親が子ども自身の思いや気持ちを聞いて対応してくれないと、子どもは「心の病」を抱えてしまう
NHK朝ドラ『舞いあがれ!』
第5話。
たくさんの人に見てほしいと思った。
母親は子どものことを心配しているつもりだが、子どもにとってはマイナスになっていることがある。
それが、母親の言動、祖母の言動、子どもの言動でうまく構成されている。
どうして子どもが心の病気になっていくのか、それがわかる。
「神回」だと思った。
今回の主役の子どもは熱を出すという設定だが、子どもの姿は違っても共通するところがある。
保育所長をしていた頃、子どものしんどい姿を見てきた。それを保護者に伝え、子どもへの対応を変えてほしいと思うことが何度もあった。
しかしそれは簡単でなかった。とても難しかった。
そしてそれを伝えるには相当のエネルギーが必要だった。
子どものしんどい姿は伝えることはできても、どうしてそうなったか理解してもらえなかったのだ。そのため、一時的に症状がなくなっても、また現れてしまう。繰り返してしまうことが多かった。
親である自分の対応が子どものしんどい姿につながっていることを理解できないのだ。そしてそれは親の心の部分にかかわってしまうから、できるだけさけたいことだから。プライドがゆるさないのだ。
子どものしんどい姿とは、前に書いたものを繰り返す。
「神回」の大体を記す。
郊外学習の磯遊びでけがをする舞。そこにたまたま通りがかった母。
母「大丈夫?痛いとこない?」
その様子を見る祖母。
その日の三人での夕食。
母「来たばっかりやし、もうちょっと慎重にかんがえないとあかんかったね。ごめんな、舞。」
祖母「そんが、おおげさなことやなかやろ。」
母「ゆっくり少しずつやらな、しんどなるよね。」
舞「・・・うん。」
祖母「めぐみ、帰ってくれんね。」「帰らんね。」
母「えっ。」「いきなり何。」
祖母「舞は預かるけん。」
母「あたしだけ帰れってこと。」
祖母「そうたい。」
母「なんでよ。」
祖母「あんが舞のこと心配しすぎとる。」
母「舞はうちが気をつけてあげんと。」
祖母「気づいておらんとね。」
母「なんば。」
祖母「舞はここに来てから、ずっとめぐみ(母)顔色ばうかがってる。」
母「そがんこと。」
母と舞が顔を見合わせる。舞が横に首を振る。
祖母「舞は、おまえに遠慮ばして、自分の気持ちば言えんとさ。」
祖母「あんがしばらく舞から離れた方がよか。」
母、気づいて、舞とのことをふりかえる。
母「話がある。お母ちゃん、いっぺん帰るわ。」
舞「えっ。私は。」
母「もうちょっと、五島にいてる方がええと思う。舞のペースでゆっくりやってたら、元気になれると思う。おばあちゃんもいてるし、舞は絶対元気になれる。」
舞「うん。」
寝ている場面。舞は母の後ろ姿に抱き着く。でも、顔を見合わせない。
母は船で一人で大阪に帰る。母と舞は手をつないで桟橋までくる。
母「おばあちゃんのいうこと、よく聞くんよ。」
母は船に乗り込む。
声を出して泣かなかった舞。静かに涙を流している。
祖母「ようがんばったな。」
少しだけうなづく舞。
舞「私と一緒にいてたら、お母ちゃん、しんどそうやから。」
舞「お母ちゃん、私にここ残ってほしいと思ってる。」
舞「そやから、帰られへん。」
祖母「ちゃんと、自分の気持ち言えたばい。」「少しずつでよか。」
母の乗った船が出る。
なんとだ。
親は、自分では子どもの気持ちを考えて、子どものためにいろいろ言ったりしてあげたりする。しかし、それは裏目に出る。マイナスになっていく。
自分自身では気づくのは難しい。ここでは実の母親が伝えている。
母親の顔色を見て娘が行動してしまう。
母親に遠慮して、自分の気持ちが言えなくなり、行動できなくなるのだ。
そうなのだ。
母親が大好きだから。
母親の喜ぶ顔が見たいから。
母親を悲しませたくないから。
母親が一番だから。
抱っこしてほしいのに「抱っこして」と言えない子どもをたくさん見てきた。
これは、保育所で子どもの姿を見ていると、本当によくある。
そして、子どもはしんどい姿になってしまう。
どうしてそうなってしまうのか。
子どもの「意思」がないから。
親が子ども自身の思いや気持ちを聞いて対応してくれないから、自分の要求を避け、無意識のうちにそれを打ち消してしまう。
親の顔色をうかがいながら、自分の行動をすることになってしまう。
朝ドラの舞は、生まれてからずっとこの親に育てられてきた。だから、ずっと心配され続けてきたのだろう。
だから、熱が出るようになってしまったのだろう。
主役の設定を一週目でていねいに描いている。それが変わっていく姿が今回の朝ドラのテーマなのかもしれない。
「神回」
とてもわかりやすい。そうならないよう子どもを育ててほしい。
だから、たくさんの人に見てもらい、親はふりかえってほしい。
自分はどうかと。
子どもは言葉では言えないけど、そういう気持ちであるということをわかってほしい。
こうしたことはほとんどの家庭で起こりえる。
子どもが「心の病」を抱えてしまわないように。
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