見出し画像

『ピザまんとお月様』/掌編小説

お腹がすいて目が覚めた。
春も近づく三月の夜、布団から起き出して
冷蔵庫の中のピザまんを電子レンジで温める。
まだまだ冷える夜更けには、ほかほかのピザまんがおいしい。
アチチとか言いながらピザまんを手にとって、うやうやしく眺める。

このうっすらとしたオレンジ色がなんとも良い。あまりにもオレンジ過ぎるとイヤになるが、ほんのり優しいオレンジ色が、なぜだか美しく食欲をそそる。

そのとき私は気づいた。
あっ。これはお月様ではないか。この赤みがかったオレンジは。決してカレーまんの黄色ではない。あの黄色はちょっと明るすぎる。

やっぱりピザまんなのよね。月夜にはピザまん。良いことに気づいた気がして、私は夢うつつ、ベランダに出て、手に持ったピザまんを南西の空に出ている月に重ねてみた。

わぁぴったり。思った通り、きれいなオレンジ色は真っ暗な夜空に映える。何でも願いを叶えてくれそうなお月様だ。
うれしくなった私は、月が二つとか言いながらピザまんを夜空にうろうろさせていた。
そのとき手が滑った。

あっ。ピザまんは真っ暗な空から落ちて、そのまま闇に吸い込まれていった。
なんてこと。
ピザまんは下の階のベランダに着地したようだった。
ぺたっとかわいい音がしたからだ。
深夜三時、こんな時間に下の階の住人を訪ねるわけにはいかない。
私は自分のおろかな行いに後悔しながら、明日の朝、謝罪に行くことにして布団に戻った。お腹はすいていた。

次の日、早速謝罪にいくと、ドアから出てきたのはきれいな美青年だった。
この青年に、ピザまんを落としたなんて話をするのはどうにも恥ずかしかったが、私は正直に白状した。
青年はニコッと笑って言った。

「ああ、そうでしたか。あのピザまんなら今朝の朝食にいただきましたよ」

私はこの彼との結婚を、今夜ピザまんのお月様に願うことにした。

よろしければサポートをお願いします!日々の創作活動や生活の糧にさせていただきます。