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フシギナパラダイス1話:〜不思議な道〜2/5

目次

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…耳をすませば、小鳥や鳩の鳴き声が聞こえた。

しかし、そんな清々しい音とは裏腹に、私の後頭部はズキズキと痛んだ。
ちょっと転んだだけだと思ってたけど…なかなかの衝撃だったらしい

…ん?

あれ?ちょっと待って?私…なんで後頭部が痛いの?
さっき、私こ飛んだ時にぶつけたの…おでこじゃ…

私はゆっくり目を開ける。

「あ…れ…?」

目を開けると、そこには真っ青な空が広がっていた。
私は慌てて体を起こした。

青い空が広がっていて、おかしい事も困ることも別にない。
でも…今の私にとって、これはあまりにもありえない不思議な出来事だ

だって…ついさっき…どんなに長くても1 分前くらいまでは…夕方だったのだ。
赤い空が1分もしないうちに青空になるなんて、自然の摂理的にありえない…

それになるちゃんと心矢の二人の姿がない。
ついさっきまで見える範囲の場所にいたはずで…見捨てて行ったにしても
見えなくなるほど遠くに行く時間はない

場所は幸いにもさっきと同じ場所みたいだけど…

なんで場所以外のことがこんなに変わっているのか、
私は状況が把握できず困惑していると

「ルイちゃん!」

大きな声で自分の名前を呼ばれたかと思うとそのまま誰かに抱きつかれた。
その相手は…

「な…なるちゃん?」

「よかった〜無事で…」

「ぶ…無事?」

「怪我してない?頭とか打ってない?気分悪くなってない?」

そう聞きながら、私から体を引き剥がすと、今度は肩に手を置いて
ブンブンと体を揺すった。

頭打った可能性を危惧してるなら揺らさないで〜
というより、頭打ったことよりも頭揺らされてることで気持ち悪くなりそう
という、私の胸の内を伝えるのはこの状況では無理そうだ。

すると、パタパタともう一つ別の足音が聞こえてきた。

「ルイ〜!大丈夫〜!?なんかすごい威力だったけど」

どうやら心矢のようだ。
威力がどうとかいうのはよくわからないけど
とりあえず、二人ともどこかに行ったわけじゃなかったことに安堵した。

でも、その直後、私はあることに気がついた。

「あれ…二人とも…いつ私服から制服に着替えたの?」

「え?」

入学式前日の私たちが、プライベートで制服なんか切る必要はない。
だから当然、私たちは説明するまでもなく私服で買い物に出かけている。
なのに二人は制服にいつの間にか着替えている、なんの脈絡もなく。
だから私がこの質問をすることに何もおかしいことはない。

なのに、二人は困惑したかのように顔を見合わせた。
そして心矢が言葉を発した

「何言ってるのさ…自分だって制服着てるじゃん」

「え…!?」

そう言われて、私は自分の体を見回した。
心矢の言う通りだ。
さっきまで私服を着ていたはずなのに、いつの間にか制服に着替えている。
…でも…いつ?いつ着替えたの?私、着替えた記憶は…

「ルイちゃん…ちょっと…大丈夫?
今日入学式よ?制服着てるのは当たり前でしょ?」

なるちゃんは諭すように言ったその言葉に私はぎょっとした。

「ちょ、ちょっと待って、入学式は明日でしょ?」

「何言ってるのよ、入学式は今日よ?」

「だ…だって今夕方でしょ?」

「この青空のどこが夕方なのよ!」

私はなるちゃんに指で空を指され、その方向に顔を上げる。
憎たらしいくらいの青空は、私の記憶よりもなるちゃんの説明の方が正しいことを証明している。
でも…さっきまで間違いなく…だってあんなにはっきり重い荷物持ってた記憶が…

「おい、なる!自分のことくらい後始末してけよ!」

少し遅い足音と、目の前にいる二人以外の別の声が聞こえる。
その声に反応したなるちゃんは笑顔でその人物に手を振って

「遅かったじゃない洋太くん」

と声をかけた

「え?」

私はゆっくり振り返ると、そこにはよく知った顔があった…知った顔ではあるけれど…
彼がここにいるのはあまりにも不自然だ

だって、さっきまで一緒にいたのはなるちゃんと心矢、私を入れて3人だったはず…
なのにまるで最初から一緒にいたかのように違和感なく会話に混ざっている…
突然湧いて出たかのように現れているにも関わらずだ…

「お前…こんな重いのよく持てたな…ってか、これ当たったんならだいぶやばいだろ…
ルイ、お前ほんとに大丈夫か?」

「あの…それがね…」

「…んで?」

だから…たとえ心配してくれてたとしても、私のこの疑問を口にするのは
何も間違ってないと思う…と言うか、当然の疑問

「なんで洋太がここにいるの!?」

「は!?」

「だって…洋太が今、ここにいるわけないもん。
さっきまで、なるちゃんと心矢と3人で…」

私がそう言うと、目の前にいた心矢となるちゃんは不安が的中したかのように慌てだし
洋太は自分がなぜいないことにされているかに驚くと言う
三者三様…いや四者四様の混乱がここに生まれた。

その中で一番最初に落ち着いたのか、心矢は私の肩に手をポンと起き

「ルイ、ちょっと落ち着いてけって。
今日は朝、待ち合わせ場所で僕となると洋太とルイの4人で集合してから
ずっと一緒に行動してたでしょ?」

と私に説明してくれた。

「…」

「覚えてない?一緒に入学式行こうって約束して…」

「約束のことは覚えてるよ?でも…朝…?」

私はそう言うと黙って頭をフル回転させた。
でも、該当する記憶はどこにもない。
なんなら寝た記憶すらない。

その様子に、3人とも流石に私の状況を把握したらしい
そして3人とも、洋太が持っている白い箱に注目した。

「おい、これ想像以上にやばいんじゃねーの?
お前威力どうやって調整したんだよ」

「ちゃんと健康被害で内容にはしたのよ?
でも仕方ないじゃない、壊れて予想外の方から飛び出ちゃったんだもの」

「だからそう言う不具合なくしてから…ってかなんでこんなもん持ってきたんだよ!」

なるちゃんと洋太は、何かを察してか喧嘩が勃発してしまった。
話を聞いている限り、その白い箱こそが、私がこんな状態になってしまった原因らしい。

目の前で喧嘩されても、私自身状況把握ができないので
その場を収めて説明をしてもらうと、どうやらこう言うことらしい

さっきも説明したように、なるちゃんは機械を作ることが大好きだ
そのなるちゃんが、なぜか張り切ってびっくり箱を作ったらしい。
そのびっくり箱は、よくあるボクシンググローブのやつで
開けると攻撃を受けるらしい。
ちゃんと開ければ少し重いパンチくらいですむらしいんだけど、
心矢に試そうとした時に何かの拍子で壊れ別の場所からグローブが飛び出した…
想定していない場所とタイミングで飛び出したグローブは威力の制御ができていないまま飛びだして…
その飛び出した場所に私がいて、思いっきり飛ばされたらしい。

で…頭をぶつけた私は…

「…記憶喪失…ってこと?私が?」

「って…ことみたいね。」

「二人とルイの話を聞く限り、昨日の夕方から半日…ってところか?」

「で、でも半日でよかったわね、長期間だったらたいへ…」

「そう言う問題じゃないだろ、ちょっとは反省しろ」

「…ごめんなさい。」

洋太に怒られたなるちゃんはめちゃくちゃ責任を感じているらしく、
道端だと言うのにその場に正座してうなだれた。

「ルイどうする?病院行く?」

心矢は私を心配してそう提案する。
確かに、ちょっと心配ではあるけどあんまり実感ないし、
幸い消えた記憶も半日でそんなに困るレベルじゃない。
だから私は首を横に振って

「いいよ、そこまで大袈裟じゃないし…」

と断った。
しかしそれを聞いた洋太はこっちを向いて、少し渋い顔をしていった。

「けど、念の為行った方がいいんじゃねーの?
頭部を強打した時って、後から来るって言うし…」

「でもなぁ…ほんとにもう大丈夫だし…」

って言うか、ここで病院行ったら私入学式出られないじゃん。
この日を待ちに待ったのに、そんなの絶対ヤダ。

その意志を感じ取ったのか、それ以上誰も無理強いはしなかったけど
心配は拭えない様子。
何も覚えていないけど
本当にすごい勢いで頭をぶつけたらしいことを、その場の空気が教えてくれた。

すると、心矢が何かを思い出したかのように手をポンと打つと

「あ、じゃあ近道していこうよ、早く学校つけば万一のことあっても保健室で見てもらえるし」

といった。

確かに近道があるならそれに越したことはないし、早く学校について困ることはない。
でも、この辺りに学校への近道できるような道なんてあったっけ?

それはなるちゃんと洋太も気になったのだろう。
本当なのかとか、そんな場所あった?などと問いただしていた。
あまりにも信じてもらえないことに不貞腐れたのか

「ほんとだって!ほらあそこ!」

と怒りながらある場所を指差した。

そこで私は違和感を持った。

心矢が指を指している場所は、私の少し後ろあたり、
でもそこはさっき…じゃない、
昨日、みちびきこちゃんの案内する場所に「道がない」と話になった塀あたりだ。

だから道があるはずはない、そんなことはあの場にいた心矢も知ってるはずなのに…

そう思って私はゆっくり振り返って指を刺された方向を見た。

「え」

私はその場所を見て息を飲む

だって、さっきまで塀だったはずの場所に…細い道が現れていたからだ。
記憶間違いなんてことは絶対にない。
だって私は昨日のことを、文字通り「さっきのことのように覚えている」
だから、この場所に道がなかったことに間違いがないことは断言できる。

だから私はそれを口にしようとした…けど

「本当にここ、近道なの?」

と、なるちゃんは不服を口にした…でも…

「ほんとだって、この前見つけて試したし、間違いないよ!」

「でもねぇ…洋太くんならまだしも、心矢の話じゃねぇ…」

あくまでその道が「近道であるか」の心配はしても、「その道があることについて」の言及は心矢同様しなかった。
これはおかしい。

だって、二人は私と一緒にここに道なんか存在しないことを一緒に確認してた。
なのに…なんで?

「ルイちゃん?どうしたの?」

なるちゃんに声をかけられて我に戻る。
気がつくとこの道を通ることはいつの間にか3人の中で決定され
心矢と洋太はすでにその道を歩き始めていた。

まるで、そこに最初から道があったかのように、何も疑問に持たずに…


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あれから数分

結局その後、私は特に何も言及せず3人の決定に従ってその後ろについて歩いた。
でも…歩けば歩くほど違和感しかない。
今どの辺りに自分がいるかも把握できていないのだ。

私は前を歩く3人を見る。
なんか必死になって話しているので、何かと思って耳を傾けると

「今年もさ、4人とも同じクラスだったら10年連続?ちょっとした記録よね」

「10年は3人の場合だろ?…まぁそれはいいとして
今までは2クラスだったかけど、今回は6クラスだぞ?
全員一緒は無理だって、てかもう俺はいい加減クラス別がいい」

「何よつれないわね…心矢だって、記録チャレンジしたいわよね?」

「んー…気持ちとしてはともかく現実的に難しいんじゃないの?
洋太が計算してそう言ってるならなおさらさ」

やっぱり誰も疑問に思ってる様子はない
もう会話は道のことや私の怪我のことじゃなく、この後のクラス替えの話で盛り上がっている。

私の気にしすぎ?
それとも頭打って記憶が混乱してる?

でも…それだけじゃ説明ができない。昨日今日だけの話じゃない。

私だって、この町に住んで長い、四捨五入したら10年くらいは経つ。

そもそも、うちの中学までは位置的にどうしても遠回りになってしまうというのは周知の事実で
話題のタネになってたレベル。

だから、こんなわかりやすい場所に近道があるのなら、もっと早くに知られてなきゃおかしい。
なのになるちゃんと洋太は、疑問に思わなかっただけで、道のこと自体は今日初めて知った様子だった。

だから本当であれば存在なんかするはずがないのだ。
でも、実際には存在して…私はここを歩いていて…
じゃあここは一体…

「二人で賭け始めたんだから二人でやりなよ!僕は関係ない!」

「何よ、つれないわね…いいじゃない二人でやってもつまんないわよ。」

「絶対ヤダ」

一人で悶々と謎解きをしていると、前の3人の会話が一層にぎやかになった。
よくわからないけどなんかいつの間にかクラス替えの話から賭けの話までに発展している。
なぜそんなことになったのかはわからないけど、まあ楽しそうで何よりだ。
心矢はイヤイヤと頭を抱えながら首を横にブンブンと振っている。

そんな様子を見て洋太は心矢をなだめる

「まぁ、別に無理強いはしないけど
でも、なるの提案にしては比較的フェアだぞ?」

「やだって!絶対なんか企んでる!」

「どうせ4人全員おんなじクラスなんて無理だって、
不安ならそこの神社で神頼みしたら、安心かもしれないぞ?」

「え…」

私はその会話を聞いて、顔を上げた、
確かにすぐ近くに神社があった。小さかったけれど、結構立派だった。

でも、私はそれをみた瞬間…私はサッと血の気が引いた。
いよいよ話がおかしくなってきた。

「ルイちゃん?どうしたの…そんなに青ざめて…」

私の顔色が悪くなったことに気がついて、なるちゃんは私に声をかけてきた。
あまりにも自分の記憶と目の前の光景が違いすぎて、頭が混乱して、爆発寸前だった
だから、私はついに疑問を口に出した

「ねえ…神社なんて…この辺りにあった?」

だって…この辺に神社なんかないはずないのだから。
うちから一番近い神社でも、あるのは中学の向こう側
つまり通学中に通る場所に神社はない。
だから、ありえない…なのにそんな私の声に誰も賛同してはくれなかった。

「ルイちゃん…どうしたのよ…突然そんなこといいだして…」

「だって、だってやっぱりおかしいよ。
この神社のこともだけど、この道だって…昨日までなかったじゃん。
あったなら、もっと前から知ってるはずだし」

「ルイ、本当にどうしちゃったのさ…やっぱ頭打って記憶混乱して…」

「違うって…だって、ここにこんな道がなかったことだけははっきり覚えてる
心矢だって…なるちゃんだって、昨日一緒に確認したじゃん!」


なるちゃんと心矢は私の言い分を聞いて困惑したかのように顔を見合わせた。
まるで、おかしなことを言ってるのは私と言っているかのように。
ただ、何をどう言っていいのか悩んでいるみたいだった
その様子に見かねたのか洋太は

「でも、あるもんはあるんだからしょうがないだろ…」

人事も生えてくるわけじゃあるまいし…とそう言葉を付け足して私に言った。
一瞬反論したくはなった、でも言われてみたらその通りだった。
どんなに記憶の中と現実が違おうとも、現に私はなかったはずのその道を通って
神社までやってきた。
その事実は変えられない…じゃあ…間違ってるのは…私なのかな…

「とりあえず、早く行きましょう。
長居すると、せっかくの近道なのに意味なくなっちゃうわ。」

私がうつむいて悶々と考えていると、なるちゃんはそう私に声をかけた。
そして3人はその言葉を合図にまた歩き始めた。

私はもう一度神社の方を向きなおす

そっか…知らなかっただけで、神社この近所にあったんだ…
そうだよね…別に住んでるからって隅々まで知ってるわけじゃないし
知らないことあったって…不思議じゃないよね。

そう自分に言い聞かせて自分も一歩前に足を踏み出そうとしたそのとき、
鳥居の奥の方から、パタパタと足音が聞こえてきた。
なんだろうと思って振り向くと

「うわっ!」

誰かとぶつかった私は思いっきり地面に尻餅をついて転んでしまった。

「イタタ…な…なんなの?」

起き上がってみると、そこには見知らぬ…子供が覆いかぶさっていた…
不思議な格好をした金髪の…顔が見えないけど、多分男の子…
この神社の子だろうか…でも神社の関係者で金髪…

「ルイ、大丈夫か?」

遠くの方から名前を呼ばれた。
私はその声にハッとして「大丈夫〜」と返事して、男の子に視線を向けた

「ごめんね、ぼく大丈夫?怪我してない?」

私は男の子に手を差し伸べると、

「すいません」

と言って、男の子は私の手を取った。
そのとき、手の中に皮膚ではない何かが触れた
それが何か考える間も無く、男の子はその場を走り去ってしまった

「え、あ、ちょっとぼく!?」

私は焦ってその子を呼び止める
怪我してないか心配だったのもあるけど、
私の手の中には、先ほど触れた男の子の忘れ物が残されていたからだ。
でも変えそうにも、男の子の姿はあっという間に見えなくなってしまった。

どうしようと途方にくれる私は、掌を開いてそれがなんだったのか確認した。
それは…勾玉だった。

「ルイ、本当に大丈夫か?」

いつの間にか近くまで来てた洋太にハッとする。
心配かけてしまったらしい。

「ごめん、なんでもない。大丈夫」

私はそういうと、勾玉をもう一度握りしめて、今度こそ学校に向かって歩みを進めた


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そこから少し離れた場所で、彼らを見守る影があった。
「どうだった?」

結果がきになるそれは、彼にそう尋ねる。

「ひとまず準備はできました、後は結果を待つだけです。」

「一致しそうか?」

「おそらく、まちがいないかと」

「…」

それは、彼の答えに少し不服そうな態度を示した。
その様子に彼は小さくため息をつく

「まだ、あの件について心配されているのですか?」

「仕方ないだろう…歴代よりも年齢が幼い
いつも年齢は大体同じだったのに…本当にそうなのか?信じられない」

「それは、前にも説明したじゃないですか。
諸事情で時期が早まったって…それにその事情を抜きにしても誤差にすぎません。
それに、年齢に何か問題あります?」

「…」

そう聞くと、それは少しの間黙った。
確かに、「そう」であるなら、年齢など関係ないのだ。
しかし、それがそこまで心配するのには、少し訳があった。
今回はそれまでと違い「異例」があまりにも多い。
だからこそ、何か間違いがあるわけにはいかなかった
間違いがあった場合、これまで以上に問題になり得るからだ。

「…今回の*****には…辛い役目を負わせることになるな…」

「…確かに心は痛みます、しかしこればかりは初めから決まっていたこと
…それがたまたま……………だっただけ、それだけです。」

「…お前は平気か?」

それは、彼を見る。
もともと、これは本来彼の仕事ではない。
彼は今、代理として、危険で…重い任務を引き受け、ここにいる。
だから、慣れていない任務に躊躇しているのではないかと思ったのだ。
しかし予想とは裏腹に、彼は真剣な顔でこういう。

「何かを守るために、多少の犠牲はやむを得ません
誰かがやるべき役目がぼくに回ってきた…それだけの話です。」

その瞳から…決意と覚悟が伝わった。
だから

「…最後の最後で…押し付けてすまない。」

そう、静かに彼に告げた。
彼は、パッと笑顔になって

「何言ってるんですか、これも修行の一つですよ」

と、なんでもないかのようにそう言った。
だから「跡を頼む」とだけ伝えて、シュンッと姿を消した。

彼はそれがいなくなったのを確認すると、空を見上げてぽつりと呟いた。

「ええ、お任せください。責務は必ず」

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