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第61回 極悪拳法(1974 東映)

 さて、先日亡くなったキックの鬼と称された往年のキックボクサー、沢村忠の初七日になりました。

 梶原一騎フリークとしてはこの人を追悼しないわけにはいかないと思いたち、氏が準主役で出演した『極悪拳法』をレビューして供養としたいと思います。

 所謂カラテ映画であり、芸能界最強の呼び声高い渡瀬恒彦演じる生臭坊主の桜木鉄拳が防諜活動に暗躍するという、東映のアホな所が思い切り前面に出た一本です。

 事実上渡瀬の相棒として存在感を見せる現役バリバリの沢村忠を筆頭に、ガッツ石松、石橋雅史、大塚剛といった危険に過ぎる面々が集い、撮るのは小沢茂弘とくればもうストーリーなどあってないも同然で適当な作りです。

 しかし、そんな物はもとより必要ないのです。このメンバーにわくわくできる男に向けた映画であり、私のようなスキモノはもう腹いっぱいです。

 そして、こんな野郎どもが揃えば悦ちゃん以外の女など割って入る余地はなく、猛烈にホモ臭い仕上がりになっています。腐女子が観ればハートに真空とび膝蹴りが炸裂すること請け合いです。

極悪拳法を観よう!

Amazonプライムにて有料チャンネルで配信があります。ジャンクフィルムとはよく言ったものです。

真面目に解説

キックボクシングと沢村忠
 まずはキックボクシングについて軽く説明しておきましょう。どんな物かは知っていても、その歴史については多くの人は知らないはずです。

 実はキックボクシングというのはタイのムエタイに勝てる格闘技というコンセプトで、空手をベースにして60年代に日本で生まれたものです。

 これが大流行して一時は各テレビ局がそれぞれエース格の選手を立てて毎日テレビで中継される程のブームになりました。その中でも特に際立った人気を獲得したのが沢村忠だったのです。

 元は日大の空手部で、頼まれて嫌々選手になったのですが、キックボクシングの看板として売り出され、梶原一騎に見初められて『キックの鬼』なんて漫画も描いてもらい、「真空とび膝蹴り」でKOの山(大半は八百長だった)を築いて国民的なスターになりました。

 ブームの去った後は一線を退いて空手道場をやりながら穏やかに晩年を過ごしていたわけですが、本作のように映画にいい役で出演し、ポケモンのサワムラーのモデルにもなるなど、その影響力は計り知れないものがあります。

 詳しい話はこの本を読みましょう。凄く勉強になります


狂犬の嘘
 この映画はカラテ映画に属しますが、カラテ映画とは本来千葉ちゃんか悦ちゃんが主演であり、どっちも出てこない本作は例外的な存在です。

 渡瀬恒彦は知っての通り喧嘩が強く、空手二段ではありますが、それでもやっぱりアクションには無理があります。

 そして、この映画は看板に偽りありです。というのも、渡瀬恒彦演じる桜木鉄拳は極悪どころかかなりいい奴なのです。

 浅草寺に捨て子されて育った僧侶でとんでもない生臭ですが、拳法の使い手で用心棒を生業としており、金は取るにせよむしろ人を助ける立場にあります。

 その上何かと面倒見も良くて仲間思いであり、立派な人間には敬意を払い、敵討ちの為に命を張る男気も持ち合わせているのですから、むしろ友達になりたいと思わせる男です。

 つまり、鉄拳というキャラクターは渡瀬恒彦の人物像と合致します。乱暴ですが面倒見が良くて強い、男が惚れる男です。ホモ臭い映画になるのは避けようのない事なのです。

 そして何より、渡瀬恒彦なので有無を言わせない殺気があります。アクションに無理があっても勢いで乗り切るしかこの映画には道がないということです。


右翼のリアル

 時代は第一次世界大戦の渦中。日本の参戦を目前に控えてドイツが武術の達人を揃えたスパイ団を送り込んできています。

 これを憂慮する脇坂中将(北村英三)が東狼会という団体を率いる右翼の黒田東天(大木実)なる御仁に私兵を使って排除するよう依頼します。

 右翼が軍人とズブズブで、胡散臭い私兵を抱えている。実に嫌なリアリティがあります。

 そんな黒田は憲兵にとっ捕まっていた鉄拳を私兵に引き入れるのですが、鉄拳はアナーキーなので国家の大義などどうでもよく、一人殺すごとに三百円という歩合で雇われるのです。


カラテ映画は怪人映画
 ところが、この黒田の集めた私兵というのがまた凄まじいのです。カラテ映画は敵にも味方にも変態一歩手前の連中が揃えられているのが前提です。

 道場で主に物を破壊するインチキ臭い鍛錬に励む彼らの名前と芸がテロップで誇示されるシーンが必ず入り、これがカラテ映画における序盤の見どころなのです。

 本作は『仁義なき戦い 完結編』の併映で大して期待されていなかったこともあり、実験的な試みとして誰が登場しても役名とキャストがテロップで示される親切仕様になっています。

 例えば沢村の場合"辰巳丑寅 沢村忠 (キックボクシング東洋ライト級チャンピオン)"などとヤケに詳しいのがこの映画の本質を捉えています。内容よりもまずは演者の肩書重視なのです。


キックの鬼大活躍

 最初に紹介されるのが沢村忠が演じる辰巳丑寅というふざけた名前の男で、鉄拳と一緒に大暴れし、また悪さもしていちゃつく悪友枠です。

 元々映画俳優志望だった事もあり、結構難しい役のはずですが演技も素人にしては上出来で、殺陣でも流石に強そうです。ちゃんと真空とび膝蹴りも忘れません。

 一般にカラテ映画は登場人物の死亡率が極めて高いのですが、結局辰巳は最後まで生き残って仲良く殴り込みに行きます。それくらい沢村忠はスターだったのです。


エクスペンダブルな人
 そして負けじと目立つのがガッツ石松演じる石丸大吉です。当時の日本にはボクシングは事実上ないはずですが、そんな矛盾はこの際どうでもいい事です。

 若い人にはOK牧場の人以上の認識はないのでしょうが、当時は現役の世界チャンピオンで1試合数十万ドルを稼いでいました。

 別にこれは驚くべきことではなく、テレビでお馬鹿キャラをやっているボクサーは基本的に無茶苦茶強かった人ばかりです。もっとも広島弁や関西弁の人達は怪しいですが…

 今以上に栃木訛りで日露戦争で人を殺し過ぎて精神を病んでいて童貞という属性過剰な設定で、言うなればロッキーとランボーを足して2で割らない人です。

 『ロッキー2』で腑抜けたロッキーとスパーリングしていたロベルト・デュランと対戦していますし、どこまで行ってもこのnoteはスタローンに収束するのです。

大塚先生のプロ意識
 私が好きなのが隠し武器指導で映画初出演となった大塚剛演じる海堂源之助。鉄拳に負けて組織を追われ、弟を連れて仕返しに来るという美味しい役です。

 この大塚剛という人はボンクラな格闘技好きの間では有名人で、九州でインチキ臭い(誉め言葉)プロ空手を率いていた傑物です。

 本作以降カラテ映画に欠かせぬ常連になり、ついにはプロ空手のドキュメントと称した伝説のアホ映画『世界最強の格闘技 殺人空手』で主演俳優にまで上り詰めます。

 演技力はえらい差がありますが石橋先生には主演はないので、その点と胡散臭さでは勝っています。胡散臭いのは悪役としてはとても大事なのです。

 そして本作で使われる各種の実用性に疑問符の残る暗器はこの人の私物らしく、ちょいちょい他の映画にも暗器だけ登場します。いずれにしても得難い人物なのです。


一番立派そうな人
 かように危険な連中を束ねるリーダーが石橋雅史演じる鷲見幸吉です。テレビでこういう変態を束ねる役ばかりやっていたのでお手の物なのでしょう。

 しかし、石橋先生は悪役か不幸な役と決まっています。嫁さん(松村康世)と足に怪我をした息子を抱えているのですから、もうこれ自体が死亡フラグです。こういう映画にこういうシーンが入る場合、誰かしら死ぬことでストーリーが進む仕組みになっています。

 石橋先生は悪のカリスマなので鉄拳も懐いているのですが、家長としての責任と組織の汚さに翻弄されてついには敵味方になってしまうのです。

 そして鉄拳と鷲見の対決はこの映画の一番の山場であり、BL的にも非常に美味しいので詳しい話は後に譲ります。


台湾のコンドーム

 名目上のメインヒロインが鉄拳の馴染みの女郎であるお春(光川環世)。光川環世は台湾人なのですが和服が似合いとても良い女です。

 鉄拳が本当に極悪なら南方に売り飛ばすところですが、前述の通り鉄拳はむしろ良い奴なので彼女を身請けしようとしてせっせと人を殺すのです。

 結局殺されてしまい、一応坊主である鉄拳が自らお経を詠んで弔いを出すのが泣きどころのつもりの笑いどころですが、いずれにせよ極悪のやる事ではありません。どこまで行っても適当な映画です。


悪役も大事だ
 特に格闘技のバックボーンはないはずですがカラテ映画に欠かせない役者が敵方のボスである鄭演じる天津敏です。

 そもそもが悪役の代名詞であり何気に殺陣に強いので、健さんに斬られる時よりずっと元気なところを見せます。

 鉄拳を裏切るチャン演じる汐路章も常連です。インチキ臭いおっさんをやらせるとこの人の右に出る人は居ません。というより、そういう役ばかりでしょっちゅう見かける特異な役者です。

 その他女郎屋でお春をどっちが買うかを巡って必然性のない長尺のコントを繰り広げる山城新伍と曽根晴美、手品師一座でインチキ臭い口上を述べる中国人の志賀勝、とっ散らかった映画ですが、その反面こういう映画に客が求める物を作り手はよくわかっています。

 かように東映映画の中でも極めつけにジャンクな部分を煮詰めたのがカラテ映画であり、その中でも一番贅沢でジャンクに作られたのが本作なのです。

BL的に解説

鉄拳ホモ説
 鉄拳の寺に拾われた捨て子という出自がもう怪しいではないですか。孤児で寺育ちとくればダブル役満です。

 行き場所のないショタ渡瀬恒彦がホモ坊主の股間の薙刀の餌食になるのは避けようのない運命です。そのうっ憤を鉄拳は拳法にぶつけているわけです。

 チャンが用心棒代を請求しても強く取り立てようとしないあたり鉄拳は案外気前が良く、金と同時に闘争本能を満たす為に用心棒をやっている節があります。

 そして坊主としての仕事は全くしてる気配がありませんが女郎屋通いに精を出しています。これはどういうことか?

 そう、用心棒代を身体で払う道が浅草の人々には残っているのです。無論女だってこの方法で決済できますが、当時の浅草は東洋一のゲイタウンであり、その反面LGBTへの偏見は今より露骨なので、オカマやゲイバアにとっては鉄拳と仲良くしておくことが商売繁盛の秘ケツであったはずです。

 用心棒代の代わりにゲイバアでただ酒をかっくらう鉄拳の隣に文士と粘菌学者のカップルが居る。そんな風景を思い浮かべると私は楽しくて仕方がないのです。

鉄拳×辰巳
 鉄拳に鄭襲撃の指令が下り、これに同行を申し出たのが妙に馴れ馴れしい辰巳でした。

 鉄拳が一人三百円の約束で雇われたことを知り、金の匂いを嗅ぎ付けたのが表向きの理由ですが、これではいそうですかと言うようではBL趣味などやっておれません。

 勿論本当は鉄拳が気になっていたのです。そして石丸も加えて三人仲良く吉原へ出かけるわけですが、これも穴兄弟よりコンドームが厚いだけで間接ホモセックスと言えます。

 余程波長が合うらしく、もう二人は親友状態なのにも注目です。悪友ぶりが愉快です。

 そして、そのまま逃げだした石丸抜きで横浜の鄭のアジトまで殴り込みに行きます。別に二人が石丸を軽んじているわけではないのは前後の行動からも確かです。二人なら大丈夫という自信が先にあるのです。

 用心棒としてそれなりの修羅場をくぐってきている鉄拳と違って辰巳にはまだ人を殺すことにためらいがあり、鉄拳にとどめの徹底を説かれて学ぶ場面もあります。

 一方辰巳は一人ずつ殺したのを二人とも鉄拳が殺したと戦果を捏造し、三百円余計にせしめる頭脳プレーを見せます。これはなかなかの名コンビです。

 更には強引に「兄弟」呼びを始めてしまうのですから、多分襲撃後にヤってます。ハートにとどめを刺されてKOされてしまったのでしょう。

 黒田襲撃には勿論辰巳も裏切って参戦です。雨の中で流血した鉄拳に手拭いを手渡す姿はもはや夫婦。キックボクシングなのにタッグマッチというわけです。

 そして二人で盛大に殴り込んで黒田たちを皆殺しにして、疲労困憊の二人は雨のなか互いに肩を貸して何処かへと立ち去っていくシーンで映画は終わります。

 この戦いを通じて辰巳は完全に正妻というタイトルを勝ち取ったのです。もう地下室でどっちが強いか試してみるのは時間の問題です。


鉄拳×石丸
 横浜の鄭の襲撃に最初に名乗りを上げたのが石丸でした。日露戦争で人を殺し過ぎたトラウマから戦争を憎んでいる血気盛んな田舎青年です。

 石丸の人物像を決定付けるのは童貞であるということです。吉原でもビビりまくり、ついには女を拒絶して逃げ出してしまいます。

 ここで注目したいのは石丸の日露戦争帰りという経歴です。日露戦争においては同性愛が蔓延し、各国から訪れた観戦武官はドン引きし、また日本軍の粘り強さの秘密を見たそうです。

 つまり、石丸は童貞だけど非処女なのです。女を恐れるのもこれで説明が付きます。自分に優しくしてくれて男を教えてくれた中尉殿にでも操を立てているのでしょう。

 女とやれる二人が鄭襲撃に失敗し、その二人が殺しの報酬でまた女を買いにっている間に石丸は再び鄭を単身襲います。

 商売あがったりと憤慨する鉄拳が追いついたころにはもう鄭の刀の餌食になって虫の息です。「石さん」と石丸を呼び、鄭を取り逃がしても石丸を助けるのですから、鉄拳もまた石丸が嫌いではなかったということです。

 そして石丸は鉄拳に抱かれながら守り神と称する巨大な数珠を託します。これは大塚先生の私物と思しき暗器で、伸ばすと棍になるという坊さんにはうってつけの代物です。

 つまり勃起する数珠です。こんないやらしい守り神を持っているのですから石丸の倒錯したセクシャリティが窺えます。しかもこの数珠が鉄拳のメインウェポンになるのですから、ボクシングだけに『ロッキー3』です。

 ここからが重要です。なんと石丸は鉄拳によって病院に運ばれたことが判明します。つまり石丸は生きているのです。

 良い奴鉄拳としては責任を感じてしまうはずなので、映画の終わった後は鉄拳は石丸を捨てて置けません。看病するはずです。

 BLにおいて看病とは専ら肛門科か泌尿器科であるのは言うまでもありません。ついに石丸は戦争のトラウマと決別することに成功するのです。あの数珠がどんな邪な用途に使われるのか、想像するだけで勃起してきます。


鉄拳×鷲見
 初対面のシーンが一番怪しかったのがこの二人でした。黒田に紹介されてたがいに会釈するだけなのに、もう二人は互いの実力を認め合った強敵(とも)のムードです。早い話が目でセックスしています

 鷲見は自分を拾ってくれた黒田の恩義を重んじ、また家長としての責任を果たさんとする男の中の男であり、多分千葉ちゃんより強いので鉄拳が惚れるのは無理からぬ話です。

 足の悪い息子が居るのを見て襲撃で儲けた金からカンパを出すのも鉄拳が損得以上の感情を鷲見に持っていた証拠です。

 鷲見の方もそんな鉄拳に恩義を感じ、お礼参りに来た海堂の弟達を撃退します。義理堅い鷲見の男気が石橋先生の地とマッチしていい味を出しています。

 ところが、鷲見が恩義を感じている黒田はなんと二重スパイで、愛人のナオミ(女屋美和子)を使ってドイツに情報を流していたのです。

 それがバレそうになったので黒田は卑劣にも鉄拳がやったということにして、鷲見に鉄拳を始末するよう命じます。

 薄々怪しいとは思いつつも恩義の手前逆らう事の出来ない鷲見。この映画の見せ場である墓場での決闘に突入です。

 「どうして俺を」と不思議がる鉄拳に「義理がある」と手を止めない鷲見。鉄拳は鷲見を殺しますが、見張り役のナオミをとっ捕まえて下の口に白状させます。まあ、この際これはコンドームです。

 そして大陸に高飛びしようとする黒田に電話で「鷲見はお前が殺したも同然だ」と恨み言を言い、命を貰いに行くと宣言します。勃起数珠を持っているからか今度はランボーです。

 そして殴り込みに際して鷲見の奥さんに有り金を届けさせます。こっそり渡すつもりっだったのですが、言付かった人力車夫が山田吾一なので必要上に気を利かせてしまい。鉄拳が鷲見を殺したことが知れてしまいます。

 息子に詫びる鉄拳を奥さんは許し、鉄拳の頭に手拭いを巻いて送り出すのです。そして殴り込みですからもうこれはほぼ任侠映画です。石橋先生が長門裕之になってしまいました。

 全てが終わった後、鉄拳は辰巳と石丸を連れて三人で鷲見の菩提を弔うべく旅立つのです。これで薄い本が書けます。書きませんけど。


鉄拳×海堂

 鉄拳と鷲見の目のセックスにいち早く反応し、鉄拳に突っかかっていったのが海堂でした。握手と称していきなり突っかかっていきます。

 鷲見がそうであったように、海堂もまた鉄拳に一目ぼれしたのだろうと私は考えます。好きな子に意地悪しちゃう小学生男子のメンタリティだったのか、タイマン張ればホモ達を狙ったのか、いずれにしても海堂のヤンホモ気質は徹底しています。

 最初は優勢だった海堂ですが、これが試合ではなく喧嘩である以上渡瀬恒彦相手では無理があります。腕をぶち折られて黒田に追放を宣告されてしばらく姿を消しまうのです。

 しかし、何しろプロ空手の総帥なので意外なカリスマがあり、二人の弟を連れて鉄拳にお礼参りを企てます。

 鷲見に弟たちは撃退されてしまいますが、三兄弟はあろうことか身請け早々鄭に殺されたお春の葬式を襲撃します。

 蕎麦屋を出すのが夢だったお春の供養と称して女郎達と泣きながら蕎麦を食っているところへ殴り込むのですから外道にもほどがあります。極悪というのは海堂の事なのではないかとさえ思えるシーンです。

 しかもお春の遺骨を叩き壊してしまうのです。誰あろう渡瀬恒彦が実質主演の『仁義なき戦い 代理戦争』を思わせます。

 これが健さんの任侠映画ならこの場で海堂は殺されるところですが、海堂は天津敏より強いと見えて、警察の妨害もあって第3ラウンドまで勝負はもつれ込むのです。

 高飛びする黒田に金で雇われた海堂兄弟は鉄拳と辰巳を迎え撃ちますが、こうなると健さんと池辺良を相手にするのと同じなので勝てようはずがありません。最後は自分の勃起数珠で刺し殺されてしまうのです。

 しかし、それ程強いとは思えないのに海堂のカリスマは見事でした。というよりも、あんまり強くなくて胡散臭いのが大塚先生の魅力なのかもしれません。

 ああいう先生だから俺達がどうにかしなきゃと下に付いた若い衆は思うのでしょう。弟子たちとの間にそういう精神的ホモが介在していたのは名ばかりドキュメンタリーの『世界最強の格闘技 殺人空手』からも窺えるのです。


私兵はホモのロマン
 右翼がアクの強い私兵を抱えているという構図である東狼会自体がそもそもホモ臭いのです。

 大体こんな組織を作ったところで使いどころが滅多にあるものではいので採算が取れません。軍と癒着して汚く儲けた黒田がポケットマネーで養っているのです。

 つまり、黒田は東狼会の面々のタニマチであり、東狼会は事実上黒田の趣味の産物と言えます。

 特に役に立たない私兵を財力にかこつけて養う右翼。もう察しの良い方はお気付きでしょう。これは三島由紀夫先生と同じです。

 三島先生がゲイなのは説明不要ですが、そんな三島先生が晩年にお気に入りの役者として名前を挙げていたのが誰あろう、黒田演じる大木実なのです。

 三島先生と言えば美輪明宏と石原慎太郎の男だけの三角関係が有名ですが、その一方で中村歌右衛門に入れ揚げて何本も脚本を書き、これに嫉妬した阪東玉三郎が介入したことによるもう一つの三角関係を持っていたのです。

 そのまま清算せずに切腹してしまったのは歌舞伎ファンの間では広く知られた話です。男だけの三角関係を二つも持っている人は二丁目を探しても滅多に居るものではありません。

 つまり何が言いたいかというと、大木実と三島先生の間に何かあったとしてもおかしくないということです。『黒蜥蜴』に明智君役で出ていたのも、つまりはそういう事なのです。

 もっとも、いくらニューハーフの本場を意識した格闘技のチャンピオンとは言え、沢村忠の追悼で下世話な話を延々するのもあれですので、このあたりでゴングとさせていただきます。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『激突!殺人拳』(★★★★★)(元祖カラテ映画)
『やくざの墓場 くちなしの花』(★★★)(お兄ちゃんと対戦相手が出演)
『緋牡丹博徒』(★★★★)(外道の大木実)

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