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ほんとの青空

 古典は、多義的な解釈が可能なその中身によって、時代の変化に色あせることなく、今日においても読み手に何らかの影響を与える。
 トーマス・ペインが1776年1月に発表した『コモン・センス』には、アメリカの独立に向けて市民を説得する気持が、限りなく抑制された焦燥感とも取れる卓抜な文章のなかにうかがえる。


 この出版によって、市民の心は独立という選択肢に強く傾き、半年後には独立宣言を実現させたのだから、『コモン・センス』の影響は計り知れないものがあった。また、それを狙って、彼は大衆を意識した分かりやすい書き方をしている。福沢諭吉の『学問のすすめ』が、当時としては異常なまでの売れ行きをしたことと、彼が平易な書き方をしたこととの関係に似ているだろう。


 トーマス・ペインは、二百年後の私たちに向けて書いてないにもかかわらず、当時の時代背景を越えて訴えてくるものがあるのは、文章の力強さにあり、例えば次の引用部分の出だしを自由に置き換えてみることで、いかようにも通じるのである。

 独立が宣言されるまでの大陸は、喩えてみるといやな仕事を一日延ばしに延ばし続け、しかもしなければならないことがわかっていながら、手をつけるのをいやがり、それでいてその仕事が早く終わることを希望し、絶えずそれが大切だという考えにとりつかれている人間と同じようなものと言えるだろう。(小松春雄訳・岩波文庫)

 と、ここまで読み返してみて京子は苦笑した。
 誰かのために書いていたはずが、これでは私を励ますために書いたみたいではないか。
 午前二時五分。何かを伝えたくて書き始めた文章は、思わぬ発見によって頓挫した。コーヒーはとうにぬるくなっており、もう飲む気もなくなったが、なかをぼんやりと眺めつつ、京子は励ますべき自分について思いをめぐらせた。

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