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永遠のライバル

私が産まれた時からライバルであるその人は存在していた。
20年も私の先を生きている人、私の母親だった。

子どもの頃に思い描いていた母親像は学校から帰ると、割烹着を着て笑顔で「おかえり」と迎えてくれる。夕飯の準備をしながらも、今日の出来事を穏やかに「うん、うん」と聞いてくれる姿だった。昔から私の理想像をひとつも兼ね備えていない母。学校から帰ると、夜の仕事に出かけるための身支度をしている、話ができるのはたった5分くらい。必要最低限の話をするも化粧や髪のセットをしながら聞くのでちゃんと聞いているのかもわからない。バタバタしながらやがて出かけていく。
夜中に帰ってくるので朝は私よりも遅く起きる。低学年ですでに一人で起き、朝ごはんを作って食べて、髪を束ねるのだってできるようになった。疲れている母を起こさないように家を出る。思い返すと普通の家庭よりかコミュニケーションははるかに少なかった。だから母親であるというよりかは、年の離れた友達のような関係になってしまった(笑)

子どもの頃には物静かで、何を考えているのか分からないような人だった。離婚を経験して、女でひとつで3人の子供を育て上げたころにはすっかり逞しくなり何でもズケズケと突っ込む肝っ玉母さんになった。

私が男性と付き合い始めると

「お母さんねぇ、若いころはモテてね。だいぶ言い寄られてたんよ。でも断ってたよ」

と昔の栄光をほのめかすようになった。母親の恋愛事情なんて子供側は聞きたくはないものだ。

「キモイんだけど」と返すと

「お母さんだって、若かりし頃はあったんだからね」と言われる。

仕事の事を話すと

「お母さんも、美容師になるために朝から晩まで仕事してたよ。シャンプーが上手くてね、指名する人も出てくるほどだった」

と、聞いてもないのに話してくる。

お察しの通り、何かと私と張り合ってくるのだ。
”この現象は何だろうか”と、
最初のころは思っていたんだけど、何度も聞いているうちに母は私をライバル視しているのではと考えるようになった。

彼氏の愚痴をこぼすと
「もう、別れたほうがいいんじゃない」と
応援するよね、普通は。

仕事の事を相談すると
「○○ちゃん(私)は融通が利かないもんね」
身も蓋もない発言でさらに私を追い込む。

若かったころの私には理解しがたいくて、母と何度も衝突した。なんなら私は本当の子供ではないんじゃなかろうかと思った日々もあったほど。

少し年を取って今は適度な距離での関係を保っている。私の目の前では母親である前に1人の女性として接していたんだと。

結婚してからは、電話する回数は減った。会う頻度も減った。
久しぶりに実家に帰ると必ず

「○○ちゃんも老けたね。皺とシミがあるよ」
と私の顔をまじまじ見ながら言う。

「お母さんも順調に老けてるけどね」
と心の中で吐き出しながら愛想笑いを浮かべる。

どこまで行っても、私と母は一番の理解者であり、一番のライバルなんだと


これからもお互いを意識しながら仲良く過ごしていくのだろう。

母親らしくはないけど、私のたった一人の母なのは間違いない。

最後まで記事を読んでくれてありがとうございました!