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計画運休のヒーロー

2018年9月30日、先輩の娘さんが出演されている演劇を観に行くために日暮里へ。この日は日曜日で舞台の千秋楽でもあり、先輩ご夫妻は13時開演の部を観覧し、私は昼間に別の用事があったため、17時開演の部を予約していました。

しかし当日が近付くにつれ、史上最大規模の台風が上陸するというニュースが日ごとに深刻さを増して行きます。そして9月30日正午過ぎ、JR東日本が首都圏の全路線の運行を午後8時以降取りやめると発表、小田急、西武、東急ほか私鉄も終電の繰り上げを発表し、首都圏では初めての計画運休が決定となりました。

私は普段めったに電車に乗らないのですが、よりによっての台風&計画運休。終演後に急いで電車に乗ったとしても、午後8時に電車が止まると最寄り駅まで間に合いません。先輩からは「無理しなくて良いよ」とご連絡を頂きましたが、先輩の娘さんの指名でチケットを手配してもらっているので、義理を欠くことはしたくありません。

そして予期せぬトラブルが起こった時の判断力の無能さは、昔から折り紙付きです。

そんな私が咄嗟に考えた最善策は、

『予約したチケットを購入後、人混みに紛れてそっと退出する』でした。

そうすれば不義理を働くこともなく、帰宅にも間に合います。劇場まで足を運びながら演劇が観られないのは残念この上ありませんが、今回ばかりは仕方が無いと思っていました。

しかし、私の浅知恵計画はあっけなく頓挫します。なんとお客さんがほとんど来ません。ロビーには私を含め数えるほどで、役者さん指名で取り置かれたチケットが、まだたくさん受付のテーブルに残っています。

それもそのはず、会場は都内の狭い路地の中で、近くには駐車場も少なく、基本的には最寄り駅から徒歩で向かうような場所です。夜には電車が動かない事が分かっているのですから、今回ばかりは止む無く観覧を断念した方も多いと思います。

そんな状況では、チケットを買った私がそのまま帰ると余計に目立ってしまいます。指名してチケットを手配してもらっている手前、先輩の娘さんの顔に泥を塗るようなものです。結局、後のことは考えずに、純粋にお芝居を楽しむことにしました。

正義のヒーローと悪の総帥、それぞれの立場から見る世界と、やがて正義が悪の側に回り、また新たな正義のヒーローが現れて…というループに葛藤する主人公を描いた演劇に、感銘を受けました。

千秋楽のカーテンコールでは、足元の悪い中観覧に来てくれた観客席の一人ひとりにお礼の言葉を頂き、こちらこそ役者さん達に「ありがとう」という気持ちです。

終演後、会場を出てから走って駅に向かいました。途中駅で下りることになって翌日の朝刊配達に間に合わなくなったら大変です。夜8時の運休時刻までに1駅でも先に進んでおかなければなりません。

実は上京して間もない頃に、募金箱を持った人に声を掛けられるたびに募金していたら帰りの電車賃が無くなり、途中下車して6駅分歩いて帰った事があるのです(いつかこの話もnoteに書きます)。

電車に乗ってから知ったのですが「午後8時以降の運行を取りやめる」の意味は、それ以降の電車を運行しないという意味で、午後8時時点で走行中の電車は、終点まで運行するという意味だったそうで、無事に家に辿り着きました。

全ての原因となった平成30年台風第24号は、台風ごとの大雨指数と強風指数を数値化して比較する「台風インパクト指数」において現在も歴代1位、全国55地点で最大瞬間風速が観測史上最大を記録しました。

特にピークの時間帯と重なった朝刊配達では、通り道の大きな街路樹が、強風で根元から折れて通行出来なくなったり、家の軒先に吊り下がっている鎖状の雨樋が、カンフー映画のヌンチャクみたいに暴れ回り、危険過ぎて玄関ポストに近付けないなど、特に強く印象に残る1日だった事を覚えています。

最近の大雨は特定の地点に集中的に降り続き、毎年のように各地に甚大な被害をもたらしています。皆さんもどうか身の安全を第一に、大雨には十分に気を付けてお過ごし下さい。

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