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赤くなるメガネ【ショートショートショート】【#149】

 『生態メガネ』が発売されたのは半年前のこと。
 かけている人のバイタルデータを読みとり、形状や硬さだけでなく、度数や色までも自動的に変わる。その完ぺきな装着感がうけ、爆発的に流行した。
 いつだったか、マスコミがこのメガネには重大な欠点があるとか報道してから、このメガネをやめた人もいるようだけれど、ズボラな俺のような人間にとってはもはやなくてはならない日々の必需品だ。とくに欠陥を感じたこともない。
 お風呂に入るときや、寝るときも外す必要がなく、もはや体の一部分といってもいい。バイオ技術もここまできたか……と勝手な感傷にひたるばかりだ。

「おはようございます」

 昨日、あまり眠れなかったせいで俺は半分寝ぼけていた。声を掛けられたとき、相手が誰かも確認せずにぶっきらぼうに「おはよう」と返事をかえした。

「今日はメガネの色、違うんですね。いつもは赤いのに今日は黒色。気分転換ですか?」

 その時、俺ははじめて気がついた。声をかけてくれたのは同じ部署の後輩の女の子だ。そして最近、俺が気になっている子でもある。

「いや……そうだね、気分転換かな。たまにはいいもんだよ」

 色を変えた覚えはなかったけれど、へらへらしながら俺は適当に答えた。今日もかわいいな。朝から話せて幸先もいい。今度、食事に誘ってみようかな。この明るい性格がいいんだよな……。表向きは平静を装いながらも、内心ではそんなことを考えてデレデレしていた。――そんな俺に彼女は言った。

「――あれ、でもメガネの色が……だんだん変わって……。あ、いつもの赤になりましたね! 不思議なメガネですね。どういう仕組みなんでしょうねー」

 次の日、俺はメガネを買いに行った。普通の、赤いメガネを。


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「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)