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トンカツDJ AKIO&東堂【ショートショート】【#62】

AKIO:「はい本日も、ラジオパーソナリティはAKIO(あきお)と――」

東堂:「東堂(とうどう)でお送りしております」

AKIO:「今日のテーマは『黒歴史』ということですが、どうですか?東堂さん?なにかありますか?」

東堂:「まあ……俺は黒歴史の塊みたいなもんやから。それこそ昔はやんちゃやったし、酒飲んで裸で街走りまわったり、ぐでんぐでんに酔っぱらって名前も知らん女と寝て、刺されそうになったり……」

AKIO:「はいはい、それすごく気になるけどこの辺にしておきましょう(笑)ちょっと濃すぎます(笑)」

東堂:「そうか?……まあええけど。AKIOはどうやねん?黒歴史。なんかあんの?」

AKIO:「黒歴史っていうとちょっと違うのかもしれないですけど……この前丁度そういう話になったんですよ。タイトルは【ひれーろ】って言うんですけどね」

東堂:「いや、タイトルって。某すべらない番組かよ」

AKIO:「まあ、すべるかすべらないかはともかくそんな感じです。話すと長いですけど大丈夫ですか?」

東堂:「お題『黒歴史』やし、ええよ、話しなよ」

AKIO:「そしたら話しますけど、――ええと、まず……この前、ひさびさに友達と飲みに行ったんですよ。高校の同級生で、今は全然違うことやってるんですけど、年に何回かはふらっと飲みに行く感じの友達で……」

東堂:「女か?」

AKIO:「いや男です。それで近況報告なんかして、仕事がどうとか、まあ最初はいつもの感じだったんですけど、途中でそいつんところにラインが来て、丁度今、友達が近くにいて、せっかくだからこっちに来て一緒に飲もうかってことになったんです」

東堂:「女か?」

AKIO:「いえ男です」

東堂:「なんだくだらん」

AKIO:「話が進まないんでやめてください(笑)それで、10分くらいしたらその友達の友達がきたんです。俺は初対面だったんですけど、入ってきたそのまま、斜め上45度から手をさし出されて『イエーイ!』みたいな感じのテンション高いやつで。あとで聞いたら年が7歳下で、まあ若いってことは素晴らしいなぁ……とか思ったわけです」

東堂:「めんどくせえヤツだな」

AKIO:「いや東堂さんだって、酔ってるときはわりと……」

東堂:「あん?」

AKIO:「いえいえなんでもありません(笑)――それで、そんな感じでそいつがきて、最初はテンションも高くてガツガツしてるし、初対面で結構年下にもかかわらず、いきなりタメ語だし、まあ失礼なやつだなって思ったんですよ。でも友達の友達だし、そんなもんかなとも思ってしばらくは我慢してたんです」

東堂:「俺なら手が出るな」

AKIO:「……かもしれません。俺も結構きてましたから(苦笑)しかも途中から、阪神の話題で二人だけで盛り上がりはじめて……さすがにこれは俺も、もう帰ろうかなと」

東堂:「お前、野球からっきしだもんな」

AKIO:「そうなんですよ。勝手に来といて、俺の全くわからない話題で盛り上がるとかいい加減にしろよ、と。それで手元にあったレモンサワー空けたら帰ろうか、と思ったあたりで、なんの拍子だったか大学の話になったんです」

東堂:「ほう」

AKIO:「そしたらなんと、そいつ俺と大学同じで。学部は違うんですけど、キャンパス同じだし。お互い一人暮らししてて、住んでた場所も結構近くに住んでたみたいなんです」

東堂:「ほー。じゃ、もしかしたら在学中にすれ違ったりしてんのか?」

AKIO:「いえ、そいつ7つ下なんで期間はかぶってないんですよ。だから会ったりはしてないはずです。ただ自動的にそいつ俺の『後輩』になるわけですけど、態度相変わらずで(笑)『同窓生イエーイ!(握手)』みたいな(笑)いや、いいんですけどね(笑)」

東堂:「(笑)」

AKIO:「それで、そいつが唐突に言い出したわけですよ、『AKIO、アレ知ってる?………」

東堂:「……ちょ待て(笑)お前、タメ語どころかいきなり呼び捨てなの?(笑)」

AKIO:「いやそうなんですよ、失礼なやつでしょ(笑)いやそれはまあ置いときましょう――そこでそいつが言ったんですよ、『AKIO、アレ知ってる?【ひれーろ】ってやつ』」

東堂:「おお、やっと出てきたな。そのひれーろとやらが」

AKIO:「……じゃ、いい引きなんで、ここで一回CMいっときましょーか?」

東堂:「この番組には間にCMはねぇよ!(笑)もったいぶんな。はやく続きを話せ」

AKIO:「あ、そうですかー?(笑)じゃあ続けますけど、――結論から言うと、【ひれーろ】ってのは俺のことなんですよ」

東堂:「……は?」

AKIO:「あだ名【ひれーろ】でしたから。2年くらい呼ばれてました」

東堂:「いや、だって全然かぶってないんやろ?在学期間?なんで知っとんの?」

AKIO:「いや、どうもこれがですね。そいつの入ってたサークルがあって、それ俺が入ってたのとは全然別のサークルなんですけど、どうもそこの先輩が語り継いでいるらしくって」

東堂:「なにそれ(笑)レジェンドじゃん(笑)」

AKIO:「そうなんですよ、もはやレジェンド(笑)しかもその友達の友達の失礼なそいつなんですけど、俺がレジェンドだってわかった途端『いやマジっすか!?え……AKIOさん!?いやまじ会いたかったっす!』とか敬語まで使いだして」

東堂:「今さっき呼び捨てだったのに(笑)」

AKIO:「手のひら返しヤバイでしょ(笑)しかも、明らかにソワソワしだして、言葉もしどろもどろだし、『憧れの芸能人に初対面!』みたいになってるんですよ」

東堂:「相手AKIOなのに?(笑)」

AKIO:「ええ、AKIOなのに(笑)そりゃ俺だって相手がチバ ユウスケですとかなら全然わかるんですよ。しどろもどろでまともに話しかけらんないと思います。でも相手俺ですからね(笑)」

東堂:「ついさっきまで『同窓生ポンポーン!』とか言ってたのに」

AKIO:「いや言ってない言ってないから(笑)ノリはそんな感じですけど勝手に混ぜないでください(笑)」

東堂:「で、ひれーろ君はどうしたわけ?」

AKIO:「あだ名の適応はやっ!(笑)俺の黒歴史なんだと思ってるんですか。まあ別に悪い気もしないんで、『どうもどうも、俺がひれーろです』とか言っっちゃって。握手してくださいとかいうから、がっちり握手してやりましたよ」

東堂:「いや初っ端から握手してるからな。斜め45度からしてるから」

AKIO:「なかなか面と向かって褒められることってないじゃないですか。だからたまには天狗になるようなこともあっていいかなって思うんですよ」

東堂:「ああそう」

AKIO:「結局、飲み代払ってもらっちゃったりでレジェンドも悪くないなって」

東堂:「おまっ……それはちょっと乗っかりすぎじゃねぇ?……ってか、肝心のひれーろが何にもわかんねぇんだけど」

AKIO:「あー……そうですよね。じゃあCMあけに……」

東堂:「はよ話せや」

AKIO:「すいません(笑)いやホントそれはたいした話じゃないんですよ。その大学の近くに学生御用達の定食屋があったんですよ。それで、俺が1年生の時で、先輩とかと一緒に6人くらいでその店に行ったんです」

東堂:「ちなみにその中に……」

AKIO:「いないから!この話に女性は一人も出てこないから(笑)で、学生御用達なんで、よくありがちな感じで、こう……デカ盛りが売りの店なんです。特にチキンカツ定食が有名で、デカ盛りのメニューの中でもひときわ大きくて、俺らの中でも人気がありました。チキンを二枚重ねにしてるんですよ。タバコ並べても遜色ない厚さで……定食なんで、ご飯とか小鉢もついてくるし、このご飯がまた『にほんむかしばなし』かってくらいの山盛りで……」

東堂:「いや、チキンカツのことはええんやって」

AKIO:「話、戻します(笑)その日は俺、なんでかどれにするか決められなくて、しばらくしたら店員さん来ちゃったんで、じゃもう注文するか!って流れになったんです。俺も土壇場で決めればいいやって感じだったんで、そのまま先輩とかが注文してるのを順に聞いてたんです。でも、いざ自分の注文を言うときが近づいても、ちっとも決まらない。これはヤバイ、と思ってるうちに順番来ちゃうわけです、『はい次、君は?』と」

東堂:「おお」

AKIO:「焦って頭も回らないし、目についたやつでいいやとばかりに、勢い込んで言うわけです。『【ひれーろ】カツ定食でお願いします!』と」

東堂:「ついにっ……」

AKIO:「……これね、言った瞬間のその空気をお伝え出来ないのが悲しい限りなんですけど、まず店員さんがポカーンとしている。で、周りの先輩とか友達も同じようにポカーン。こう漫画によくある『・・・・』みたいなやつがほんとに見えました。時間止まりましたから。ザ・ワールドですザ・ワールド。いやなんなら略して「ザワ……ザワ……」でも……あ、それはちょっと違うな」

東堂:「ちょ、まてまて。ん?結局なんなんや?そのひれーろって」

AKIO:「いやーそこのメニューは横書きで、いくつか定食が並んでるんですけど、上から3番目くらいに並んでるメニューが、その、『ヒレ一口(ひれひとくち)カツ定食』ってヤツでして……。これがまあその、見えてしまったわけです【ひれーろ】に」

東堂:「……はぁ」

AKIO:「しだいに時が動き出して、みんな何が起こったか気が付くわけです。正直これ、捧腹絶倒とかなら全然よかったんですけど、人間あまりにもくだらないことに直面すると恐怖を誘発するみたいで。その場の空気が急にヒヤッとしましたね……。ありがたいことに、その場は先輩とかにいじられ難を逃れ、その話が他サークルにまで流れ、勝手に語り継がれていくこと数年。今ここにレジェンドとして生まれ変わった、というわけですねー……いやー感慨深い」

東堂:「――AKIO。お前、そのくだらない話で、俺に4000字も付き合わせたのかよ」

AKIO:「肉厚なカツだけに、(書き)あがる(揚がる)のに時間がかかりましたね。――お後がよろしいようで」

東堂:「よろしくねぇよ!」


(おしまい)


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