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まな板の上の妄想【ショートショート】【#4】

不定期だけれど、ずっとnoteを書いている。

週に数回書く時もあれば、1、2週間開いてしまうこともある。けれど「書くこと」はいつも僕の頭の片隅にあって、それが貯まったタイミングでnoteを書いてきた。

だいたいはその時の思ったこととか、気になる女の子の話を書いたりする。noteには知り合いはおろか、フォローも数える程度しかいない。フォローしてくれた人がどんな思いでフォローしてくれたのかはわからないけれど、顔も本名もわからない数人がいてもいなくても同じようなものだ。

その子のことは、最初に見たときから気になっていた。

大学の同じクラスの女の子。あまり明るいタイプではなくて、しゃべったことは1度だけ。それも事務的で取るに足らない内容だったと思う。仲のいい友達が一人いるようだけれど、最近あまり学校にも来ていないようで、一人で本を読んでいるのを見かける。

コミュ力の高いヤツなら、ここぞとばかりに声でも掛けに行って仲良くなるのだろう。でも、コンビニのバイトでも日々「もっと元気よくっ!」と店長にどやされているような根暗な僕には、もちろん声を掛けるなんて出来っこない。

そんな悶々とした気持ちのはけ口がこのnoteだ。

毎日彼女を見かけれるわけじゃないし、率直に「今、好きな子がいます!」なんて恥ずかしくて書けない。昨日見たあの子の姿を、先週見たあの子の姿を、少しづつ思い出して練り直して「現実がほんの少し、後の大半は妄想」のちょっとした小説のような形にして発信する。

傍から見たら気持ち悪くて、ストーカーの一歩手前のような、そんなことを続けている。

noteの彼女は大抵優しい。

落ち込んでいたら話を聞いてくれるし、時間を持て余していたら本を貸してくれる。たまたま彼女が読んでいた小説のタイトルが見えたことがあったから、貸してくれるのはいつもその本。
彼女とよく話すのは、食堂の横の陽当たりの良い階段の二段目。そこは彼女のお気に入りの場所で、良くその場所で本を読みながら一緒にお弁当を食べる。

noteの彼女はたまに厳しい。

夜なべして映画を見た翌日、1限サボってしまったときや、課題をすっかり忘れてしまった時なんかはきつく絞られた。お父さんお母さんが大切な息子のためにお金を払って大学に通わせてもらっているのに、この親不孝もの!なんて。聞いたこともない大きな声だった。
家庭環境が複雑な彼女からすれば、両親を大切にしないなんて考えられないのだろう。あの時は謝ってもなかなか許してもらえなかった。

noteの中で僕たちは付き合っていない。でも僕が彼女を好きな気持ちは全く隠れていない。そんな友達以上恋人未満とでもいうべき状態を好きなように書き連ねる。

いつしか、現実と妄想の垣根は低くなり、自分でもよくわからなくなったあたりで、現実の彼女と目があった。

今日はたまたま授業が一緒だったようだ。普段なんの絡みもない僕と彼女に何かあるはずもない。だがその日、彼女は何か言いたげな顔をしてゆっくりと近づいてきた。そして小さな声で言ったのだ。

「note見てるよ」

頭の中が真っ白で、その後しばらく何を話したのだか全く覚えていない。気がついたときには、もう日が落ちて暗くなっていたから、数時間はたったのだろう。電車口で別れを告げる彼女を「やっぱりかわいいな」と思い返したのはベットに入って一息ついてからだった。

そのあたりの経緯は恥ずかしいのでここに記すことはない。

というよりも恥ずかしくて記すことができない。何せ勝手気ままな妄想を、その妄想の対象にすべてを握られていたのだ。首を洗ってまな板の上にうつぶせになっているようなものだった。そんな状態で平静を保てる方がどうかしている。だから何も語ることはない。

でも。

せっかくなので一つだけ。明日、二人で映画に行ってきます。今度は妄想じゃない。これは僕の「noteでよかったこと」。



#小説 #創作 #noteでよかったこと #恋愛 #学生 #ショートショート

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