植岡藍

本を読んで整理整頓する。

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最近の記事

ユーモアと優しさ 消え失せた密画

「ふたりのロッテ」を読んでいた時、その映像的な文章に驚いたのだけど、あとがきを読むと実際映画の脚本として書かれていたことがわかりいたく納得してしまった。そして今回読んだ「消え失せた密画」も、映像化の相性が良さそうな作品である。もちろん派手なCGや映像のインパクトを競うような昨今の映画界では地味な作品になってしまいそうだけど、もし過去の巨匠が撮っていてくれたら……そんなことを夢想したくなる。私個人としては、ビリー・ワイルダーこそふさわしいと思うのだけど、サスペンス味を強調するな

    • 日常への賛歌 エーミールと探偵たち

      たまに岩波少年文庫を読みたくなることがある。本当は子どもの頃に読んでおけば良かったのだけど、残念ながらほとんど触れることのない子ども時代を送ってしまった。子ども時代に読んでいたらもっと豊かな幼年時代、そしてその後を送れていたのではないかという期待と、多くを読み落としていたかもしれないという疑念がある。いずれにしろ過去に読むことがなかったのが事実であり、その時点で私には手に取るだけの感性がなかったということだ。しかし、こうして子ども時代に思いを馳せながら読むというのも一つの楽し

      • イヤミスの古典 「ABC殺人事件」

        「まったく、ポアロ」わたしは言った。「その言葉を聞いたら誰だって、あなたがリッツ・ホテルでディナーを注文しているところだと思うでしょうね」 「ところが犯罪は注文することができない?たしかに」 ー「ABC殺人事件(早川書房 堀内静子訳)」 名高い「ABC殺人事件」。中学生の頃に読んで衝撃を受けつつも、どこかスッキリしない後味の記憶があった。今回久々に読んでみて、その後味の正体がわかった。 「ABC殺人事件」は、今日で言う「イヤミス」なのだ。 おそらく10年ほど前からイヤミ

        • 狂気と冷気 アンナ・カヴァンの「氷」

          アンナ・カヴァンの「氷」を読んだ。 めちゃくちゃ面白かった。 このめちゃくちゃ面白い、というのは「とても」とか「非常に」とかそういう意味でもあるのだけど「破天荒に」とか「支離滅裂に」という意味のめちゃくちゃでもある。混沌とした思考の濁流が押し寄せ飲み込み、凄まじい速度で流れていくような、そんな読書体験だった。 最初から最後まで一体何が起こっているのか全くわからない。迫りくる氷、世界の終末、アルビノの少女、謎めいた長官、そして狂気的な主人公という魅力的なイメージがアクセル全

        ユーモアと優しさ 消え失せた密画

          レトリックの快楽

          「ロリータ」を読んだ。 この小説がロリータという言葉を生み出したということぐらいのことは知っていても、内容についてはほとんど何も知らなかった。しかし先日ネットでこの「ロリータ」について書かれたブログを読んで興味が湧いたのだった。 主人公は反吐が出るようなサイコパス、読者は主人公に嫌悪感や怒りを感じながら読み進める、その不快感に脱落する読者も多い。というような事が書かれていて、そうか、それは一体どれほどのものなんだ?という薄暗い期待と気色の悪い好奇心で、「ロリータ」を手に取っ

          レトリックの快楽