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上. 先生と私 (こゝろではありません)        ~もしあなたが純文学だとしたら~

旅立たれた
あなたに
敬意を寄せて


先生、
大嫌いから
大好きになることって

本当に
あるんですね




ーはい?

きみは
どこか
たんぽぽのようだから
これから
ポポって
呼ぶことにするよ

たんぽぽ
ですか?

うん、
なんでも
そう思ったんだ

  山手線に
  揺られながら
  先生は隣で
  小さく
  微笑んだ


きみに
疎まれることは
あっても
好かれることは
ないと思ってたからね


  見つめる
  まなざしが
  からかうようでも
  優しい


  美術館までの道のり

  ただひたすら
  時間を感じた

  渋谷で下車をして
  バスに乗り換えると

  乗客はまばらで

  街の喧騒を
  かすめるように
  ドアが閉まった

  二人掛けのシートに
  ふたりで座る

  わたしは
  窓際いっぱいに詰めて
  膝にかばんを乗せた

  薄日の射す
  車内へと
  乗降のたびに
  初冬の空気が
  流れ込む
  
  指先が
  冷たくなった
  

きれいだな
ポポの爪は


ふつうです
なにもしてません

  とっさに手を引いた

それがいいんだ
透明で
桃色で
ぼくとは
まるきり違う

ーそう
ですか?

  手を戻して
  横目で
  先生を確かめた

そのままでいるといい

派手に振舞ったり
調子よく取り繕うような
ことをしなくても

そのままがいいんだ

  先生は
  わたしのどこが
  いいんだろう

  爪と
  たんぽぽと
  イノセント、と


  冬の午後は
  陽の進むのが早い

  帰りの
  バスの中

  展示室で見た油彩画と
  同じ絵柄の入った
  絵はがきのセットを
  受け取った

  どこか懐かしく
  里の四季が美しい

日本の
心の原風景さ

懐かしさを
感じるだろ?

彼は
里山の自然を
たくさん描いたんだ

ポポは
里山を見たことが
あるかい?

  
  絵はがきを
  1枚1枚
  めくるたび

  こゝろも
  1枚1枚
  めくれるような

  
  そんな夕刻だった


終わり

中. 良心と私
下.先生と遺作
《多分続きません》




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