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オクノ 修 『ランベルマイユコーヒー店』

いろんな本屋さんで眺めていた本。
つまり、わたしが行く、わたしがすきな本屋さんに、よく並んでいる本なのだと思う。

たびたび出会ってはいたのに、なぜあの日に買ったのだろう。自分でもよくわからない。
仕事の帰り道。本屋さんが集うイベントのクローズ間際に立ち寄った。ミシマ社さんのブースでひいたクジの中身は『ちゃぶ台』だった。

この地上には「教室」よりも出かけるべき場所がいくらでもある。週に5回、朝から夕まで、閉じられた環境のなか、言葉で編まれた知識を浴びるだけが学びではない。
『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台 vol.3』

この前も先も気になる、もっと読んでみたいと思う一節。それなのに、気づいた時には『ランベルマイユコーヒー店』を買っていた。心なしか、ミシマ社の店員さんも驚いていた気がする。わたしも自分の買い物に驚いた。


その翌朝。
昨日のわたしありがとう。と心から思った。

新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されはじめた頃で、頭にも心にも余裕がないような感じ。ざわざわしていた。
落ち着かない気持ちを鎮めようと、いつもよりすこしだけ丁寧に、香りをいっぱいに吸いこみながらコーヒーを淹れた。
ゆっくりコーヒーを味わいながら、読む。たぶん2回くらい、読んだ。
心がすーっと晴れていく。

ざわめきが鎮まって、視界がひらけていった。


わたしの本棚に、この本があってよかった。
昨日の自分にはありがとうと言いたいし、未来の自分のためには安心の種として本棚にしのばせておく。余裕をなくして呼吸が浅くなったときには、コーヒーとこの一冊を手に取ろう。

いつもならさーっと通り過ぎる忙しない朝が、数字では数えられない時間に変わった。

読むというよりも、味わう本。


オクノ修『ランベルマイユコーヒー店』(ちいさいミシマ社)

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