花田藍

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最近の記事

夢心地

目が覚めた時に隣で寝ていたはずの人が居ない寂しさは、季節の終わりみたいな切なさに似ている。 昼下がりの窓辺、カーテンを揺らす涼しい風を受けて、寝汗がじわじわと冷やされて引いていく。 先に起きたのであろうきみを探して今すぐにでも抱きつきたいけれど、下の階でひとつ優しい咳払いが聞こえたから、もう少し微睡む。ちゃんときみがいることで安心する。多分今起きたら優しいきみは「起こしちゃった?」って言うから。 そしたら、どうやって起きたら一番可愛いかなって考える。 そっと起きて寝ぼけ眼を擦

    • ライター

      きみからもらった、というか君が居酒屋に忘れて私が持って帰っただけなんだけど、まぁそんなライターを、いつか返そうと思ってずっと持っていた。ヘビースモーカーのきみはライターなんて余るほど持っているから、別にいつ返そうとも思っていなかった。言うなれば、口実だった。これを持っていれば、返すためにきみに会えると思って、お守りみたいに、半ば呪いみたいに持っていた。 そんな風に大事にしていたライターを取り出した。タバコを吸わない私は、これでお気に入りのお香に火をつけた。ココナッツの香りが漂

      • 深夜1時の生パスタ

        恋って深夜1時の生パスタみたいなもんなのだ。日付を超えてさらに1時間、寝る間を惜しまず贅沢に時間を浪費する。それで減ってもないお腹を満たす。なくても良いもの。だけどあったら心が満たされるもの。なるほど、それで良かったのだ。私はそれに囚われてたのだ。そりゃあ、深夜1時に生パスタを何人前も食ってたら寝不足にもなるし太るし不健康まっしぐらだ。 私は1人前作ったパスタの半分を残して、明日の私に託した。

        • 拝啓 下書きのきみへ#2

          きみと会えないとつらくて死にたくなるし、きみと会えると幸せで今死にたいなって思うよ。 私は単純なので。

          拝啓 下書きのきみへ#1

          一度酔っ払って寝ちゃいそうなきみにね私、ふざけて、ウソ、ちょっぴり茶化した感じにちゃんと本気で「私のこと好きなんですか〜」って聞いたの。 そしたらきみ、唸るみたいに「うん……」って言ったの。 私はそれだけを頼みにして今まで生きているよ。

          拝啓 下書きのきみへ#1

          拝啓 下書きのきみへ

          きみに届けられなかった想いが、言葉が、 下書きのまま、どうか成仏しますように。

          拝啓 下書きのきみへ

          わたしのためだから

          少し良いトリートメントを使った。 いつも使うのを切らしていたから。 別にきみに会えるかもと思ったとかではなくて。 体の毛を剃った。 そういう予定があるとかではなくて。 きみはあまり気にしないでくれるだろうけど。 ピアスを可愛いものに付け替えた。 今日はやすみだから。 きみがかわいいといってくれたとかは関係なくて。 なんかふと、出かけるのをやめた。 どうせきみには会えないしなぁなんて 思ったからとかそういうことは 全然全く関係なくて。

          わたしのためだから

          だって私はきみのこと何も知らないから

          「えっちなことは相手のことを知れば知るほど、もっと気持ちよくなれるんだって」 隣で横になるきみに目をやらないまま、なるべく明るい声で言った。きみは多分これの元ネタを知ってるっぽいから、ああそれ、って言いかけた。けど、私は今好きな漫画の話をしたいんじゃないから、きみの言葉を遮って、被せるように続けた。 「じゃああたしはきみと、もっと気持ちよくなれるね」 へらへら笑ってきみの方を見ると、きみはあんまり面白くなそうな顔をした。けどそれも一瞬でへら〜っと崩れて、私の上にまたがった。ス

          だって私はきみのこと何も知らないから

          夜明け、ひとり

          眠れぬ明け方、雨音が耳に心地好いので、扇風機を切って耳をすませた。外がみるみるうちに明るんでいくから、いっそ朝を迎えてやろうとタオルケットを肩にかけてベランダに出た。紫と灰色とオレンジ色が混じったような、夕暮れと似ているけれど、温度が違うような、曖昧でなんとも言い表し難い色。私がここにいる束の間を許して包んでくれるみたいな優しい色。だけどその色もまたたく間に青とグレーの雨空に変わっていく。さっきの明け方の色とは違う、朝の色。世界が今日も始まる色。優しくも厳しくもない無機質な色

          夜明け、ひとり

          あたしはmarlboroでできている

          あたしの身体はマルボロでできてる。 細かいこといえば、私はここ3年くらい、マルボロの呼気を吸って生きてる。前の恋人は赤マルとマルメンをちゃんぽんしていたし、その前はマルメンとiQOSの緑のを吸ってた。付き合ってないけどなぜだかよく誘ってくる君も赤マルだった。金マルの男と寝ればコンプリートだねとか面白くもない冗談を思いついたけど、本当に全然面白くなくて誰にも言わないことにした。 私はあと何回マルボロの副流煙を吸って、呼出煙とキスをして、それを「過去の人」にしていくんでしょう。も

          あたしはmarlboroでできている

          『雪の魔法で』

          このまま、何も成し遂げず、ただただ死んだように生きるのだろうか。誰かを愛すことも、守ることもなく、誰からも必要とされず、静かにこの世を去るのだろうか。 高校三年生の二月。大学受験のため、私は東北の祖母の家に泊まり込みで勉学に励んでいた。窓の外でしんしんと雪が降り積もっている。無限に広がるような田園風景は、ただただコピーアンドペーストしたみたいな真っ白を映していた。私はぼんやりとそれを眺めながら、昼下がりの和やかな時間を浪費していた。昨年の今頃は、暖かい汁粉の入った茶碗を片手

          『雪の魔法で』

          てすてす

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