あなたの”呼吸”をアップデート!その1
私は主に楽器を演奏する方や歌を歌う方に向けて、演奏する時の身体の使い方や精神面についてレッスンを行なっています。今回は管楽器奏者の方からよくご質問を受けること、また私自身が演奏において役に立った呼吸と姿勢(動き)の関係についてお話ししたいと思います。
知識を持ってイメージする
楽器を演奏する時の体の使い方を考える上で、具体的な「イメージを持つ」「意識を持つ」ということは非常に大切なことです。人間が「イメージする」「意識する」ことと「体の動き」は実に直結しているからです。呼吸についても「体にとって適切な動きのイメージを持ち続ける」ということがトレーニングにおいて最も必要なことと考えています。呼吸時に体に何が起こっていて、どういう動きが起こるのか。まずは構造的に正しい知識を持つことが非常に重要なことなのです。
「吸う」という動きについて
息を吸うときに起こって欲しいこととして、まず「肋骨が動くこと」を挙げたいと思います。吸った空気が入るのは肺であり、肺は肋骨の中にあります。※図1 (図で見ると、上部は鎖骨より上にもあることが分かりますね。肺はけっこう上にもあります。)
息を吐いた後、横隔膜や外肋間筋をはじめとする「肋骨を動かす筋肉」がはたらくことにより、肋骨が動いて胸腔(肋骨と横隔膜で囲まれたスペース)が広くなります。そうすることで、空気が肺に入ってきます。簡単に言うと、肋骨が動いてくれるから息が吸えるのです。
さて、肋骨の関節は背骨にあります。※図2 骨は関節のところで主に動くことができるので、肋骨により大きく動いてもらうには、背骨との関係が非常に大切になってきます。図の矢印のところが背骨と肋骨の関節です。この部分から主に肋骨は動き、胸腔が前後左右上下に立体的に広がります。試しにご自分の肋骨のいろんなところに触れながら息をたくさん吸ってみてください…肋骨が全体に動くのが分かると思います!
息を吸うための筋肉
さて、息を吸うときに腹筋は使いません。
そしてここまでお話ししたように、空気は肋骨の中にある肺に入るのであり、お腹には空気は入りません。
ここで「えぇっ!」と思った方…大丈夫です。かつては私もそう思っていました。
『息を吸うと、お腹が膨らむじゃん…。それって、空気が入ってくるからじゃないの?腹筋を使っているということでもないの?』
…説明してみます。
息を吸うときは、前述したように肋骨を動かすため主に横隔膜が収縮して働きます。(横隔膜は息を吸うための主力となる筋肉です。) 横隔膜は収縮すると傘を開くような動きをしつつ下方向へ動くため、その下にある内臓が押し出され、お腹が膨らんだように見えるのです。
実際には腹筋を使うことや空気によりお腹が膨らむのではなく、その方向に内臓が動いてきている、ということです。
(ちなみに、息を吸うための筋肉や、息を吸うことを助ける筋肉は他にもたくさんあります。
首(頚椎)と肋骨をつなぐ斜角筋、胸鎖乳突筋、肋骨と肋骨の間にある外肋間筋、他に胸にある大胸筋や脇にある前鋸筋、背中にある上後鋸筋などなど。。)
ありがちな指示
姿勢を良くするための指示として「背筋を伸ばす」「胸を張る(=肩を後ろに引く)」という言葉がよく使われますが、これらは背中側の筋肉をぎゅっと働かせ、肋骨の動きを妨げやすいので注意が必要です。
ピンと背筋を伸ばしてグッと胸を張って息を吸ってみてください……そうしないときと比べると、吸える量に違いがあるのではないかと思います。
特にサックスは、ストラップのおかげで腕で楽器を持ち上げ続ける必要がないためもあるのか(……私自身がそうでした)、この姿勢で演奏している方がやや多く、しばしば「息が吸いにくい&吐きにくい」「息がつまる感じがする」「肩が凝る」ことの原因になっていたりします。
さて、楽器を演奏する、あるいは歌を歌う時の「良い姿勢」とは何でしょうか…。
それは単に見た目で無く、「より自由に演奏し、歌うためにふさわしい姿勢」と言えるのではないでしょうか。
また「姿勢」とは決して固定された静止画のようなものでなく、「動き」だと思います。
人間は、絶えず微細に動き続けることでバランスを取っている動物だからです。
「ちゃんと演奏しなきゃ」「きちんとして見せなきゃ」
そんな風に考えることはもちろん悪いことではありませんが、そんな時、自分にどのような「動きの指示」をしているでしょうか。
少し丁寧に観察してみると、たくさんの発見があると思います。
この丁寧な観察から新しい発見を続けることこそが、上達のために最も大切なことだと思います。
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