SCM 実話 桜庭支配人の現場一直線  第十話

・見捨てられた顧客と見捨てられた名簿

結婚式の営業といっても、営業ミーティングに参加して思うことは、どこから結婚式をやるカップルの情報をつかんでくるのか、桜庭にとっては雲をつかむような話でならなかった。
そもそも、結婚を考えているカップルが、自分たちがそろそろ結婚する、という事自体を始めは他人には絶対公表しないのに、その情報をどこに訪問してもらっていているのか、不思議だった。
これは、もしかしたら世界で一番難しい営業でないのか、そんな勝手な定義をつけ始めて、桜庭は
「いかん、また自分の悪い癖が出てきた。出来ない理由さがしを始めてしまった。」
と今回は気がつくことができた。
 しかし 他の営業マンは自分の持っている情報は絶対にくれそうにない。


そこで 鬼の後藤部長に相談した。
「今すぐに結婚式の契約を取るという営業は無理ですが
3ヶ月間は宴会の獲得の件数を伸ばして結婚式の組数分を補うということではダメですか。」
「3ヵ月後から、宴会の件数も取りながら、結婚式の契約も挙げさせていただきます。」

「出来なかったらどうするんですか。」
(、、、、そうきたか。さすがたたき上げの後藤部長だ)
「私がもう一度結婚式をここに申し込みます。」
「、、、、いいでしょう。」


どちらが支配人なのか分からないような圧力をかけられながら、「勢いのあるほうが勝つ」という有島副社長の指導を思い出し、ここはきっぱりと言い切って自分を追い込むしかないのだと腹をくくった。

とにかく 宴会でいいので営業をかける事となった桜庭は、早速石原マネージャーの助言に従って、その日の夜から宴会のサービスに入ると、主だった参加者にことごとく挨拶して回り、名刺を交換するだけでなく、石原マネージャーや他のスタッフたちにも手伝ってもらって、自分を宣伝してもらった。

名刺を交換しながら、ふと疑問を感じた桜庭は石原マネージャーに質問した。
「こうした宴会をするときに、申し込み台帳には幹事さんやら、企業の所在地が記載されて保管されているんじゃないんですか。?」
「そうですよ。台帳には10年前からのものが全部残ってますよ。」
「営業部のメンバーはどうしてその名簿を活用して挨拶回りしないんでしょうね。?」


「、、、、きっと 結婚式の情報とは関係が無いと思っているんじゃない?」
「もしかして、ここにきているアルバイトの学生たちの名簿も営業かけていいのかな?」
「支配人、そんなことしなくても、3ヶ月に一度くらいアルバイト全員集めて食事会やっているから、支配人も参加すればいいじゃないですか?」

石原マネージャーがさらに心配して釘をさしてきた。
「いっときますけどね 支配人 営業営業って言うけれど、今まで耕して仲良くしていたのは私たちなんですよ。分かってるんですか。無理やり申し込ませるようなやり方辞めてほしんですけど。」
さすが もと鬼のマネージャーだ。(少なくとも桜庭にとってはもう鬼ではなくなった)
人情の機微を良くわきまえている。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?