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影郎枠

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適当な生き方をする草場影郎に関するものを集めました。 実を云うと、わたしは此奴が大嫌いです。
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2021年7月の記事一覧

海の季節

海の季節

「夏休みはどうするの?」
「実家に帰るけど、それ以外は予定がないな」
「紘君ってほんとに休日の予定がないね。何が愉しくて生きてるの」
「……随分な云われようだなあ」
「おれと出掛ける以外は映画観てるだけじゃん、独居老人みたい」
「年寄り臭いかな」
「うーん、ちょっと」
「どうしたらいいかな、スポーツカーでも乗り廻そうか」
「似合わないからやめた方がいいよ。釣りとか好きじゃないの、左人志は好きだけど

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旧市探訪

旧市探訪

「一旦家に戻って、着古したような服に着替えた方がいいよ。畑仕事する時に着るようなやつとか」
「どうして?」
「普通の恰好だと目立つから」
「畑仕事する時も特別な服を着る訳じゃないよ」
「うーん。棄てるようなのない?」
「あるかなあ」
「じゃあ、大きいと思うけどぼくの服を着ていくか。もう着ないのが何処かにあるだろうから」
「そんなに物騒なの」
「そんなことないよ。ただ、彼処のひと達は裕福じゃないから

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商店街を歩こう

商店街を歩こう

「紘君、起きて」
「んー。…… ああ、今、何時?」
「九時半」
「もうそんな時間か。何時に起きたの」
「六時」
「早いねえ。何してた?」
「朝ご飯作って、洗濯して掃除した」
「まめだなあ」
「今日はどうするの」
「そうだね、センターの近くの商店街に行こうか。行ったことある?」
「ないよ。なんか物騒だって聞いてるから、すぐ帰ってた」
「午間はそんな物騒じゃないよ。女の子ひとりだと危ないかも知れないけ

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中華街

中華街

「夏の休暇が決まったけど、何処か行きたい?」
「いつからいつまで」
「八月の十日から二十日まで」
「ああ、十日あるんだ」
「冬もね」
「実家には帰らないの」
「三日くらい帰るけど、あとは予定がない」
「淋しい男……」
「じゃあ、何か予定入れようかな」
「嘘うそ」
「何したい? 泳げないからプールに行って教えてあげようか」
「やだ」
「泳げた方がいいと思うんだけどなあ」
「泳げなくたって不自由してな

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人物裏話——亮二と影郎篇。

人物裏話——亮二と影郎篇。

 影郎がナナシのライブをはじめて観たのは十八才の時だった。好んで聴くのはフォークやポップ・ソングだったが、ライブハウスへはよく行っていたので、ナナシの曲も抵抗なく聴けた。
 が、音楽が気に入った訳ではなく、亮二の言動に興味を持った。で、ステージが終わり、暫くして彼が後ろのカウンターの奥から出てきた際に声を掛けたのである。

「ライブ、良かったですよ」
「あ、ほんと。ありがとう」
「煩瑣いけど、矢鱈

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あそびのじかん

あそびのじかん

「……うん? どうかした」
「寝顔が可愛いから見てた」
「……あ、そう」
「襲っちゃおうかと思った」
「やめて……」
「三十には見えない」
「おじさん、おじさんって云う癖に」
「年齢的にはおじさんじゃない」
「まあ、そうだけど、影郎だってあと三年経てばこの年になるよ」
「そうだね、なんか実感沸かないけど」
「慥かにね。二十七にだって見えないのに」
「年相応には見られたいよ」
「女のひとだったら、全

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あの時の物語

あの時の物語

注)本文には映画の結末が推測される箇所があります。『東京物語』を未見の方はお気をつけ下さい。

「いつも洋画ばっかりだから、日本の映画を借りてきたよ」
「どんなの?」
「小津安次郎の『東京物語』。このジャケットが渋いんだよね」
「へえ、なんかリョウ君が好きそう」
「木下君もこれは凄くいいって云ってた」
「畳に正座して観なきゃいけないかな」
「畳はない」
「じゃあ、漬けもの齧りながら日本酒を傾けまし

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