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思い出のフィンランド(前編)

 ここ数カ月、文字を打っては削除するのを繰り返していた。毛糸を編んではほどくを繰り返すのと、ちょっと似ているような感覚がする。
 この文章も、誰かの目に触れる前に消去するかもしれないが、ひとまず吐き出している。

 文字を打てば、愚痴みたいな文章しか出てこない。モヤモヤした気分がずっと続いている。絵をかいても途中でいやになってくる。
 自分以外の他の全ての人が輝いて見えて、自分だけ無価値でどうでもいい存在に思えてしんどい。悲しい。どうやって今まで楽しい気持ちになっていたんだろうと悶々としている。以前は気分転換に、一人でフラッと遠出をしていたような気がする。
 そういえば、暫く遠出をしていないなぁと思い至る。



 旅に出たい。


 旅に出ようと、思い立ったら即旅立ってしまう「ムーミン」のスナフキンに憧れがあるのか、自分も時折(休日は自宅で過ごすインドア派なので、本当にごく稀に)ふと思い立ったら遠出をしていた。自分で車を運転出来るようになってからは、方向音痴のくせに知らない土地へひとりで行ってみていた。
 最近は、燃料代がすごく上がっているので遠出するのは気が引ける。感染症の状況に大きく左右されることもあって、旅の計画を立てる気にもなれない。今年の10月でパスポートの期限が切れるけど、もう一度海外に行けるのは一体いつになるんだろう?身の回りのありとあらゆるモノの値上がりがひどいし、今後いつ使うか分からないパスポート更新料が勿体なく感じ、更新はどうするか迷っている。物価が上がっているのに、海外旅行していた頃と比べ収入もガックリ落ちている。感染症対策の例のアレだって、まだ得体が知れないと感じていて、打つか打たないかはあくまでも個人の意思に任されているので、自分は打たない選択をしている。といった状況からも、また海外旅行が出来る日まではとても遠~~くに感じる。もう二度と海外なんて行けないんじゃないかという気もしている…というのは、少し大げさかもしれないが、以前より気楽には旅が出来ない昨今。せめてもの慰めに、過去の旅行写真を眺めている。行ける時に行っておいて良かったと思う。
 これまでの人生で一番遠出をしたのは、フィンランドだった。

 方向音痴で、母国語しか話せないくせに、旅行に誘った友人の都合がつかなければ一人でも行くつもりだったが、姉が「私も行きたい」と言い出した。姉は海外で旅慣れているので、もしかすると世間知らずの妹を心配しての申し出だったかもしれないが、普段、仲良く連れ添ってるような関係ではなく、お互い無関心な姉妹なので、姉は普通にフィンランド旅行したかったのが本音だと思っている。姉は夫を日本に置きざりにし、同行してくれた。
 HPで、日本人オーナーの滞在型賃貸部屋様式の宿泊先を見つけていたので、宿泊先の予約は自分が済ませ、飛行機のチケット予約は姉の指示を仰いだ。

ヘルシンキ

ヘルシンキ街並み。地面にはトラムのレール。
海沿いの市場、マーケット広場。
外国語がなんかカッコよく見えるのは、海外の人が日本語の漢字とひらがなが面白い形に見えるのと同じだろうか。
ベリーが沢山。ちなみに9月に行った。
きのこも沢山。
手前がスッピロヴァフベロ(ミキイロウスタケ)
ひとつ奥がカンタレッリ(アンズダケ)
カンタレッリは食べてみました。風味も良くて美味しかった。

 フィンランドの言葉は、ローマ字読みしとけば大体合ってるそうです。日常会話でスウェーデン語を使う人も多く、標記は、フィンランド語とスウェーデン語の両方で記載されていることが殆ど。スウェーデン語の方は形が違うのでサッパリ。現地の人達はそれに加え、英語も話せる。
 日本語は通じないが、自分は「キートス」(フィンランド語で、ありがとう、お願いします、等々色んな意味があるらしい)と「イエス」「ノー」とあとは身振り手振りで、大方の状況は向こうが察してくれてやり過ごすことが出来た。何人かに(ちょっと面倒な旅行者だなぁ…)的な表情はされたが、尋ねるとスルーされることは少なく、基本的に誠実で親切な人が多い印象。


カハヴィラ・スオミ

 そもそも何でフィンランドに行こうとしたのか?ムーミンの国というイメージも強いのですが、影響を受けたもうひとつはこちら。
 「かもめ食堂」

映画「かもめ食堂」メインロケ地となった「カハヴィラ・スオミ」店内にて。
カハヴィ→コーヒー、スオミ→フィンランドという意味。
映画撮影中は改装されて撮影が行われたそう。

 有名な作品ですが、ざっくり物語の冒頭だけ説明。

 日本人のサチエは、日本ではなくフィンランドの首都ヘルシンキで、日本食を提供する「かもめ食堂」という名の食堂を開いた。現地の人には中々受け入れてもらえず風変わりな店として捉えられ、お客さんにはなってくれなかったが、日本好きフィンランド人の青年や、訳アリ日本人女性旅行者と出会い…。

「かもめ食堂」2006年・制作会社:かもめ商会

 
 主人公サチエを演じるのは小林聡美さん、主要人物には、片桐はいりさん、もたいまさこさん。個人的には、登場人物を聞いただけで観ずにはいられない。
 映画「かもめ食堂」を知ってからは一層、原作者・むれようこさんの他の作品、小説、エッセイを探して読むようになった。映画を観てから何年越しかは覚えてないが、自分もフィンランドへ行こうと思い立った。この作品の登場人物のように、そう感じた時が行動の時だと思うので、方向音痴でも、母国語しか出来なくても、もし同行者がいなくても行くつもりだった。


「カハヴィラ・スオミ」外観。今調べたら、残念ながら2015年に閉店していた。
その後、2016年「ラヴィントラかもめ」という名の新たな食堂として生まれ変わったらしい。


「カハヴィラ・スオミ」でとった、遅いランチ。
この日姉とは別行動をしていたのが、店内でバッタリ出会う。写真奥の方にチラッと写っている食器は、姉が先に食べたやつ。
姉が店を出た後、一人の日本人旅行者がやって来て、同じボッチの日本人同士ということもあり「フィンランドといえば、かもめ食堂よね~」とかなんとか話をし、一緒に写真を撮ったりした。


宿泊先・ASUMO

 普通のホテルに泊まるより、現地で生活しているかのような感覚が味わえるとのことで、このアパートメントホテルに泊まろうと決めた。
 先述の通り、日本人オーナーだったので、日本語での対応をしてくれ、何か困ったことがあった時に安心。当時は「旅先でお困りでしたら連絡してください」と、現地で使える携帯電話を貸してくださいました。だから自分でもあまり不安なく単独行動が出来た。

お部屋内装。小さなキッチン付き、ソファの裏側、目隠しの向こうにはベッドがある。写してないけど、シャワー室に自家用サウナがあった。9月でも、体感的に日本の初冬ぐらい寒かったので、冷えた体をサウナで温めた。


トップ画像のイラストは、この写真を参考にしてかいた。
シナモンロールは、カハヴィラ・スオミでテイクアウトしたもの。
近所のスーパーでキノコのインスタントスープを買ってきて、朝ごはんにしていた。キノコは海の市場で見た、カンタレッリ。あんまり美味しかったのでこのスープの素は買い足して、お土産にした。


スニフのマグカップ。備え付けの食器はムーミンの柄だったり、家具がどれもこれもお洒落で、部屋に居るだけでもテンションが上がる。

 アパートメントホテルというだけあって、現地の人も住まう建物の一室にある。大通りから少し小道に入った場所で、正直分かりづらい。

 滞在に慣れてきたある日、買い出しから帰ってくると、近所の人達が集まって何やら話し込んでいた。何事かと思ったが、言葉は分からない。
 もしかすると、自分が、知らずにおかしなことをしでかしてしまったのだろうかと、様子を伺いながらまごまごしていると、一人の男性が自分を見て何事か言葉をかけた。
 
「アーユーロスト?」

 というようなことを言ってきた…と思う。
 ロスト?ロースト?ローストビーフのロースト?

?????

 後で落ち着いてから調べたが、『迷子』かと思ったのかもしれない。ロスト…失くす、あなたは失くした?喋り言葉にするなら、『キミ、迷子?』って言われた?恥ずかし〜。確かに何回も迷子になってたけど。
 場所的には、観光客がウロウロするような場所ではない所…ということです。


 アパートメントホテルASUMOホームページ
ASUMO.fi - Welcome
※こちらのサイト、料金プランが”2014年”と書いてあるので、現在もやっているかどうか不明…。



さらに、海の向こうへ

カモメ?ウミネコ?「ニャアニャア鳴くのはウミネコだ」っておかっぱのイケメンさんが言っていたけど、この子は黙ってたので鳴き声も分からない。
無骨な石畳がなんかお洒落で味がある
…ように見えるけど、実用性を考えると真っすぐな方が絶対良い。歩きにくく、ヒールのある履物は隙間に刺さる。
大きくて重いスーツケースは、こういう凸凹の上はタイヤが滑らかに転がらなくて運ぶの大変だった。


この日は姉と一緒に船に乗って、スオメンリンナ島へ向かった。


 旅は後編へ続く。




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