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第34回 ミスターノーボディ(1973 伊・仏・西独)

 イタリア映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネが先日91歳で亡くなりました。

 本noteでも既に『ニューシネマパラダイス』『夕陽のガンマン』と氏が音楽を手掛けた映画を2本も紹介しています。それだけ代表作が多いとも言えます。

 追悼企画という事で氏の手掛けた映画から、本noteで不足気味の西部劇から3作品をレビューさせていただきます。

 今回は最後を飾るにふさわしい一本『ミスターノーボディ』をお送りします。本当は今作をトリに持ってくるべきなのでしょうが、ストックに丁度あったのでここから行きます。

 西部開拓時代は20世紀の頭で終わりました。西部が殆ど開拓され尽くしてしまったからです。同様にマカロニウエスタンは70年代初頭で事実上終わりました。ネタ切れしたのです。

 本作は俗に最後のマカロニウエスタンと称されます。これを最後に観るべきマカロニウエスタンは無くなったというのが定説になっているのです。

 音楽は勿論モリコーネ。幼馴染であるマカロニウエスタンの巨匠セルジオ・レオーネが製作総指揮に座り、愛弟子トニーノ・ヴァレリーが監督。これぞマカロニウエスタンの集大成というべき作品に仕上がっています。

 時は開拓時代ももう終わりの1899年、引退をもくろむ伝説のガンマンボーレガード(ヘンリー・フォンダ)と、彼の熱烈なファンであり、引退に際して伝説を作らせようと付きまとうテレンス・ヒル演じるノーバディ(名無し)の人間模様を描く映画です。

 要はおっさんに忠犬の若い衆が付きまとうというBLにならない方がどうかしている物語です。しかもレオーネ作品の常として女っ気ゼロ。

 ノンケの皆様もご安心ください。男だけの映画に外れなしです。マカロニウエスタンという言葉を作った人が言うんだから間違いありません。モリコーネ、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ…

ミスター・ノーボディを観よう!

 西部劇配信されない問題のあおりをもろに食らっています。しかし、最後くらい野暮は言いっこなしでモリコーネを送り出そうではありませんか。


真面目に解説

去り際の難しさ
 ボーレガードは引退してヨーロッパへ行こうとする。それをノーバディやワイルドバンチ(強盗団)が邪魔をする。簡単に説明すればそういう話です。

 ガンマンの最後はおおよそ平穏な物にはならないのは歴史が証明しています。知名度と殺される確率が比例する恐ろしい職業なのです。

 というのも、有名なガンマンとはそれだけ派手に人を殺しているという事です。いきおい恨みを買います。

 そしてガンマンとして有名になるのに一番手っ取り早いのは有名なガンマンを殺すことです

 そしてガンマンとして名を上げるという事は多くの場合その命に高額な賞金がかかるという事でもあります。ガンマンであるということそれ自体が命を賭けた椅子取りゲームなのです。

 果たして引退しようとするボーレガードは行く先々で襲われますが、そこは伝説のガンマンなので華麗にかわします。

 しかし、そこに現れるのはノーボディです。ボーレガードがいつどこで誰を殺したか諳んじる程のボーレガードの熱烈なファンです。

 ファンなら引退を後押ししてもよさそうなものですが、ノーボディはいささかイカれたファンで、引退に際して歴史に残るような伝説を残さないといけないと言ってボーレガードに付きまとうのです。

 しかし、ノーボディもまた凄腕で、二人してマカロニウエスタンならではの派手なガンアクションで道中を盛り上げ、最後はワイルドバンチ150人対ボーレガードというガンファイトに至ります。

 流石に150人のガンマンを集めるのは予算的に無理だったのでしょう。ボーレガードはワイルドバンチの鞍に入っているダイナマイトを撃って爆破させるといういささか雑な戦術で見事150人を撃退して船の出るニューオーリンズまでたどり着きます。

 しかし、こんな派手にやらかしては追っ手がかかるのは必定。そこでノーボディは街中で新聞記者まで呼んで二人で決闘し、八百長でボーレガードを死んだ事にして船に乗せるのです。

 そして今度はボーレガードを殺したノーボディが逆にノーボディ(名無しの男)に追われる身となります。ガンマンの新陳代謝はこういう仕組みになっているのです。


最後のマカロニウエスタン
 後に今作はそう呼ばれるようになるわけですが、明らかに作る方もそれを意識しています。

 戦前の黄金時代から西部劇のスターとして活躍してきたヘンリー・フォンダが、マカロニウエスタンに育てられたテレンス・ヒルに追い回されるという構図からしてそうです。

 そして最後を飾るのはレオーネとモリコーネのコンビというのも素晴らしい。『夕陽のガンマン』でも述べましたが、このBL的にも美味しい二人がマカロニウエスタンというジャンルを作ったと言っても過言ではありません。

 名義上の監督はトニーノ・ヴァレリですが、アクションシーンはレオーネが監督したと言われています。ヴァレリ当人は否定しているので真相はもはや藪の中ですが。

 最後のマカロニウエスタンだけあって、過去の作品のオマージュに溢れています。特にボーレガードとノーボディがお互いの帽子を延々撃つのは『夕陽のガンマン』そのものです。音楽も明らかにモリコーネが似せて作っています。

 敵役が『ワイルドバンチ』であり、墓場に『サム・ペキンパー』の墓があるのも注目すべき点です。ペキンパー監督による『ワイルドバンチ』は最後の西部劇と言われていました。

 レオーネがこっちこそ最後だという対抗心を燃やしてこの映画を作ったのは明白です。ワイルドバンチもまた猛烈にホモ臭く、歴史的名画でもあるのでぜひ見るべきです。

 そしてワイルドバンチが現れる度に気の抜けた『ワルキューレの騎行』が流れるのは『地獄の黙示録』のオマージュ、と見せかけてこっちが先です。モリコーネはコッポラに勝利したのです。

 鏡の部屋でのガンファイトは『燃えよドラゴン』でしょう。半年ほど先に公開されています。この手の映画は相互に影響され合って作られているわけです、

 この何でもあり感がマカロニウエスタンというジャンルを形作ったのも事実です。最後は盛大にということです。

 余談ですが、今作の大当たりに気を良くして『ミスター・ノーボディ2』が作られましたが大コケしました。最後を安売りしてはいけないという教訓になります。それは大仁田厚だけの特権なのです。


床屋という舞台
 作中のキーである床屋での襲撃『ゴッドファーザーPart2』のオマージュと言いたいところですが、これも今作の方が先です。

 というのも、床屋は身動きが取れないのでアウトローにとっては襲撃の危険大の難所なのです。我が国のヤクザも床屋に行く時は見張りを立たせるか、さもなければ床屋の方を呼びつけます。それでも襲撃される事が多いのはヤクザ映画好きの方ならご存知でしょう。

 ボーレガードは床屋の仕事が雑で上着を着ていない事から偽物だと気付いて目にもとまらぬ早業で仕留めてしまいますが、ノーボディは彼からの警告に基づき、きわめてユニークな方法で撃退します。ユニークすぎるので真面目に解説の方では紹介しかねます。

ガンアクションも盛大に
 マカロニウエスタンのガンアクションというのは時代劇の殺陣のようなもので、魅せる為に時代と共に進化してきました。流石に最後のマカロニウエスタンだけあって、技術の粋が込められたものになっています。

 ボーレガードはあくまで正統派の凄腕であり、ノーボディは人を食ったような方法で自分で起こしたトラブルを切り抜けるトリックスターなのがポイントです。西部劇にもジェネレーションギャップがあるのです。

 というのも、世代の古い西部劇スターはあまり派手なガンアクションをしない(出来ない)のです。もっとも、70過ぎていたフォンダにそれを求めるのは無理な相談ではありますが。

 そもそも西部劇の黄金時代のスターは早撃ちでガンスピンが出来れば十分でした。最後は殴り合いで決着を付けるのですから。そういう男らしさが西部劇に求められた時代だったのです。

 一方、マカロニウエスタンのスターはガンアクションが出来てなんぼです。決して正義の味方とは言えないガンマンが難局を如何なる奇策で乗り切るか、それがマカロニウエスタンです。要は麻雀劇画のイカサマのノリです。

 その点テレンス・ヒルは特殊でした。三枚目なのに凄腕という新ジャンルを生み出したのです。後にコメディの方で成功を収めただけあって、ノーボディは決してイーストウッドがやらないような手を使います。

 相手の銃を奪い取るという裏技が最たるものです。取った銃をホルスターに戻し、相手が慌てて取ろうとしたらビンタをかまし、取ってはビンタ、取ってはビンタと延々繰り返すのですが、これはガンアクションとギャグのセンスが両方ないとできません。テレンス・ヒルというのはそういう役者です。

 新旧のガンマン両方の顔が立つのがビリヤード台を使ったガンアクションです。玉を撃って回転させ、ポケットにあわや入れようとする。どんな特撮を使ったのか不思議でなりません。

 そして最後は古式に則った街中での早撃ちによる決闘です。もはや能や文楽に近い西部劇の型ですが、逆にこれをやる映画はまれになっていました。こういう所にも最後への意識が伺えます。

BL的に解説

ボーレガード×ノーボディ
 ノーボディのボーレガードへの愛は常軌を逸しています。ファン心理の行きつく先はセックスであるのは言うまでもありません。

 そもそもノーボディは行動がホモ臭いのです。何かというとボーレガードに料理を振舞いたがります。完全に押しかけ女房です。つまり彼は受けです。

 ボーレガードをワイルドバンチから逃がすために汽車を盗む時には公衆便所で機関士をひたすら小便しながら睨みつけてビビらせるという訳の分からん手口を使います。

 ラストの偽床屋の襲撃に至っては、床屋に浣腸して撃退するという下ネタの大安売りです。彼が下半身を自然の摂理から外れた用途に用いることを想定しているのは明らかです。

 最初はウザがっていたボーレガードも最後には満更でもなくなり、歴史に残る大勝負をノーボディのお望み通り見事やってのけます。敵が遠いので老眼鏡をかけるのが萌えポイントです。

 そして二人は船の出るニューオーリンズへ盗んだ汽車で走り出すのです。『兵隊やくざ』と同じです。駆け落ちです。

 そして八百長決闘で死んだ事になったボーレガードは無事ヨーロッパ行きの船に乗り込み、長々とノーボディに宛てた手紙を書くのです。

 その内容はラブレター以外の何物でもありません。ノーボディの腕を評価しつつ行く末を心配し、旧世代のガンマンとして忠告を与え、お前に付け回されなくなったのがたまらなく寂しい等と隠す気ゼロです。

 上手い具合に場所はニューオーリンズ、別れに際して二人きりのマルティグラが行われたことでしょう。夜のジャムセッションに耽ったのは想像に難くありません。

 上手い具合にノーボディは金髪で蒼い目なのでルイジアナママです。誰があいつを仕留めるか西部中の噂ですが、とっくにボーレガードにハートを射止められています。もっとも、あの曲はアメリカでは全く知られていないそうですが。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

エンニオ・モリコーネ追悼特集
『ニューシネマパラダイス』
『夕陽のガンマン』
『さすらいの用心棒/暁のガンマン』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』

『アンタッチャブル』


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