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狙われた電話ボックス【ショートショート】【#129】

「じゃあ、……おたくのやってるその協会についてもう一度聞かせてもらってもいいかな?」

 ここは警察の取り調べ室だ。その刑事は椅子に斜めに座り、けだるそうにファイルをめくっていた。

「ええ、いいでしょう。私が代表をしているのは『公衆電話保存協会』といいます。その名の通り、公衆電話の保存を主目的としている団体です」

「はぁ……公衆電話の保存ね。しかし公衆電話なんて今どきほとんど見かけないでしょ?」

「――だからですよ! 公衆電話は1984年93万台をピークに数を減らし、2040年の現在では日本にもう5000台しかありません。電話ボックスに限れば、わずかに100台程度しか残されていないんです! 今、保護しないでいつ保護するんですか!」

 ケータイ電話の普及と反比例して公衆電話はその数を減らした。当初、社会インフラとして一定数を確保するように規定されていたが、需要のなさに対応する形で法律も変わってしまった。現在では大半がごく限られた役所のような場所にあるばかり。壊れたものから回収されるのを待っているだけの状態だった。
 刑事は手に持ったボールペンで頭をかきながら聞いた。

「しかし……別にNTTの職員だとかいうわけじゃなくて、単なる任意団体なんでしょ? おたくら。いったいなんの活動してるのよ?」

「おお神よ! お許しください。その会社の名は……軽々しく言葉にするのもはばかられます。彼らはまさに公衆電話界の『神』そのもの。職員だなんて恐れ多い話! 誤解なきようお願いしたい!」

 男は大げさに天をあおぎながら続けた。

「とにかく、あなたのおっしゃるように我々は根なし草の、吹けば飛ぶような弱小任意団体です。公衆電話の場所の把握、確認。その清掃などが主な活動になります。あとは……、まだまだ使用できるのに理不尽に撤去される予定の公衆電話があれば、その引き続きの使用の嘆願に動いたりもいたします。それに、――ごくまれですが実力行使……つまりストライキなどを行う場合もあります」

「ほう、ストライキ。それはまた活発な話だね。――ところでいい加減、今日ここに来てもらった理由を説明しようか。最近ね、ケータイを盗難される事件が多発してるんだよね。それも、これが不思議なことに、近くに電話ボックスがある地域で頻発しているようなんだよね」

 刑事は男の反応をうかがうようにじろりとにらみつける。男は特段、なんの反応も見せず、平然と答えた。

「だからなんだというのですか?」

「いやね、これは私の勝手な想像だけどさ。ほら、おたくら電話ボックスとかを保護したいわけでしょ? ……となると一番の敵はもちろんケータイなわけだよね? その上さ、電話ボックスの近くに住む人がケータイをなくせば、――困って電話ボックスを使うことは増えるよね? そうすれば電話ボックスの需要もあがるのかなって……」

 男はヒザをたたき、大きな声で笑った。

「刑事さんは想像力豊かですね。だからといって私が犯人だと? なにか証拠でもあるというのですか?」

「いや、――残念ながら証拠はない」

「であれば本当に勝手な想像ということですよね。そんな勝手な想像に付きあわされる方の身にもなってください。世の中にはもっと捕まえるべき悪い人は沢山いるでしょう。刑事さん……もっと世のため人のために働いてくださいよ」

「なるほど、そうかい。じゃあ仕方ないねぇ」

 刑事は椅子からゆっくり立ち上がりドアへ向かう。そしてドアノブをつかみながら、こちらを振り返り、男に告げた。

「あぁそうそう。あんたはもちろん知らないと思うけれど、ケータイを盗られた被害者の男性の中に60代の男性が居てね。彼は会社の役員をしていて、勤務先はNT……」

「――私がやりました!! 本当に申し訳ありませんでした!!!」

 態度が急変した男はその後、数百件に及ぶケータイ盗難を自白。その場で逮捕されることになった。



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