はじめて “お顔の絵” を描いた5歳娘の秋
5歳の娘はお絵描きが好きだ。わが家には、娘の作品が至るところに飾られている。
淡い色同士が繊細に混ざり合っていたり、いろんな形のものがバランスよく散りばめられていたり……娘の感性が好きだ。
そんな娘だが、“お顔の絵” だけは頑なに描かなかった。てっきり興味がないのかと思っていたが、そうでもないらしい。
「〇〇ちゃんはお顔の絵を描いてたけど、私は描かない。」
「だって、上手に描けないから。」
お顔は描きたくないと言うのだから、無理をさせることはない。今の娘が描いているものに、素直に反応してあげたいと思った。
とは言え、不安な気持ちがなかったわけではない。
幼稚園に行くと、パパやママのお顔を描いた絵がたくさん飾られている。私自身も、その頃にはそういう絵を描いた。誰かを思い浮かべながら、その人の顔を描くのは楽しかった。
他の子と比べるのは嫌だ。ただ、上手に描けないから描かないというのは、あまりにも悲しすぎる。
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年中さんの夏が過ぎても、娘は “お顔の絵” を描かなかった。私には見守ることしかできなかったし、時々思い出すことがあっても、あまり考えないようにしていた。
「これはもう、先生にお任せしよう……」
最後にそう思ったのは、いつ頃だろうか。
秋が顔を出した、今日この頃……ついに、その時がやってきた。
お迎えに行くと、先生が今日の子どもの様子を教えてくれる。ひとりひとりに伝えてくれるんだから、もう本当に尊敬の眼差しでしか見られない。
「今日ね、敬老の日の絵をかいたんですよ!」
「〇〇ちゃん、おじいちゃんのお顔を描いたんですけどね、それがね、すごくかわいいんですよ!」
「え?お顔、描いたん……??」
一瞬何が起こったのか分からなかったけど、ずっと言いたかったセリフを、なんとか絞り出した。
「お顔、描いたの?すごいね!挑戦したんやね!」
先生が目を丸くしていたので事情を話すと、
「そうなんですか!?自分で、ささーっと描いてましたよ!」
と言って、連絡帳に挟んであった絵を取り出して見せてくれた。
「……かわいい!!」
「ね、かわいいでしょう?ふふ」
静かにニコニコしている娘。
今にも泣き出しそうな私。
はしゃぐ先生(大好きです)。
時が止まったかのように高揚した。ずっと忘れたくないな。ポケットに入れて、いつでも思い出せたらいいのにな……。
見せてもらった絵には、娘とじぃじ、花びらが4枚描かれていたのだけど、登場人物は他にもいるらしい。そしてストーリーがあるのだ。
まず、娘とじぃじはテレビでオリンピックを観戦しているらしい。描かれてはいないけど、ばぁばはおうちの仕事をしていて、パパとママは疲れ気味で寝ているとのこと(えっ)……。
それを聞いて笑いが止まらなかった。だって、その光景、本当にあり得そうだったから。
実家で気が抜けて寝る私。
どこでも寝る夫。
晩ごはんを用意をする母(ばぁば)。
どうしようもなくてテレビを見せる父(じぃじ)。
そして、それを楽しむ娘。
娘よ、よく観察してるね。本当に。
それにしても、はじめて描いた “お顔の絵” が、パパでもママでもなく、じぃじだなんて……さすがに幸せ者すぎるだろう。
ちなみに娘のお顔には、小さなまつ毛がついていた(抜かりないな)。
どんな絵を描いてもいい。本当は、描かなくったっていいのだ。
ママはいつでも必死だよ。自分の理想を押し付けないように、期待しすぎないように……それでも、勝手だけど、喜んでしまうよ。
それに、やっぱり期待してしまうよ。いつか私の絵も描いてくれるかなって……きっとその時は、大泣きしてしまうのだろうな。
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