2019年版 麻布中過去問

麻布過去問の息子の点数の推移と、科目別点数の推移をグラフにしました。
声の教育社さんの過去問には各年度の麻布の「合格最高点(黒)」「合格最低点(紫)」が記載されています。
記述の部分点の判定が困難なため「部分点満点の場合=息子最高点(赤)「部分点0点の場合=息子最低点(緑)」で採点し、グラフに表しています。

麻布過去問の点数推移
麻布過去問 科目別点数推移

どんどん、得点が伸びていきました。
書けなかった記述。正否はまちまちですが空欄が無くなりました。
12月の偏差値が50台でも、息子の特性と麻布の問題は相性が良いように感じられました。仮説3は正しいかもしれない。

1年生の時から、コツコツこつこつと、毎日積み重ねてきた知識。
旅先でも、空港でも、待合室でも、路上でも。隙間時間でコツコツこつこつ。
やっと鉛筆で表現できるようになった。
「小さなことの積み重ねが、とんでもないところへ行くただ一つの道」
イチローさんの言ってたことは、本当だった。

発達障害の息子の、想像をはるかに越える集中力、理解力、ポテンシャルの高さ。言葉では表現できない驚きの毎日でした。

本当に苦しかった毎日

白状します。
息子を溺愛しています。それでも苦しい毎日でした。
いくら考えて、時間を割いて、表に裏に尽力しても、発達障害の特性によるどうにもならない難しさが、毎日毎日続きました。続いています。
苦しいのは親だけでなく、息子もです。
心がカラカラ、カサカサになり、深夜一人で嗚咽するほど涙を流し、それでも3時間後には朝食を作り息子のケアが始まる。
そこに喜びも感じます。

受験に限らず、1年生の時から論文、または専門家のインタビューで良さそうなものがあれば、様々な支援を仮説検証しPDCAしてきました。
スタンディングデスク、ローリングデスク、タイマー、ホワイトボード、学習ペン、カラーマス、スキマ時間学習、方眼ノート、新聞、テレビ、ゲーム、報酬系星制度、食事法、チック防止のテーピング、先取り学習、四谷大塚の教材、立体はアプリ活用、イヤーマフ、アイマスク、視覚優位、睡眠、栄養素、運動・体幹・姿勢、サマースクール、プログラミング、料理教室などなど。勉強を見てくれる方に週に1度90分だけお願いして、親が息抜きをし先に心が折れるリスクのケアもしました。

なに一つ、やらない後悔をしたくない。
息子の将来をなんとか良い環境にしたい。
誰かに知ってもらわなくても良い、褒められたいわけでもない。
このnoteを書くのが正しかったのかどうか、いまだに疑問です。

ただハッキリしてるのは
私の命を使うのは、息子ためである、ということ。

ニコ・ロビンでありたい

2/1の麻布受験。
終了後、私の元へ来た息子は興奮していました。
見たことないくらいの興奮でした。

「やり切った!」
「今までで一番手応えあった!」


発達障害に多いのですが、彼らは「冗談」を言いません。「お世辞」も使いません。「嘘」がつけません。
息子の悔いのない戦いだったという感想は、6年間365日共にいて一番嬉しいものでした。

2/3、麻布合格。

私は息子の将来のために動画メディア《インクルボックス》を作りました。
多くの専門家と話していて、皆さん共通しているのが「発達障害の理解より、当事者を理解することが大切」です。
ただ発達障害や発達特性があると、意思表示が独特で分かりにくい。
しかしこれは発達障害に限った話ではありません。
私はマンガが大好きなので、いつもONE PIECEを想像しています。

発達障害はポーネグリフ、読み取ることが出来ればONE PIECEに辿り着ける。

息子のために、
私は、ポーネグリフの読めるニコ・ロビンでありたい。
私は、栄養管理ができるサンジでありたい、先を見通せるナミでありたい。
守り通せるゾロでありたい、癒せるチョッパーでありたい。

このnoteをご覧いただいている方の中には、発達障害の子育てで苦労している父親、母親もいらっしゃると思います。
中学に入学しても、なに一つ安心することは増えません。
私はむしろ不安材料が増加しています。

きっと皆さんも悩み、苦しみ、報われず。
膝から崩れ落ち、それでも我が子への愛が溢れ。
立ち上がり、歯を食いしばって笑顔を見せていらっしゃるでしょう。

そんな父でありたい。
そんなウソップでありたいと、私は思うわけです。

みちのくひとり旅

発達障害の息子は2/3の合格発表以降、卒業式まで「ひとりで」登下校の練習をしました。
麻布通学のために「ひとりで」電車に乗る練習もしました。20メートル後方でこっそり私が付いていますが…
※衝動性で赤信号でも突っ込むことがあり、小学校6年間の登下校は毎日帯同していました

その息子に「春休みにしたいこと」を聞くと、
「青森のジジババの家に行きたい」「ひとりで」
と宣言。何度確認しても意思が揺るがず、私の心配をよそに3/31最後の子供料金で新幹線に乗り、みちのくひとり旅に出発。
このnoteを書いている今まさに、息子は青森の私の祖父母の家で過ごしています。
昨日は八甲田山に登り全力で雪遊びをしていました。

息子が撮影した岩木山

出発前、工藤勇一校長のオンラインイベントを視聴した息子。
質問を投げていました。
「自立したいのですが、自信がありません」
工藤校長からアドバイスをいただいていました。
この一人旅には、そんな意思も込められていたんだと思います。

麻布入学式前に帰京予定。
戻りの新幹線は大人料金。
たとえどんなに親が心配しても、子どもは大人になるんですね。

発達障害は100人いたら100通り。
得意不得意が本当にバラバラです。高IQだから勉強が得意とは限りません。
息子はたまたま「麻布の問題に合っていた」だけで、いくつかの私立中学の過去問を解いた印象では、おそらく麻布以外は不合格になっていたと思います。

そして「特性」は発達障害だけでなく、全ての人が持っています。

「特性を知り、対応がマッチすると想像を越える」のは、私たち全員に当てはまります。
勉強じゃなくても、それぞれの良い部分が引き出せると感じて頂ければと思います。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。


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