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「雨イジング・グレイス」

雨イジング・グレイスという名のカフェが町の一角にあった。名前は店主のお気に入りの歌、「アメイジング・グレイス」から来ている。しかし、「アメイジング」を「雨イジング」に変えたのは、店主が雨の日に店を開くためだ。

店の看板娘、ミキは失恋の痛みから逃れるように、この店でアルバイトを始めた。彼女の失恋は彼氏の浮気が原因だった。彼が他の女性と一緒にいるところを目撃してしまい、それ以来、彼女は男性を信じられなくなってしまった。

ある雨の日、ミキは店のカウンターに立って、誰も来ない店内を見渡していた。突然、ドアが開き、濡れた男性が店に入ってきた。彼は店の名前を見て、「雨の日に開く珍しい店だね」と笑った。ミキは彼にカフェラテを作りながら、少し心を開いた。

男性の名前はトモヤ。ミキとトモヤは何度も話し、徐々に互いに心を開いていった。ミキは彼を信じることができる唯一の男性だと思った。しかし、トモヤが告白しても、ミキは失恋の痛みがまだ癒えず、彼を拒んでしまった。

しかし、トモヤは諦めず、ミキが心を開くのを待っていた。ある雨の日、ミキが店の前で立ち尽くしていると、トモヤがやってきた。「雨イジング・グレイスは、雨の日にしか開かない。でも、雨の後には必ず晴れが来る。だから、ミキも心の雨が止んだら、新たな恋を始めることができる」と彼は言った。

その時、ミキは涙を流した。トモヤの優しさに触れ、彼への愛を感じた。しかし、ミキがトモヤに抱きつこうとしたその瞬間、トモヤは「僕は今日、海外へ行くことになった。これが最後の雨イジング・グレイスになるかもしれない」と告げた。

ミキはショックを受け、トモヤに「なぜ早く言わなかったの?」と問い詰めた。しかし、トモヤは微笑み、「ミキが新しい恋を始めることができるように、僕は距離を置くことにした」と答えた。

ミキはトモヤの背中を見つめながら、心の中で彼への感謝の気持ちを伝えた。「ありがとう、トモヤ。心の雨が止んだら、また新たな恋を始められるようになるよ。それまで、雨イジング・グレイスは、雨の日に開くことを約束する」

失恋からの回復は時間がかかる。しかし、雨が降るたびにミキはトモヤを思い出し、彼の言葉を胸に刻むことで、新たな恋を始める力を得た。雨イジング・グレイスは、ミキの心の雨が止むまで、雨の日に開くことを約束した。

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雨の日をたのしく

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