憎みたくて憎んだわけじゃない(果てしのない世界め/少年アヤ)

それに気付いたのは、いつだったろう。


家族が、血がつながっているだけの他人であることを。


自分のことを理解してもらうことは、できないことを。
(そして、家族を理解することもできないことを。)


「変な子」
「おかしな子」
「みっともない子」


自分がうれしかったことを報告しても、それが何らかの功績を上げたとかじゃなければ、「だから何?」と一蹴される日々。

ぼくにとって意味がなくても、世間にはとっくに意味が用意されていたのだ。

――『祖父の棺』p13-14より引用

『果てしのない世界』のこの一節を読んだとき、まっ先に思い出したのがそんな日々だった。

僕は、普通に生きていただけなのに。それが両親にとって普通じゃなかったことに気付くまで、20年以上かかった。


「死んでしまおう」と何度考えたんだろう。何度実行しようとしたんだろう。そして、何で必ず邪魔が入ったんだろう。


どうして、死なせてくれないの。
普通になれないなら死なせてよ。


けれど、意味はちゃんと用意されていた。僕が僕でいることを良しとしてくれるパートナーに出会ったのだ。


僕は、家族を手に入れたと思った。そのままの自分を愛してくれる人が現れたと。両親から与えられているはずの愛を無下にして。


パートナーと日々を過ごす度、僕は僕でいることを否定してきた両親を憎むようになった。よくわからない後ろめたさを背負いながら。

「生きてくことって、罰みたい。私もじきに受けるんだよね、その罰」

――『櫻子』p40より引用

僕は、ずっと両親に怯えていた。そして、同時に期待していた。いつか、そのままの僕を愛してくれるんじゃないかって。


けれど、それは徒労に終わった。


僕は、障害者です。
僕は、うつ病です。
僕は、男なのか女なのかわかりません……。


自分のことを語る度、両親を傷付けていることを知った。結局、両親とは距離を置くことになった。


僕は、愛されたかっただけなのに。憎みたくて憎んだわけじゃないのに。


けれど、それは両親も同じなんだろう。僕と同じように苦しんで、涙を流したのかもしれない。でも、「自分もずっと苦しかったんだから」と両親を許せずにいる。

みんな、同じなのだろうか。ただ、愛されたいだけなんだろうか。

――『みかげ』p139より引用

僕は、将来のことを考える。両親の介護なんか、したくない。葬儀にだって、行くもんか。


でも、いつか許すことができるんだろうか。普通じゃない僕を否定せずにいられなかった両親を。両親を憎まずにいられなかった自分を。


『果てしのない世界め』は、僕にそう思わせてくれた。


先のことは、まだわからない。


けれど、そうであることを願う。


果てしのないこの世界に、一筋でも光が射すことを。


いつか。

10/21更新

果てしのない世界め/少年アヤ(2016年)

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