プロダクトライティング講座をやってみた話
こんにちは。SmartHRのプロダクト開発組織で、UXライターとして働いている aguringo です。入社以来、ユーザーがプロダクトを使って業務をスムーズにできるよう、ライティングという手段で担ってきました。
SmartHRでも4回目のアドベントカレンダーの記事です。2023年は、8月にサービスを開始した「スキル管理機能」(https://note.com/aguri/n/nb97668b5e651)をはじめとするプロダクト開発だけでなく、これまでやってきたことを体系立てて伝えていく機会に多く恵まれました。編著を担当し3月に発行した『ちいさくはじめるデザインシステム』では、その反響をSNSを通して多く目にする機会に恵まれました。
一方、社内では「伝わる文章講座」「コピーライティング講座」「プロダクトライティング講座」を企画しました。ここでは、開発組織に向けて実施した「プロダクトライティング講座」についてのお話をしたいと思います。
UIテキストは、プロダクトデザインと不可分
これまでSmartHRでは、テクニカルライター出身のUXライターの主導でテクニカルライティング講座が2022年下期、2023年上期の2回実施されていました。
23上期のテクニカルライティング講座では、UIテキストの回も設け、その講義を担当させてもらいました。しかし、ヘルプページやリリースノートのライティングと、プロダクトのユーザーインターフェースとして求められるライティングでは、アウトプット自体は"テキスト"のため同じように捉えられがちですが、アタマの使い方は異なります。
そこで、23下期は「テクニカルライティング講座」と「プロダクトライティング講座」は分けて実施することにしました。(テクニカルライティング講座は、23上期からkeroyama さんがメイン担当としてリードしてくれています)
講座を切り分けるにあたって、プロダクトライティング講座の目的は、以下のように決定しました。
大切にしたのは、「考え方」を身につけることです。「SmartHR Design Systemを使いこなせるようになること」も併記していますが、そもそもガイドラインはコンテキストごとの意思決定プロセスを再利用できるように抽象化したものです。なるべく誰もが効率良くアウトプットできるよう、「具体例やパターンを参照し倣う」という使い方ができるようにしています。しかし、本当の意味でガイドラインを使えるようになるには、ベースとなる「考え方」を理解している必要があります。
ここ最近のSmartHR Design Systemでは、デザインパターンのコンテンツが増えています。マルチプロダクト化が加速し開発チームが増えているため、類似する操作における画面設計の再現性をドキュメンテーションによって高める必要が生じたためです。
そして、デザインパターンでは、どのコンポーネントを選びどう配置するかに加えて、ライティングについての言及もあります。多くの組織では、すべてプロダクトデザイナーが担う領域ですが、SmartHRでは私のようなUXライターがライティングの指針を考えています。しかし、本来はプロダクトデザインとUIテキストは不可分です。(SmartHR Design SystemのドキュメントはプロダクトデザイナーとUXライター、必要に応じてアクセシビリティスペシャリストがレビューに加わり、各々の専門性から品質を担保しています)
一番伝えたかったこと「テキストだけで考えない」
講座の形式は、初回のみ講義とし、2回め以降はケースを扱うグループワーク形式をとりました。
講義や個人で取り組む宿題ではなく、ケースを扱うグループワークを企画した狙いは、「プロダクトのドメインには関係なく共通するSmartHRのユーザーインターフェースについて考える機会を作ること」でした。また、課題も「〇〇のテキストを考えてください」という問題文だけでなく、ユーザーストーリーと仮の画面レイアウトを用意し、必要に応じてコンポーネントの変更もして構わないとしました。
これは、初回の講義(全スライドは記事の最後に掲出しています)で伝えた「テキストだけで考えない」を実践してもらうためです。
グループワークを円滑に進めるために、思考プロセスをなぞって整理するためのテンプレートも用意しました。
また、ワーク初回にプロダクトデザイナーがいたチームではFigma上で相談を始めたので、その後は課題と合わせてFigmaで仮組みした画面も用意しました。
多様な視点からの意見交換から生まれる価値
この講座の受講生は14名、職種別の内訳は、QA5名、プロダクトデザイナー3名、プロダクトエンジニア3名、PM2名、UXライター1名でした。グループ分けでは、できるだけスクラムチームも職種も違う人たちを組み合わせました。
そうすることで、同じSmartHRというプロダクトを作っていても、違った考え方があることを実感できると考えたからです。自分と違う考えを聞くことは、自分の考えを整理する助けになります。ガイドラインを鵜呑みにするのではなく、補助線として使う上でも必要な経験だと考えました。
第1期の成果
講座の全プログラムを終え、受講生にフィードバックアンケートを実施しました(回答数12)。ここではその一部を紹介しながら、成果と課題について触れたいと思います。
設問:あなたが講座を通して、「これは前よりも自信がついた!」という業務を教えてください(選択式・複数回答可)
回答の多かった順に並べると、
「UIテキストの思考プロセスを共有し、チームの誰もが一定品質でテキスト作成ができる状態を作る」 → 6名
「自分たちのプロダクトが使いやすくなるUIテキストの作成」 → 5名
「他チームが作っているプロダクトと体験がブレないようなUIテキストの作成」 → 5名
考え方をチームに持ち帰って還元して欲しいという部分は、「UIテキストの思考プロセスを共有し、チームの誰もが一定品質でテキスト作成ができる状態を作る」がアンケート回答者の半数から得られているので、ある程度は達成できたと受け止めました。また、チーム内での意思決定プロセスの再現性を作る前段階の「自分たちのプロダクトが使いやすくなるUIテキストの作成」、「他チームが作っているプロダクトと体験がブレないようなUIテキストの作成」が2番めに多く選択されている点も、講座が一定の役割を果たしたと言えるでしょう。
設問:受講しての学びや実際に今後取り組もうと思えた行動があれば、教えてください(記述式)
一番伝えたかった「テキストだけで考えない」が伝わったことが分かるコメント。
講座用に準備したテンプレートをこれからも使っていきたいというコメントは想像していなかったので、非常にうれしかったです。とあるグループは、このテンプレートの使い方が毎回うまくなっていっていたので、その進化を見るのは実はひとつの楽しみでした。
最後に、デザインシステム見てなかった…というコメントはデザインシステムの普及にも努めているつもりだった自分にとっては痛みを伴いますが、これを機に見てもらえるようになってよかったなと素直に思っています。デザインシステムの組織への普及って改めて大変だなと感じました。
ケースを扱うグループワーク形式の効果
こちらもアンケートによって、当初の狙いが叶えられたことがわかりました。
「グループワーク形式の講義で良かったところを教えてください(複数回答可)」
「普段一緒に働いていない人と一緒に考えることで、新しい視点を得られた」 → 11名
「担当プロダクトのFeatureでは扱えない操作について考える機会を得られた」 → 7名
「テンプレートのおかげで、UIテキストを考えるときの流れを把握できた」 → 6名
「テキストだけでなく、UI全体で考えられた」 → 5名
「業務でUIテキストを考えるときよりも時間制限があるので、情報の取捨選択を思い切ってできた」 → 3名
「ガイドラインのライティングパターンが正解じゃないこともあると知った(基本的な考え方の理解が大事)」 → 2名
課題は、「時間の捻出」と「難易度の設定」
一方、課題もわかりました。講座の開催中から判っていたのですが、1時間に収めることで、受講生に無理を強いてしまいました。
「グループワーク形式の講義で、むずかしかった点を教えてください(複数回答可)」
「時間が足りない」 → 10名
「仕様の理解が難しい」 → 10名
「意見をまとめるのが難しい」 → 6名
「初めて話す人が多く、コミュニケーションが難しい」 → 2名
SmartHRの開発組織には、「スクラム講座」「アクセシビリティマスター養成講座」など、他にもチームを超えた連続講座があります。もともとスクラムチームのMTGが多くなってしまいがちという課題もあり、海の物とも山の物ともつかぬ1.5hの講座に参加するかなぁ…という懸念があったため、本講座は隔週1hにしました。
しかし、これらのコメントを見ると、もし2期をやるのならば、思い切って1.5hで企画してみようという考えに至りました。
また、難易度に関しても反省が残りました。初回の講義も1時間で話せる内容に収めようとしたので、理解度にバラツキがあることがわかりました。
特に、人の認知の仕組み(メンタルモデルの説明など)や、プロダクト利用時のユーザーの関心事への意識について、説明を端折ってしまったので、この辺りは改善が必要です。
講座を主催した感想
最後に、私の個人的な感想をまとめたいと思います。
ちょうど2年前のアドカレ用の記事で、
と書いたことがあります。これが「テキストだけで考えない」の根っこにあります。
その後、2年間ありがたいことに、私はSmartHRの開発組織の中では比較的多くのプロダクトの業務に関わることができました。同時にSmartHR Design Systemの取り組みを通して、社内のいろいろなプロダクトデザイナーの意思決定プロセスに触れて、見識を広めることができました。
おそらく、これら経験がなかったら、UXライターが「テキストだけで考えない」ことを教えるプロダクトライティング講座を作り出すことはできなかったと思います。今、振り返ってみるとこの講座は、私がSmartHR開発組織でUXライターとして働いてきたひとつのマイルストーンとも言えるような気もしています。
もちろん、まだまだ至らない知識や足りない経験はあります。講座自体も「次」があるのならば、進化させたいです。しかし、自分が身につけてきたことを誰かに渡す機会を得られ、やってみて本当によかったなと思います。
第1期の受講生のみなさんには、この試みに参加してもらえて、感謝の気持ちでいっぱいです。