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AI開発成功への鍵を握る知財戦略と倫理とガバナンスの重要性

 最近、中国に追い抜かれている分野が増えていますが、現在でも日本が世界的な競争力を持つAI制御技術や、その技術を使用した製品は少なくありません。以下にこれらの分野の一部を解説します。
 
ロボティクス:産業用ロボットやコンパニオンロボットなど。この分野ではシステムの制御技術だけでなく、ハードウェアの精密加工技術や安全技術、耐久性なども考慮する必要があり、現在も比較的日本が強い分野と言えるでしょう。
 
自動運転技術:多くの日本の自動車メーカーが自動運転技術の研究開発を進めています。この分野もロボティクスと同じですが、今後何年間日本の優位性が保てるかは微妙なところです。既に多くの分野で、欧米や中国などに追い抜かれている印象があります。

電子機器のAI制御:家電製品のAI技術においても日本はかつて優位性を持っていましたが、現在は国外製品に対する優位性が減少していると思われます。
 
AIカメラ技術:日本の大型電化製品販売会社としては、ヨドバシカメラビッグカメラが有名ですが、日本製デジタルカメラやレンズの世界シェアは今でも圧倒的で、約80%が日本製です。2021年のデータでは、キヤノンが45.8%で首位、ソニーが27.0%で2位、ニコンが11.3%で3位となっています。その他にも富士フィルム、パナソニック、ペンタックス、オリンパス、リコーなど、日本のカメラ技術は圧倒的です。カメラには光学的要素や受光素子の感度などの考慮する要素が多く、被写体検出や自動露出制御などの機能にAI技術が大量に投入されています。最近では、スマホのカメラの性能が向上し、AIチップを開発しライカと協業したHuaweiのAI技術は、日本にとっては脅威的な存在です。

半導体製造:半導体製造プロセスの最適化や品質管理に使用されるAI技術も、日本は強い分野です。韓国の半導体のシェア率だけを見ると、韓国の半導体産業が優れているように思えますが、韓国は基礎技術が脆弱であり、日本やアメリカの半導体製造装置を輸入しないと生産が難しい状況です。

医療・製薬・創薬:画像解析や疾患の早期発見のためのAI技術、創薬技術、製薬技術などで、日本のAI技術は世界のトップクラスです。

建設・土木:コマツや日立建機の建設機械に関する効率的な運用や安全対策のAI技術は世界的に競争力があります。ドローン撮影からの3D映像解析、工事計画の立案、衛星やGPSを活用した工事や工程管理の最適化では、日本は世界的に競争力があります。
 
テレビゲーム:ハードウェアの世界シェアでは、現在1位が任天堂、2位はSONYとなっており、圧倒的な世界シェアを誇ります。ゲームには、ゲームキャラクターの動作や戦略を制御するAIが搭載されており、多くのゲームで独自のAI技術が使用されています。スマホゲームの分野では、WeChatの経営母体であるテンセントが圧倒的なシェアを持っています。

VR・AR技術:任天堂やソニーなどは、VR・AR技術でも世界的な競争力を持っています。

音楽産業:YamahaやRolandなどの業界大手は、楽器の自動演奏や音楽生成、音声認識などの分野でAI技術を積極的に研究開発しています。

アニメーション・映像:日本のアニメ産業は世界的に強い分野ですが、アニメーション製作や特殊効果、シーンのレンダリングにAI技術が多用されています。また、アニメーションの自動生成技術も日々進化しています。

 上記のような大手企業と、新興AI企業の根本的な違いは、技術力ではなく知財戦略です。国際的な競争力を維持している日本企業は、どの企業も知財戦略に力を入れています。一方で、日本の新興AIベンチャー企業で知財戦略に力を入れている企業は、ほぼ皆無です。一応、特許出願をしているAIベンチャー企業もありますが、取得可能かどうかわからないレベルの特許を出願することは、知財戦略とは言えません。
 
 AIの第一人者と呼ばれ、AIベンチャー支援をしている松尾豊は、産総研時代に特許を出願していますが、特許取得ができた発明は0件です。産総研の知財部の組織力を利用しても特許が一件も取得できなかった松尾豊の技術顧問の価値について、投資家は再評価する必要があるかもしれません。

 単にスピードの速い自動車を作るだけであれば、それほど難しくはありません。自動車開発で困難な点は、速度を追求することよりも、安全性や経済性、燃費、制御性、メーカー保証、アフターサービスなどの多岐にわたる要素です。
 
 知財戦略やAIの倫理を軽視した新興AIシステムの開発を自動車開発に例えると、アクセルを踏み込めば速く走る自動車を開発しているようなもので、ブレーキや安全性のことを一切考慮していないということです。このような企業理念で開発されたAIシステムは、企業価値や商品価値が極めて低いと言えます。
 
知財戦略を軽視してAIシステムをリリースするビジネスリスク

一、他者の特許権を侵害すると、差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。特許権侵害には直接侵害、間接侵害の2種類があり、いずれも法的に責任を問われる可能性があります。

二、特許権侵害は刑事罰の対象となる場合もあります。直接侵害の場合は最大10年の懲役や最大1000万円の罰金、間接侵害の場合は最大5年の懲役や最大500万円の罰金が科される可能性があります。国際的に事業展開する前提であれば、海外の知財関連の法律も把握している必要があります。

三、特許権侵害は企業の信用や評判を失う原因となります。特許権侵害は社会的にも非難される行為であり、顧客や取引先からの信頼を損なうことにつながります。

 以上のように、特許などの知的財産権を無視してAIシステムをリリースすることは、ビジネスにとって大きなリスクを伴います。そのため、AIシステムの開発やリリースにあたっては、他人の特許権を調査し、侵害しないように注意する必要があります。
 
AI倫理やAIガイドラインを無視してAIシステムをリリースするビジネスリスク

一、AIシステムが意図しないバイアスや差別を生む可能性があります。AIシステムは、学習データやアルゴリズムによって、人種、性別、年齢などの属性に対して不公平な判断や行動をとることがあります。これは、社会的な問題や法的な問題に発展する恐れがあります。
 
二、AIシステムが透明性や説明責任を欠く可能性があります。AIシステムは、複雑な計算や推論を行うため、そのロジックや根拠が人間にとって理解しにくいことがあります。
 
三、AIシステムが従業員や顧客のプライバシーやセキュリティを侵害する可能性があります。AIシステムは、大量の個人情報や機密情報を収集・分析・利用することがあります。これは、データの漏洩や悪用のリスクを高めることにつながります。
 
 以上のように、AI倫理やAIガイドラインを無視してAIシステムのプロトタイプなどをリリースすることは、ビジネスにとって大きなリスクを伴います。そのため、AIシステムの開発やリリースにあたっては、社会全体に利益をもたらすことを目的として、倫理的な方法でAIシステムを構築する必要があります。
 
 AI倫理の軽視に起因し、AIシステム開発者や運用者が受ける可能性のある民事や刑事責任などのリスクをリストアップすると、以下のようなものがあります。
 
民事責任:AIシステムが契約上の義務や法律上の義務に違反した場合、損害賠償請求や契約解除などの民事訴訟に巻き込まれる可能性があります。例えば、AIシステムが個人情報を不正に利用した場合、プライバシー権の侵害として被害者から訴えられる可能性があります。
 
刑事責任:AIシステムが犯罪行為を引き起こした場合、刑法上の罪に問われる可能性があります。例えば、AIシステムがコンピュータウイルスを作成・拡散した場合、不正アクセス行為の禁止等に関する法律や、電子計算機損壊等業務妨害罪などに該当する可能性があります。
 
規制リスク:AIシステムが特定の分野や目的で利用される場合、その分野や目的に関する規制に従う必要があります。例えば、医療分野でAIシステムを利用する場合、医療法や医療機器法などに適合する必要があります。欧州では、2021年4月にAI包括規制案が発表されており、AIシステムのリスクをその性質に照らして分類したうえで種々の義務・禁止行為や違反者への罰金が定められています。
 
 以上のように、AI倫理の軽視によっては、多くの法的リスクに直面することになります。そのため、AI倫理やAIガイドラインを遵守することは、ビジネスだけでなく、社会全体のためにも重要です。

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