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【長編小説】「青く、きらめく」

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大学の演劇サークルで出会った、カケル、マリ、美晴。三人の視点で描いた、恋愛青春小説。
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#恋愛小説

【連載小説】「青く、きらめく」Vol.21 第四章 風の章、再び

 部屋中に、トマトソースの甘酸っぱい香りが漂っていて、ふつふつと鍋で煮える音がする。ほと…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.22 第四章 風の章、再び

「あ。カケル部長、復活」  練習室のドアをバタン、と開けると、ファッション誌をめくってい…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.23 第四章 風の章、再び

 カツカレーをほおばるカケルを、マリがじっと見つめている。 「ごめんね。何も知らなくて」 …

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.24 第四章 風の章、再び

 二週間のアメリカ行きを、マリから切り出されたのは、部活帰りに寄ったコーヒーショップだっ…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.25 第四章 風の章、再び

「全く、マリには言えねえな」  蔵之助が、ぐいっとバーボンのグラスを傾けながらこぼす。 「…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.26第五章 波の章

五、波の章  タラップを降り立って、最初に思ったのが、カケルに会いたい、だった。会いたい…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.27 第五章 波の章

 不信という感情は、言葉にしなくてもおのずと相手に伝わってしまうのだろう。  アメリカから帰ってきて一週間たった。でも、自然とカケルとの間にできた微妙な溝は埋まらなかった。どことなく、よそよそしい。全く話さない訳じゃないけれど、親しくない。けれど、そんな中でも部活中はいつもカケルを目で追ってしまう。ずっと見ていると、自分が不在の間に、少し部活内の関係が変わっていることに気づいた。  以前より、みな美晴に対して気を遣っている。美晴は美晴で、カケルに対して距離をとっている風だが、

【連載小説】「青く、きらめく」Vol.28 第五章 波の章

 家に帰って自分の部屋のベッドに座ると、マリは急いで台本を開いた。そして、何度か深く呼吸…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.29 第五章 波の章

 きっと、カケルなら普通に答えるだろう。心のどこかでは、そう思っていた。でも、実際そう言…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.30 第五章 波の章

 それからしばらくの間、マリは部活に顔を出すことができなかった。  カケルと、あんなこと…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.31 第五章 波の章

 学内の木立が、冬じたくを始めている。マリは、色づき始めたイチョウの木のてっぺんを見上げ…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.32 第六章 風花の章

  六、風花の章 「分かんねぇよなぁ、女って」  よく行く居酒屋でビールをあおると、カケ…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.33 第六章 風花の章

   ***  弟からの留守電が入っていたのは、昨夜遅くだった。第一声は、 「母ちゃん、…

清水愛
4年前
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【連載小説】「青く、きらめく」Vol.34 第六章 風花の章

 鼻がちぎれそうな風の中で、美晴は形にならないその想いを抱きしめる。そこには空っぽな自分の腕しかない。  ここではない、どこか。 「先輩は、ここではないどこかへ行きたい、と思ったこと、ないですか?」  会話の終わりに聞いたとき、カケルは、真っすぐ前を見たまま、うーん、と言ったきりしばらく答えなかった。かなり時間が経って、質問したことを忘れたころ、ぽつりと彼は言った。 「おれは……北かな」  ゆっくりとまばたきをした彼のまつ毛に、かすかに前髪がゆれる。 「北へ行きたい、って思