だって私はきみのこと何も知らないから

「えっちなことは相手のことを知れば知るほど、もっと気持ちよくなれるんだって」
隣で横になるきみに目をやらないまま、なるべく明るい声で言った。きみは多分これの元ネタを知ってるっぽいから、ああそれ、って言いかけた。けど、私は今好きな漫画の話をしたいんじゃないから、きみの言葉を遮って、被せるように続けた。
「じゃああたしはきみと、もっと気持ちよくなれるね」
へらへら笑ってきみの方を見ると、きみはあんまり面白くなそうな顔をした。けどそれも一瞬でへら〜っと崩れて、私の上にまたがった。スマホをいじる手を取られて、そこからはよく覚えていない。ただひたすらに激しく抱かれた。声を抑えようと口元にやった両手はきみに簡単に片手で制された。だからどれだけ大きな声で喘いだかもあまり覚えていない。ちかちかする視界、飛びそうな意識の中、きみの背中にどれだけ爪を立てて痕を残してしまったかも、覚えておくには、きみはあまりに激しくて気持ちよくてダメだった。
まるでこれ以上気持ちよくなんてなれないねと言わんばかりに。まるでこれ以上、俺のこと知ることはないよと、言わんばかりに。

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