『訴訟』55行目

Nun aber stand er mit seinen Papieren in der Mitte des Zimmers, sah noch auf die Tür hin, die sich nicht wieder öffnete, und wurde erst durch einen Anruf der Wächter aufgeschreckt, die bei dem Tischchen am offenen Fenster saßen und, wie K. jetzt erkannte, sein Frühstück verzehrten.

Mitte…真ん中 auf et4 hin…~を目指して Anruf…呼びかけ aufgeschreckt<aufschrecken…驚く、驚かす saßen<sitzen verzehrten<verzehren?…飲食する、平らげる

彼は書類をもって部屋の真ん中に立ち、そのドアを見ていたが、二度と開くことはなかった。監視人たちの呼び掛けでやっと我にかえった。彼らは開いた窓のそばにある袖机の近くにおり、Kが気付いた時には彼の朝食を平らげていた。

sitzen を「座る」と訳すかどうか悩みました。sein のように訳しましたが、小さい机の側で座って朝食を食べている監視人があまりに場違いだと思ったからです。

この部分、ダジャレみたいな感じじゃないかと思うんです。

ドイツ語にはbei Tisch sitzen で「食事中である」という定型表現があります。ここでは、監視人たちがKの朝食を「食べている」状況と「袖机の側にいる」という意味のダジャレになっているんじゃないでしょうか。Tisch ではなく、今回はTischen ですが。

bei Tischchen sitzen という定型表現があるかは知りませんが、もし存在するならば、こういう訳もできそうです。

「彼らは開いた窓の近くで食事をしており、Kが気付いた時には朝食を残さず食べていた」

多分、定型表現の時は定冠詞をつけないっぽいし、Tischchen のパターンもサクっと調べた限りでは出てこなかったので、まじでカフカのダジャレだと思います。

ダジャレって、完全に同じ言葉を使わなきゃいけないわけじゃないですし。(「布団がふっとんだ」だと「ふとん」と「ふっとん」みたいに完全には一致していない言葉同士がダジャレとして認識されてるみたいな)

この行めちゃくちゃ好きな一行です。

部屋の真ん中でぼーっとして「グルーバッハ婦人、いっちゃった」と思っているKは監視人の声で我に返るのです。疎ましい存在だったはずの彼らが、Kを引き戻す役割を担っているのもいいですよね。

そして、その代償かのようにKの朝ごはん(!!)を平らげているという。あの料理人が毎朝持ってくるはずの朝食です。そしてこの監視人の滑稽な暴挙を考えることでグルーバッハ婦人が部屋にきていた理由が分かります。

彼女は、この部屋に朝食を持ってきていたのです。Kが9行目で言っていた「朝食を持ってきてもらいたい」という注文が55行目で達成されるこの時間差攻撃、にやにやしちゃいますね。そして自分が食べるはずだった朝食がペロリと平らげられていた時のKの顔を想像してみてください。かなりぽかーんとしているはずです。

朝食をめぐるKと監視人の争い(?)はこの後にも出てくるので注意してみていきましょう。結構さんざんな感じになって面白いです。


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