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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.22 第三章
食後、五人でウッドデッキに腰かけながら、美晴が庭のレモンをしぼって作ってくれたレモネードを飲んだ。ほとんど、何の音もしない静かな夜。
「自家製のレモネードなんて、ぜいたく」
奈美が、足を少しぶらぶらさせて、ストローに口をつける。それから、添えのさくらんぼをつまんで口に入れた。
「圭くん、たね飛ばそっか」
「いいよ。きっと、負けないよ」
圭も、さくらんぼをつまんで口に入れた。
「二十三でやるかなぁ。彼氏もできないわけだ」
「黙ってて下さい」
谷崎のツッこみを、軽くいなす。
「いくよー」
奈美と圭は、同時に口をつぐんでふくらました。
ぷっ、と庭の闇に向けて、二つの種が飛んだ。
「……どっちだ?」
五人が、庭の先のやぶの方まで目を凝らした。
「分かんないね」
奈美がそう言って笑ったとき、ふい、と何か小さく光るものが舞い出た。
「あ、ほたる……?」
圭がつぶやくように言った。
くつろぎの時間を終えて、二人が帰るころになった。谷崎に続いてトラックに乗り込んだ奈美に、美晴が小さめのビニール袋を二つ、手渡す。
「今日はおつかれさまでした。これ、少しですけど」
奈美は、小さな袋からレモンを一つ取り出し、歓声をあげた。
「わぁ、ありがとうございます」
そして、飛びっきりの笑顔で手を振った。
「圭くん、バイバイ。またね」
奥で、谷崎も少し身をかがめて、こちらに向けて手を振った。夜の暗い道を、トラックは去っていった。きっと美晴にもらったレモンの香りを漂わせながら、自分たちの家へと帰って行くのだろう。
「はい」
ぼんやり立っていると、美晴がレモンを一つ、手渡してきた。
どうしたものか、手のひらに置かれた果物を見つめていると、美晴が笑った。
「香りをかぐと、落ち着きません? 何か考えるのにいいかも」
「そうかな」
鼻に近づけて、少し匂いをかいでみる。ぼんやりした夜の空気の中で、そこだけきゅっと酸っぱい匂いが集まっていて、胸の奥に広がる。
美晴に続いて、石段を上る。離れの前へ来て、ふと立ち止まる。
そうか。今日から、本当に、おれはここで暮らすのか。まるで、田舎のおばあちゃんの家のような古い木戸が、沈黙してカケルを迎える。
今までの引っ越しと、何だかずい分、気持ちが違った。
まるで、自分の好きなものだけと一緒に拾われてきたような、妙な気分だった。
「どうしました?」
離れの玄関を前に立ち止まっているカケルに、美晴はたずねた。
「いや、何か、改めて。妙な気分だなぁ、と思って」
それを聞くと、美晴はひっそりと笑った。
「確かに、妙ですね」
「何か、拾われてきた犬のような気分だ」
カケルが思ったままを言うと、美晴は、また笑ってから少し真顔になって言った。
「でも、正直、防犯的には安心かも。私と圭と二人で、ちょっと心細かったから」
美晴はうつむいて、小さく目をしばたたいた。
「……ていうか、じゃあ、おれは番犬か⁉」
「そうです」
美晴は、笑いを含んだ声で、言った。
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