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#30 ”ヨハク”と”ヨユウ”、どっちが好き?

「”縄文土器”、”弥生土器”どっちが好き? どっちも土器。」という唄がありましたが、「”余白”と”余裕”どっちが好き?」と聞かれれば、今は”余白”が好きと答えます。

 学生時代に最初に買ったプリンター。感動しました。家で計算結果が紙に印刷できるとは!今なら当たり前ですが、昔、電子計算機と呼ばれる高価な機械があったころ(まだInformation Business Machineという言葉がカッコ良かったころ)、プリンタを家で使えるのはかなり金銭的”余裕”がないと難しかったです。バイトしてNEC PC9801VM-2とプリンタを合計50万円ほどで買った32年前の自分は”有頂天”でした。早速自宅に帰って印刷しようとしたら、うまく印字できません。取扱説明書を読むと、「marginを適当に設定していください。」という文字が。(何これ?)と思って英語の辞書を引くと、”余裕”と書いてあります。プリンタに余裕とは? 「ヨーユゥーかい そんな言葉?」 聞いたことがありません。他の意味を探すと、”余白”とあり、なるほどと思いました。

 前回、ゴリラの目の余白(しろめ)のことを書きました。余白は、実はとても大事なのです。たまたま、プロの演奏家の方がアマチュア楽団に指導をされている場面を少し拝見する機会がありました。その時、しきりに言われていたのが、周りの音を聞いて「きれいなハーモニーください」。そしてもう一つが、「音符のないところも、作曲家の”音符”です。ピタッと合わせて、”余白”作ってください。」でした。

 美術館で絵を見るのが趣味になってから、特に気にしているのは,絵の構図と余白の扱い方です。キャンバスの向かい合う隅(頂点)から対角線を引き、残りの頂点から対角線へ垂直な線を引いた時の交点が、”大切な点”になります。ここに、絵の中で何か”ピタっ”と置いてあると、落ち着きのある構図になります。これは、カメラを最初に買ったとき読んだ撮影の入門書にありました。テレビや映画の撮影フレーム、印刷物、絵画、ほとんどこのルールをみたしていて、”いい構図だなぁー”となります。(わざとずらして、計算したアンバランスもあります。音楽でいえば、現代音楽のような”計算された不協和音”です。)

 もう一つの余白。これは言うまでもなく、書いたものを引き立てるために必要な”間”(ま)あるいは”スペース”(空間)です。一見すると”空っぽ”で何もないようですが、これが構図を引き立てます。”静”と”動”と同じです。野球のピッチャーが時速150kmでピッチングし続けたらヒットを打たれて降板しますが、もし全く同じフォームで時速90kmと時速130kmでピッチングしたら、そう簡単にヒットは打たれないはずです。人は、変化(微分)で信号を処理することが多いので、予測していた通りの信号に対しては予め対応できます.しかし,変化のある信号に対しては”見た目以上”の変化で対応できないことがあります。絵画でいえば、色があるところと無いところの”リズム”が動きを感じさせます。まさに、音楽でいうところの”休符”のようなものが余白です。(人間は、もう一つ対数的に信号を検知する”フェヒナーの法則”で感覚器官からの信号に対応しています。エネルギーの大きさと一緒に用いられるdB”デシベル”の違いに応じることで、広い範囲の変化にも”メーターが振り切れず”に対応できています。エラィッ!)

 「余裕」と聞いて、悪い気はしません。むしろ、何にでも対応できそうで,ウラヤマシイ気がします。一方,「余白」と聞くと、以前は「空っぽ」と思いサボっている気がしていました。でも今は、どちらも同じくらい大切だと思っています。普段の生活で、”margin”をどれだけ持てるかが”豊かさ”につながる気がします。あのプリンタのマニュアルは、ずい分前に手元にありませんが、あの日初めてプリンタから印刷された計算結果は、「ギィー、ギィー」とドットインパクト・プリンタのあの”うるさい”印字音とともに記憶に”印字”されています。「おーぉ、すぅごぉーい。円がちゃんと、真ん丸に印刷できてる!!」と、生れてはじめて自宅で計算した円の軌跡を紙に印刷して喜んでいた自分がいました。当然、黒色一色で、印刷された用紙には「余白」がタップリありました。 お後がよろしいようで。

(写真 赤目四十八滝 https://photo.mie-eetoko.com/photo/221)