退職代行の会社【ショートショート】【#42】

俺の働く会社は退職代行を請け負っている会社だ。

昨今の若い奴らは、それまで働いていた会社に面と向かって「辞めます」というそれだけのことさえできない連中が増えており、そんなやつらを食い物にするのが、俺の仕事というわけだ。

引継ぎ資料の作成から始まり、退職の連絡や、その後の書類のやり取りまで含めてすべてこちらで代行し、本人が会社と連絡を取る必要は一切ない。有給が残っていればその分の消化もできるし、特典で司法書士監修の退職届に、転職のサポートまでついて3万円のぽっきり価格。
高いとみるか安いとみるかはそいつ次第だろう。だが注文が引きをきらないこの現状を見るに、安いと思うやつらが多いようだ。

「うわ、またLINEきたよ」
「こんな夜更けにご苦労様ですね」

通知音が鳴った時間は明け方の5時。うちでは24時間LINEで代行受付を行っており、深夜や明け方にLINEがあることも珍しくない。次の日会社に行くのが苦痛で、夜通し悩んだあげく、明け方に連絡してくるのだろう。

退職代行というと、やくざな仕事だと思われそうだが、実際には本人が「辞める」といった場合にそれを止める権利など会社にはない。結果、代行業者が行うとはいえ、手続きはほとんど事務的で通過儀礼的なものにすぎず、誰がやってもできるものだ。つまりおいしい仕事なのだ。

「また建設業ですか?」
「だな。古い体質の会社が多いし、結局上の方がわかってねーんだよな。お前らがのさばってた時代はもう終わったんだってことを。老害だよ老害」
「いつまでですか?」
「週末には辞めたいってよ」
「今日は……もう木曜日なんで、そうすると結構バタバタしますね」
「おー三浦、お前頼むわ。ここに連絡先あるからよろしく」
「あの僕、明日休みなんですけど……」
「あ?いいだろ?どうせちょっと連絡して書類作るくらいだろ」
「はぁ……」
「じゃよろしくな」

そう言って俺はまたケータイでゲームを始めた。寝られたら困るのは会社なのだから、このくらいは許されるべきだ。「お疲れ様でした」と言葉を残し三浦は朝方退社していき、9時近くなって他の社員も出社してきた。今日の俺の勤務は昼前まで。あと一息だ。

その時、電話が鳴り響いた。

さあ次はどこの馬鹿が金を落としてくれるのか。ダメな奴のいるダメな企業はどこだろう。そんな底意地の悪い気持ちで電話を取った。

「おはようございます。退職代行サービスを行っている『〇〇株式会社』と申します。御社に勤務されている三浦様が、退職の申し出をするそうです。退職届等は後程お送りさせていただきます……」



#掌編小説 #退職代行 #小説 #短編小説 #一駅ぶんのおどろき #ショートショート

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)