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わたしの本棚『山小屋の灯』

私は山登りが好きだ。だが子どもを2人育てているとなかなか登山に行くことは難しい。まして山小屋に泊まりがけなど、更にハードルは上がってしまう。

なかなか行けないからこそ山小屋への憧れはつのるばかりだ。

『山小屋の灯』は大好きなライターさんと写真家さんの本で、同世代だからか読むと自分も2人と一緒にその山小屋で過ごした気分になり、至福の時が味わえる1冊だ。

どの章も素敵だが1番好きなのはここ。

北アルプスにある船窪小屋は非常に険しい急登の七倉尾根を登りきった稜線上にあり、80歳を過ぎたお父さんとお母さんが営む小屋である。

後になって、小屋で使う水は30分以上離れた断崖から湧き出る水を汲み、人力で運んでいるものだと聞いた。実際に見に行ってみたら、足がすくむほどの崖。頼りない命綱が垂らしてあるだけで、足を滑らせたら谷へ真っ逆さまだ。ここで水を汲み、20キロほどのペットボトルを背負って登り返すのは、どれほどの苦行だろうか。~中略~ そんななか、客のひとりひとりに無料で熱い茶を振る舞うのは簡単なことではないだろう。きっとそれは、険しい尾根を登って来てくれた人々への、ふたりなりの感謝とねぎらいの気持ちなのだと思う。小林百合子=文 野川かさね=写真『山小屋の灯』(山と渓谷社、2018年)

今ではそのおふたりは山を下りたそうだが、60年もその小屋で多くの登山者を迎え、来てくれてありがとう、と言っておられたその生き方に私の心は強く揺さぶられた。他にもそれぞれの小屋のご主人の熱い思いに触れることができる。

秋深まり冬の気配を少しずつ感じはじめたこの季節にちょうど良い、心にあたたかな灯をともしてくれる大切な本である。


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