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乗る予定のない電車に乗ってしまってパニックになった話

上京したばかりの頃は、電車で初めての場所に行く時にも経路を事前に下調べせずに、その場の判断と感覚で目的地に向かっていました。
それでも上りか下りか2分の1の確率で正しい方向の電車に当たるはずですが、私は何故か8割近く間違えてしまいます。

間違いに気が付いた時点で途中駅を降り、反対側ホームから引き返すという一見無駄な行動なのですが、なにぶん計画を立てるのが苦手、計画通りに動くのも苦手、それどころか多少のハプニングくらいは旅の醍醐味くらいに考えている性格のため、究極を言えば行き先も宿泊先もその場の思いつきで、というのが私の理想です。

しかし、自分一人だけならいざ知らず、誰かを連れて行くとなると、流石にそういう訳にもいきません。

長崎にいる母が2011年に東京へ来た時、私が羽田空港へ母を迎えに行って、親戚が集まる神奈川県の海老名駅へ向かうスケジュールになっていました。
前述の通り、私は間違える確率が高いので、この日ばかりは絶対に間違えないようにと、事前に乗り換え案内を調べました。

飛行機の到着時間から、実際に到着ロビーを出る時間を考慮し、空港から何時何分の電車に乗り、横浜駅から何番ホームで電車に乗り換え、海老名駅に何時何分に着く、と完璧にシミュレーションして臨んだはずでした。

母が乗った長崎発羽田行きの飛行機は、濃霧の影響により予定より1時間遅れで到着しました。それでも事前にルートは調べてあり、持ってきたメモ帳に書いてあるので安心です。

ひとまず京浜急行の羽田空港駅を出発しました。
普段の私は埼玉に住んでいて、羽田空港の往来には基本的に東京モノレールを使っています。
にも関わらず京急を選んだ理由は、まず私自身が神奈川県の土地勘に疎く、以前に神奈川方面の地理に詳しい人に付いて行った際に、京急や相鉄線を利用していた印象があった為です。しかし、それが失敗の元でした。

元々1時間遅れで空港を出ているので、すでに海老名に集まり始めている親戚から連絡が来ます。事情を説明して、先に会食を始めてもらうように伝えました。

横浜駅で相鉄線に乗り換えるはずが、下調べした所要時間を大幅に過ぎても一向に着く気配がありません。全く土地勘がないので通過する駅の名前を聞いても到着の見通しがつかず、少しずつ不安な様相を呈してきました。その間、母は色々と近況などを話してくれるのですが、隣りに居るはずのその声がだんだん遠くに感じるほど、嫌な予感は増幅していきます。そして…

こ「多分、違う電車に乗ってると思う」

母「そうなの?」

こ「ごめん、降りよう!」

…降りた場所は、京成八幡駅でした。千葉県でした。

何をどうして間違えたのか意味がわかりません。羽田空港駅は終点であり始点のはずです。いつもみたいに反対方向の電車に乗れるはずもありません。私一人の時ならば「旅の一興」で済ませるのですが、何もわからない母を案内するという責任があります。ここで私は完全にパニック状態になりました。

手元にはメモ帳があり、その通りに行けば海老名に着くことは解っています。しかしその為にはまず、もう一度羽田空港へ戻らなければなりません。1時間遅れどころか、このままでは確実に3時間遅れです。当時の私はスマホを持っていませんし、ホームの路線図を見ても知らない駅名ばかりで、パニックが重なり何も頭に入りません。その状態に加えて、すでに集まっている親戚から催促の電話が掛かってきます。

親戚「まだ来ないの~?」

こ「あと1時間くらいかな」

親戚「さっきもそう言ってなかった?」

こ「今向かってるから、会食が終わったらカラオケ始めちゃってて。後から合流する」

…もうダメだ、タクシーしかない。乗車賃が桁違いになることは解っていますが、もうこれから電車に乗って正しく目的地に辿り着ける自信が正直ありません。待たせている親戚みんなに申し訳なく、振り回してしまっている母に申し訳なく、遥か遠い目的地まで運転をお願いしたタクシーの運転手さんに申し訳なく、ずっと動悸が止まりませんでした。

これは後に調べてわかったのですが、京急の羽田空港駅からは横浜方面の他に、都営浅草線直通の成田空港方面行きの京成線が相互乗り入れをしているそうです。乗る時に確認しなかった私の落ち度ですが、もしも飛行機が予定の時間通りに着いていたら、メモ帳に書いてある横浜行きの京急線に乗れていたはずです。事前に下調べせずに間違えたのならまだ諦めもつきますが、細かく調べた上でこの有り様では、こんな私でもさすがに落ち込みます。

タクシーで横浜の近くまで来て、電話が来ました。

親戚「まだ来ないの~?」

こ「あと1時間くらいかな」

親戚「さっきもそう言ってなかった?」

こ「今、向かってるから…」

親戚「さっきもそう言ってなかった?」

こ「本当にあと1時間、後から合流する」

親戚「はぁ…」

結局、最初の予定より3時間遅れで海老名駅に着きました。約27,000円のタクシー代は、母が持ってくれました。頼りない息子で本当に申し訳ございません。

個人的には少ししか滞在出来なかったカラオケが終わり、母は予定通り親戚の家に泊まることになりました。

母「ねぇ、帰りはどうしたらいい?」

親戚「横浜から空港行きのバスが出てるよ」

こ「それを最初に言って欲しかった…」

そんなわけで、『乗る予定のない電車に乗ってしまってパニックになった話』でした。改めて反省しております。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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