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【小説 『AI時代#1』】 商談の帰り道

これは平凡で普通の人々の物語。
でも私たちの世界と少しだけ違う。
それはAIが深く浸透した後の世界。

…「今回は良い提案をいただけて本当に安心いたしました。」
いやいや、こちらこそ御社への導入が決まって安堵したところですよ。
「それでは、また1週間後にオンラインでよろしくお願いします。」
はい、是非お願いします。それでは失礼します。

そう言うと宮野健介はその会話を聞いていたかのようにちょうど目の前に停車したタクシーに飛び乗る。

…というか実際に会話を聞いているのだ。タクシーの予約時間が近づくと胸元につけたピンバッチ型デバイス "Badge" のレシーバーが自動でオンになり会話をAIが自動収集して解析、タクシーの配車タイミングを最適化してくれる。

サービス開始直後は「プライバシーの問題」がしばしば提起されたが、CEOである高谷氏がYouTube等に積極的に登場し、ユーザーと丁寧にコミュニケーションを取ることで信頼を獲得、一気にユーザー数を伸ばすことに成功している。
そもそも人間は便利さには勝てない。高谷氏の説得がなくとも世間ではすぐに問題は忘れ去られ、遅かれ早かれ社会に深く浸透することになっただろう。


自動運転のタクシー内では自然と独り言が出る。
…今日はさすがに疲れたなぁ。帰ってもう一杯ビールでも飲むか。

と、スマートフォンの通知が鳴った。
上司の田中さんからのメールだ。
通知をオフにしていなかった1時間前の自分に少し腹が立つ。

内容は当然だが今回の商談についてだった。
既にBadgeを通して商談の中で重要な箇所が自動で議事録化され、CRMを通じて全ての内容が上司に伝わっている。

通知の内容を見て健介は急いでメールを返す。といってもピンバッチ型デバイスについているマイクにメールの内容を伝えるだけだ。あとはAIがその内容を今回の商談の内容や健介のパーソナル情報を照らし合わせながら適切なものに仕上げてくれる。

健介は内容を見て問題がないのを確かめると「送信」とだけ伝えた。



※本小説の表紙および挿絵はChatGPTを通してDALL-E 3によって作成しています。




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