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勉強しなくていい家【ショートショート小説】

少年Nは中学に上がると同時に、父親から驚くべき指示を受けた。「勉強は一切しなくていいから、好きなことをしなさい」と告げられたのだ。少年Nは戸惑いつつも、ラッキーだと思い、ゲームやマンガに没頭する日々を送ることにした。

毎日が天国のようだった。宿題もテスト勉強も気にせず、少年Nは友達と遊びに行き、夜更かししてゲームを楽しんだ。親からは一切の叱責もなく、むしろ「好きなことをしなさい」と繰り返されるだけだった。少年Nはその状況にどっぷりと浸り、楽しい毎日を過ごしていた。

しかし、中学二年生のある日、友達と一緒に遊んでいるときに、突然テスト勉強の話題が出た。来週のテストに向けて友達がどんな勉強をしているかを話し合い始めたのだ。少年Nは会話についていけず、何も言えなくなった。その場はなんとかごまかしたが、心の中に違和感が残った。

テストの結果が返ってきたときも、予想通りの低い点数だった。しかし、親は何も言わず、むしろ「次は頑張らなくてもいいよ」と微笑むだけだった。少年Nは一瞬ホッとしたが、次第にその態度に居心地の悪さを感じ始めた。

ある日、少年Nは家に帰り、暇つぶしにリビングの本棚を漁ってみた。そこで目に入ったのは、「漫画で分かる世界の歴史」と書かれた本だった。特に興味はなかったが、なんとなく手に取ってページをめくると、意外にも面白い内容だった。少年Nはそのまま読み進め、気がつけば一時間が過ぎていた。

次の日も、その次の日も、少年Nはその本を読み続けた。そしてある時、ふと別の本に目が留まった。「科学の不思議」と題された本だ。少年Nは試しに数ページを読んでみると、その内容の面白さに夢中になった。これまで避けてきた知識の世界が、突然興味深いものに変わったのだ。

少年Nは自ら進んで本を読むようになった。ゲームは数本しかないが親の趣味か本は多くある家だった。少年Nは次々と手に取り、読みふけった。親はそんな少年Nの変化を静かに見守っていた。

少年Nは本を読む習慣がつくにつれ、学校の成績も徐々に向上していった。友達との会話にもついていけるようになり、知識を得る楽しさを感じるようになった。そんなある日、少年Nは家に帰って、たまたま目に入った別の本に手を伸ばし、また新たな興味を見つけていくのである。


その夜、少年Nが寝静まった後、両親はリビングで静かに話し合った。
「今日は新しい本に夢中になってたね」と父親が言うと、母親は微笑んで頷いた。「ええ、やっぱり興味を引くことが大事だったのね。」

「勉強するなと言った直後は、正直ダメだったかもと思ったが、、、」と父親が続けると、母親は「私も最初はあなたの案に驚いたけど、結果的に自分から知識を求めるようになってよかったわ。でも本棚に会えて背表紙の濃い色で歴史本を置いたのは正解だったわね」と返した。

親同士の会話は続き、少年Nが自ら学び始めたことに安堵と喜びを感じる二人の姿があった。

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