かつおと昆布と出汁の地域性の話 Vol.2【好まれるかつお節の違い】
Vol.1では【好まれる昆布の違い】について書きました。(こちら)
昆布は北前船の発達により、一気に昆布が広まっていきました。
その時に、地域によって好んで使われる昆布に違いが生まれました。
ではかつお節は?
いつから使われるようになったのか。
どの地域でどのようなものが好まれているのか。
そして、かつお節問屋であるうちでは、どのようにしてお客様に提供しているのかについて書いていきます。
1. 好まれるかつお節と出汁
前回の昆布と同じように、『大阪』『京都』『東京』と3つにざっくりわけます。
それぞれの土地で好んで使われている昆布の種類が違っていることや好まれているだしの傾向は説明しましたが、ではかつお節はどのようなものを提供しているのかと言いますと…
【大阪】
真昆布主体の甘味のあるまろやかな出汁が好まれるので、かつお節の出汁は繊細な味と香りであること。かつお節はあくまでも昆布の引き立て役であり、香りが強すぎると邪魔になるので『香りが弱めに仕上がる節』を選び、仕立てる。
【京都】
軟水で利尻昆布を使い、水を活かした淡い出汁だけれども、出汁としての旨味をしっかり持たせるため、味にやや厚みのある出汁が引けるかつお節を選ぶ。
しかし、甘味よりもやや塩気の立つ利尻昆布とのバランスを考えると、かつおの旨味が強すぎてもいけない。
お店によって『香りを立たせたいところと控えめにしたいところと、好みが別れる』のでそれに合わせて仕立てを変える。
また、まぐろ節(シビ)も好んで使われているので、節はかつお節単体かまぐろ節と合わせるのかで選ぶ節も少し質を変える。
【東京】
昆布に支えられた、かつお節の力強い味わいと香りを好む関東の出汁は、しっかりと味の厚みがある節を選ぶ。そのため、魚体の大きなかつお節を選ぶことが多い。
かつお節だけでも出汁が成り立つような、芯の太い旨味を持った節を、時間をかけて熟成させて仕立てる。
『香りの立つ』出汁が引ける節が好まれている。
昆布は複数の種類があり、それによる味の違いや特徴がありますが、かつお節は分けても「荒節」「枯節」(違いはこちらの記事をご覧ください)という製造方法の違いと、もう一つ、『本節』と『亀節』という魚体サイズによる切り方の違いで分かれます。
(本節と亀節の違いについては、また今後書いていきます。)
が、あくまでも かつお節 なのです。
鰹という魚で作った節だけなので、上記のような違いは全て魚質によって仕分けています。
2. なぜ好まれるかつお節が違うのか
この違いは、初めからあったというよりも、食文化の違いから徐々に好まれるものが定まっていき、固定化したのでは?と考えられます。
初めからかつおと昆布の合わせ出汁を使っていたわけではなく、しかもそれを潤沢に使える人は限られていました。
現に、江戸の町では基本的にかつお節だけを使っていたことから、単体でも充分に味の立つ節を好まれていたというのは、充分に納得のいく話ではないでしょうか。
大坂が、昆布単体で充分な出汁になるものとして真昆布を好まれていたのと同じように、江戸もかつお一本なのです。
徐々に一般の生活に入り込むようになった他の出汁素材が、ベースとなる出汁の味を邪魔しないような使い方になるとすれば、その使う量や好まれる味に違いが出ますし、売れるものがおのずと分かれてきたのではないかと考えられます。
(↓ 築地名物?まぐろ焼。中身はツナではなくあんこです。)
締. 出汁が料理の味をきめている
各地の時代背景によって、それぞれの文化が育まれ、食に違いができ、出汁にも差異が生まれました。
ごくごくわずかな違いですが、最後の味に大きな影響を与えています。
日本料理のメインディッシュであるお椀ですが、なぜこれがメインディッシュなのかということも、こういった事を知ると少しだけわかるのではないでしょうか。
出汁一つで、料理の味全体が変わるのです。
そして、それが地域性や「らしさ」というものも表すのです。
知っているようで、実は知らない奥の深いもの、それが出汁です。
たまには、ちょっとだけ手間をかけて出汁を引いて、色んな地域のお料理を作ってみるのも良いのではないでしょうか。
文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。