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秋の物語

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#秋の物語

宝探し

 太陽が沈み、星々が大地を照らす時間帯。
 風に乗る精霊たちは太陽にあぶられることがなくなり、その顔に緊張の色はない。
 精霊たちの乗る風は、草原の草を揺らし、さわさわと、聴く者の心境によってその印象を変える音を立てる。心穏やかなものにとっては心地よく、後ろめたいものにとっては不気味な音を。
 その草原の中を、草をかき分けながら進んでいくものがあった。草原の草は進んでいくものの背よりも高く、離れた

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秋の風と月明かり

 手に持っていたペンを手放すと、精霊が作りだしている光の外に転がっていった。
 それを見送りながら、椅子の背もたれに体重を預ける。それだけでは足りず、頭もそらせば、背中から骨のなる乾いた音が響いた。それですこし気分転換になったシヴィーラは自分が今まで書き込んでいたノートを見返す。
 そこにはこれまで自分が調べてきたとある研究のまとめが記されている。それも、今日の研究成果を書き加えたことでその大綱も

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塔の主人

 ヴュルガー塔、というものがある。
 大陸の西の端。一年を通して激しい潮風にさらされるその場所に立つ塔は、近づくものを拒むかのように漆黒一色で覆われている。さらには入り口も地面から浮いたところにあり、なんの準備もなく近づいたとしてもその玄関をノックすることもできない。
 それもそのはず、ヴュルガー塔は近づくものを拒むことが目的で建設されたものであり、ヴュルガー塔の主人であるナソコ・ヴュルガーが塔か

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前日譚

「秋の宝石欲しいなぁ」
 ふと呟かれた言葉に、その部屋にいた全員の動きが止まった。
 呟いたのは気だるげな女だ。その格好は露出度のかなり高い純白のドレスだ。だらしなく椅子にもたれかかった彼女の家名はカリリカ。彼女本人の名前は、この部屋にいる誰も知らない。
「ちょっといいかな」
 動きを止めたものの中で、最も早く動きを再開したのは、黒髪の大男だった。大男は、背格好から想像できないような丁寧な物言いで

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妻の求めるものを求めて

 客の誰もいない店内に、一人の男が入ってきた。店主である老女は、その男をちらりと見ただけで、それまで続けていた読書に戻る。口からは紫煙を燻らせ、とても客商売をしている人間には見えない。
 そんな老女が座るカウンターに、一枚のコインが置かれた。
 老女が再び視線を男に向ける。
「こんなことされてもうちは何も扱っちゃいないよ。たまたまうちの家名がopenってだけで。まったく・・・・・・。はた迷惑な話だ

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異種格闘は唐突に

 短剣。国によってその定義は違うだろうが、ここ、ピッツォでは、懐に入れてもその刃先が出ないもの、と定義している。そのため、短剣の用途は、護身用または暗殺者や侵略目的で潜入してきた敵対組織の者が懐に忍ばせ、己の身を守ることにその主眼を置いている。決して、そう、決して主武器となりうる物ではないのだ。
 かといって、この手の中にある物が唯一の得物であることは事実。
 短剣を握る右手に力を込める。ジトリ、

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トリックオアトリート!!

 ハロウィン。
 もともとは西洋のイベントだ。それがテーマパークなどが先駆けになり行ったことで広まっていったらしい。だから、別にハロウィンをする必要はない。もともと宗教になどそれほど関心のない平も、ハロウィンなどテーマパークなどでイベントをするだけだと思っていた。・・・・・・しかし、最近ではその事情もすっかり変わってしまった。

「今月もやっちまったな・・・・・・」
 呟く平の視線の先には、来月請

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騎士と司祭と壁子爵 4

前の話 次の話

「そういえば、どうして騎士にならなけれよかったなんて言ったの」
 無事、テンリの騎士号は復活し、これからも城での勤務が許された。バンワンソ子爵の執務室を退室し、テンリは騎士としての訓練を行うために、騎士と兵士が勤務する合同兵舎へ。メイラは司教としての務めを果たすために地下にある聖堂へと向かっていた。途中までは道が同じであり、意図的に分かれて向かう必要もなかったため、二人で廊下を歩

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騎士と司祭と壁子爵

次話

「秋風に吹かれて佇む城の外。思い思うは城の中。後悔すれども入城叶わず」
 秋晴れの空の元、拍子にのせて歌う男がいた。銀髪のその男は、目の前にそびえるようにして佇む鉄扉を見上げる。男の名はテンリ・ノマオシュロナ。目の前にある城に仕える騎士の一人である。

 バンワンソ子爵といえば、爵位こそそれほど高くないが、その治世の様は大陸の端に響き渡るほどの名君で知られている。しかし、子爵領の民たちの子

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辛酸を嘗める

 ここまでの辛酸を嘗めることとなったのは久しぶりだ、と口にも顔にも出さず、心の中で思う。 
 そう思っている間にも、目の前の状況はどんどん悪くなっていく。状況の悪化を知らせるアラームが鳴り響き、味方が慌てふためくのがわかる。
 もっとも、思っている間は状況は好転しない。
 彼は状況を好転させるための一手となる布石を打つ。
 以前状況は変わらず、アラームの音は大きくなるばかりだ。
 味方は慌てて必死

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読書の秋

 秋の夜長のお供にオススメの本です。
 ・・・・・・興味を持ったらあなたの負けです。手に持ってレジへ行きましょう。

 いつもはこない書店の中を歩いていると、目の端でおもしろそうな謳い文句を見つけた。
 平積みされたハードカバーを前に、国嘉は思わず立ち止まってしまう。そこにはまるで挑発するかのような謳い文句が。
 興味を惹かれ、中を検める為に、一冊手にとり・・・・・・その重さに驚いた。というよりも

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食欲の秋

「もう食べられん・・・・・・」
 そう言ってソファに横になるケイジを、椅子の背もたれに体重を預けながらナルセは内心で激しく同意していた。
「あら、もう食べないの?まだまだあるよ?」
 台所から、料理の乗った食べ物を持って出てきたのは、この家の主人であるマコトだ。いつもと変わらない笑顔が、今は恐ろしい。
 
 果物をもらいすぎたから、腐る前に食べに来て欲しいと言われてこの家に来て早2時間。ひたすら皿

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おまじない

「どんぐりころころどこへ行く・・・・・・っと」
 木々が生い茂る森の中で、木漏れ日に照らされながら身軽な格好でシュウは歩いていた。時折立ち止まっては、地面に落ちているどんぐりを拾い、それを真上に投げる。そして、地面に着地した時、先端の尖った部分が向いている方向に進む。シュウがそんなことをしているのは目的があるからだ。シュウは、一度立ち止まると、周りを見渡し、自分の望んだ結果がえらえていないことに落

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トンボ狩り

「ひーでみーつくーん。いーきまーすよー」
 家の外から聞こえる声に、英光は出かける用意をするその手を早めた。
「もうちょっと待って!!」
「英光、もう出るかい?気をつけていってらっしゃい」
「うん。もう行く。大丈夫だよもう慣れたから。暗くなるまでには帰ってくるから」
 土間まで迎えに来た母とそれだけやりとりすると、英光は壁に立てかけてあったものを取って玄関をくぐった。
 家の外では、秋の日差しの中

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