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#4 寒さの記憶

ここ数日、刺すような寒さになってきた。冬だ。

寒がりの私は思わず身を竦める。でも、こんな風な寒さをやり過ごすとっておきの方法が、私にはある。この方法をわかってくれる人は、日本に幾ばくいるだろうか。

寒さの記憶

その方法とは、もっと寒い日を思い出すというものだ。
そう聞くと「なんだ」と思われるかもしれない。

でも思い出す寒さが生半可なのではだめ。
私の体が記憶しているのは、己の生を感じずにはいられないほどの温度。

5℃、
0℃、
-5℃、
-10℃、
-15℃、
-20℃、
-25℃

12月の北風に吹かれながら目を瞑る。すると、それぞれの気温帯の記憶を私は自在に思い出す。

私は、カナダの首都オタワで、2年間毎日、往復2キロを徒歩で通勤していた。雨の日も風の日も、雪の日も、フリージングレインの日も、ダイヤモンドダストの日も・・・。その日々に感じたそれぞれの寒さの記憶が体に蘇る。

温かい寒さ

今、私は大阪にいる。時間は正午前で天気は快晴。
iPhoneは気温が7℃だと教えてくれる。
風は冷たいけれど、太陽の熱が優しく体を温める瞬間もある。

ほら、思い出してきた。
これは温かい寒さだ。

重たいカナダグースはtoo mach。手袋は日本製の薄手のもので十分。コートの前は開けてて平気。頭を防寒するニット帽もまだいらない。なにより太陽の熱がある。

この寒さはオタワの10月半ば、もしくは4月下旬。これは「温かい寒さ」の記憶。迫りくる冬を予感させる秋の終わり。あるいは厳冬を耐え抜いた達成感をまとう春のはじまり。季節の変わり目に、少し心が浮つく温かさ。

そう思うと、ずっと苦手だった日本の冬がなんだかかわいいものに思える。
それから少し、物足りなく感じるのだ。

勝手に出てくる涙と鼻水が凍っていくのをなす術もなく出勤した日々を、


-10℃の寒空の下、凍った運河でスケートした日々を、

-18℃の星空の下で、夫に初めて抱きすくめられた時のいてつく寒さを、

日本の冬では体感することはできない。
日本に持ち帰ることのできた寒さは、温かい寒さだけ。


#みんなでつくる冬アルバム


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