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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.49 第六章
その姿に、なぜか無性に胸が苦しくなった。
「会いに行けば」
唐突に、しかし、きっぱりとカケルは言った。
「え」
届かないくらいの、それは声だった。
向き合った美晴の瞳が、ゆっくり翳って、みるみる悲しみに沈んでいくのが分かった。
カケルは、思わず目を閉じた。何てことを、言ってしまったんだろう。
彼女を、傷つけた。しかも、彼女に放った言葉は、自分の中の苦しみを断ち切るために、投げつけたものなのだ。ほとんど衝動的な子どものかんしゃくのようなものでもあった。決着を、つけてほしかったのだ。その、先に進めないどうにもならない想いに。
「どうして」
目を開けると、悲しみをたたえた美晴の目が、真っすぐこちらを見つめていた。
「そんなこと、出来るわけ、ないじゃないですか」
それから、彼女は潤んだ目を伏せた。
「どうして、そんな意地悪、言うんですか?」
その問いには、答えられない。
風が吹き、葉と葉を結んでさわさわと音を立てる。その音は、カケルの耳をくすぐり、胸の中にかすかなさざ波を立てた。カケルは、黙ったまま、彼女を見つめた。彼女の透明な瞳を、その中に映っているものを。瞳の中で、世界は緑で、みずみずしく濡れていた。責めるように寄せられていた眉は、やがて穏やかにゆるんで、くちびるはかすかにほどかれた。そこからは、言葉は発しなくとも、かすかな甘い息がもれている。葉からもれる光、そして影が、彼女のほほやからだ全体に、点々と移ろう。生きることの光と影が、そのからだに明滅している。
欲しい、ふと、そう思った。
カケルは、岩の上に置かれている美晴の手に、自分の手を重ねた。風に背を押されるように、少し、彼女の顔に、自分の顔を近づけた。
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