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プロダクトライティング講座をやってみた話

これはSmartHR Advent Calendar 2023の18日目(シリーズ1)の記事です。


こんにちは。SmartHRのプロダクト開発組織で、UXライターとして働いている aguringo です。入社以来、ユーザーがプロダクトを使って業務をスムーズにできるよう、ライティングという手段で担ってきました。

SmartHRでも4回目のアドベントカレンダーの記事です。2023年は、8月にサービスを開始した「スキル管理機能」(https://note.com/aguri/n/nb97668b5e651)をはじめとするプロダクト開発だけでなく、これまでやってきたことを体系立てて伝えていく機会に多く恵まれました。編著を担当し3月に発行した『ちいさくはじめるデザインシステム』では、その反響をSNSを通して多く目にする機会に恵まれました。

ちいさくはじめるデザインシステム書影

一方、社内では「伝わる文章講座」「コピーライティング講座」「プロダクトライティング講座」を企画しました。ここでは、開発組織に向けて実施した「プロダクトライティング講座」についてのお話をしたいと思います。

UIテキストは、プロダクトデザインと不可分

これまでSmartHRでは、テクニカルライター出身のUXライターの主導でテクニカルライティング講座が2022年下期、2023年上期の2回実施されていました。

23上期のテクニカルライティング講座では、UIテキストの回も設け、その講義を担当させてもらいました。しかし、ヘルプページやリリースノートのライティングと、プロダクトのユーザーインターフェースとして求められるライティングでは、アウトプット自体は"テキスト"のため同じように捉えられがちですが、アタマの使い方は異なります。

そこで、23下期は「テクニカルライティング講座」と「プロダクトライティング講座」は分けて実施することにしました。(テクニカルライティング講座は、23上期からkeroyama さんがメイン担当としてリードしてくれています)

講座を切り分けるにあたって、プロダクトライティング講座の目的は、以下のように決定しました。

この講座の目的
プロダクト内の概念の定義、UIテキストなどプロダクト開発の現場で必要なライティングの意思決定プロセスを理解し、最終的に実践できるようになること(実践の達成は、講座の修了日をマイルストーンとするのではなく、講座修了後の日々の開発プロセスの中で習得を目指します)。
SmartHR Design Systemを使いこなせるようになること。

大切にしたのは、「考え方」を身につけることです。「SmartHR Design Systemを使いこなせるようになること」も併記していますが、そもそもガイドラインはコンテキストごとの意思決定プロセスを再利用できるように抽象化したものです。なるべく誰もが効率良くアウトプットできるよう、「具体例やパターンを参照し倣う」という使い方ができるようにしています。しかし、本当の意味でガイドラインを使えるようになるには、ベースとなる「考え方」を理解している必要があります。

ここ最近のSmartHR Design Systemでは、デザインパターンのコンテンツが増えています。マルチプロダクト化が加速し開発チームが増えているため、類似する操作における画面設計の再現性をドキュメンテーションによって高める必要が生じたためです。

そして、デザインパターンでは、どのコンポーネントを選びどう配置するかに加えて、ライティングについての言及もあります。多くの組織では、すべてプロダクトデザイナーが担う領域ですが、SmartHRでは私のようなUXライターがライティングの指針を考えています。しかし、本来はプロダクトデザインとUIテキストは不可分です。(SmartHR Design SystemのドキュメントはプロダクトデザイナーとUXライター、必要に応じてアクセシビリティスペシャリストがレビューに加わり、各々の専門性から品質を担保しています)

一番伝えたかったこと「テキストだけで考えない」

講座の形式は、初回のみ講義とし、2回め以降はケースを扱うグループワーク形式をとりました。

講義や個人で取り組む宿題ではなく、ケースを扱うグループワークを企画した狙いは、「プロダクトのドメインには関係なく共通するSmartHRのユーザーインターフェースについて考える機会を作ること」でした。また、課題も「〇〇のテキストを考えてください」という問題文だけでなく、ユーザーストーリーと仮の画面レイアウトを用意し、必要に応じてコンポーネントの変更もして構わないとしました。

これは、初回の講義(全スライドは記事の最後に掲出しています)で伝えた「テキストだけで考えない」を実践してもらうためです。

「プロダクトライティングで意思してほしいこと→テキストだけで考えない」
講座第1回の講義スライドより

グループワークを円滑に進めるために、思考プロセスをなぞって整理するためのテンプレートも用意しました。

# プロダクトライティング講座 ワーク用テンプレート
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## 前提

### ユーザーストーリーの確認

### 仕様の確認

### 画面の確認
<!---
コンポーネントの使用目的は適っているかを確認https://smarthr.design/products/components/
-->
#### More:対象文言の周辺の文言の確認
<!---
例:フラッシュメッセージを検討する場合、直前の操作のボタン名、バックグラウンド処理の処理名、結果詳細、エラー詳細など
-->

## UIテキストの役割
- だれに (担当者・従業員)
- いつ・どのように (文言を目にする状況)
- 何をして欲しいのか (ユーザーにして欲しいアクション)

### 考慮すべきこと
- コンテキスト、特殊な事情・制約など

## 参考情報の確認
### More:参考になる既存文言
<!---
既存の文言で同じような挙動・コンテキストで表示される文言を調査してみよう!
-->
### More:参考になるガイドライン
- [デザインシステム](https://smarthr.design/products/) で参考になりそうなガイドラインを確認する

## 投票所 

また、ワーク初回にプロダクトデザイナーがいたチームではFigma上で相談を始めたので、その後は課題と合わせてFigmaで仮組みした画面も用意しました。

多様な視点からの意見交換から生まれる価値

この講座の受講生は14名、職種別の内訳は、QA5名、プロダクトデザイナー3名、プロダクトエンジニア3名、PM2名、UXライター1名でした。グループ分けでは、できるだけスクラムチームも職種も違う人たちを組み合わせました。

そうすることで、同じSmartHRというプロダクトを作っていても、違った考え方があることを実感できると考えたからです。自分と違う考えを聞くことは、自分の考えを整理する助けになります。ガイドラインを鵜呑みにするのではなく、補助線として使う上でも必要な経験だと考えました。

グループワークの発表会場

第1期の成果

講座の全プログラムを終え、受講生にフィードバックアンケートを実施しました(回答数12)。ここではその一部を紹介しながら、成果と課題について触れたいと思います。

設問:あなたが講座を通して、「これは前よりも自信がついた!」という業務を教えてください(選択式・複数回答可)

回答の多かった順に並べると、

  • 「UIテキストの思考プロセスを共有し、チームの誰もが一定品質でテキスト作成ができる状態を作る」 → 6名

  • 「自分たちのプロダクトが使いやすくなるUIテキストの作成」 → 5名

  • 「他チームが作っているプロダクトと体験がブレないようなUIテキストの作成」 → 5名

考え方をチームに持ち帰って還元して欲しいという部分は、「UIテキストの思考プロセスを共有し、チームの誰もが一定品質でテキスト作成ができる状態を作る」がアンケート回答者の半数から得られているので、ある程度は達成できたと受け止めました。また、チーム内での意思決定プロセスの再現性を作る前段階の「自分たちのプロダクトが使いやすくなるUIテキストの作成」、「他チームが作っているプロダクトと体験がブレないようなUIテキストの作成」が2番めに多く選択されている点も、講座が一定の役割を果たしたと言えるでしょう。

設問:受講しての学びや実際に今後取り組もうと思えた行動があれば、教えてください(記述式)

ユーザーが「自身が行なったアクション」を正しく認知することと、そのアクションがもたらした結果を正しく認識できる状態であること、さらにその次のアクションに紐付けられること、といったように連綿と繋がっていく流れをテキストによって分かりやすくするのが大事だなぁと思った。
長いdescriptionを読ませようとするよりも、タイトルとボタン名で何が起きるのか理解できる状態を作れるか考えたい。

もともと局所的にUIテキストを考えていたように思う。より広範囲に体験を踏まえてテキストを考えるように意識していこうと思う。

一番伝えたかった「テキストだけで考えない」が伝わったことが分かるコメント。

テンプレに沿って思考を共有することで、チームで納得感をもって決めやすいことがわかりました。視点が足りない不安も解消できるので一石二鳥。今後に活かします。

難しい文言を考える際は、講座で使ったテンプレートで書いておくと途中まで考えたことを形にしておけるので、その後にチームメンバーやUXライターの方々に相談しやすくなりそうだなと思いました。

講座用に準備したテンプレートをこれからも使っていきたいというコメントは想像していなかったので、非常にうれしかったです。とあるグループは、このテンプレートの使い方が毎回うまくなっていっていたので、その進化を見るのは実はひとつの楽しみでした。

正直、SmartHR Design Systemのコンテンツをあまり詳しく見たことがなかったのですが、細かいところまで整備されていてびっくりしました。

UIテキストを考える機会が今まであまりなかったので、あまりデザインシステムのライティングのページを参照することがなく、勝手に難しい内容が書いてるんじゃないかと思ってあまり参照せずにいたのですが、初心者にもわかりやすい内容だったので、今後業務でどんどん参照していきたいと思いました。

最後に、デザインシステム見てなかった…というコメントはデザインシステムの普及にも努めているつもりだった自分にとっては痛みを伴いますが、これを機に見てもらえるようになってよかったなと素直に思っています。デザインシステムの組織への普及って改めて大変だなと感じました。

ケースを扱うグループワーク形式の効果

こちらもアンケートによって、当初の狙いが叶えられたことがわかりました。

「グループワーク形式の講義で良かったところを教えてください(複数回答可)」

  • 「普段一緒に働いていない人と一緒に考えることで、新しい視点を得られた」 → 11名

  • 「担当プロダクトのFeatureでは扱えない操作について考える機会を得られた」 → 7名

  • 「テンプレートのおかげで、UIテキストを考えるときの流れを把握できた」 → 6名

  • 「テキストだけでなく、UI全体で考えられた」 → 5名

  • 「業務でUIテキストを考えるときよりも時間制限があるので、情報の取捨選択を思い切ってできた」 → 3名

  • 「ガイドラインのライティングパターンが正解じゃないこともあると知った(基本的な考え方の理解が大事)」 → 2名

課題は、「時間の捻出」と「難易度の設定」

一方、課題もわかりました。講座の開催中から判っていたのですが、1時間に収めることで、受講生に無理を強いてしまいました。

「グループワーク形式の講義で、むずかしかった点を教えてください(複数回答可)」

  • 「時間が足りない」 → 10名

  • 「仕様の理解が難しい」 → 10名

  • 「意見をまとめるのが難しい」 → 6名

  • 「初めて話す人が多く、コミュニケーションが難しい」 → 2名

SmartHRの開発組織には、「スクラム講座」「アクセシビリティマスター養成講座」など、他にもチームを超えた連続講座があります。もともとスクラムチームのMTGが多くなってしまいがちという課題もあり、海の物とも山の物ともつかぬ1.5hの講座に参加するかなぁ…という懸念があったため、本講座は隔週1hにしました。

しかし、これらのコメントを見ると、もし2期をやるのならば、思い切って1.5hで企画してみようという考えに至りました。

グループワークで常に焦燥感があったので(笑)みんなで納得感や満足感のある結論を出せるところまで行き着いてみたいけどどうすればいいんやろ…(を自分でも考えてみます!!)

ワークの時間が足りないと感じたので、もっと時間が延びると嬉しいと思いました。(時間延ばすと結構時間カツカツなので、もう講座の時間を1.5hにするとかでも良いかもと思いました。)

とても学びになる一方で、時間内で文言を決めきれず成功体験が得られないので、自信に繋がりにくく、「ライティングは難しい」という印象が残りがちです。
講義の意図は理解しつつも、ライティングができるようになっていきたいという気持ちをもって参加しているため、グループワークの1〜2回分だけでも自分たちで決めきる成功体験ができるといいなぁと思いました。

また、難易度に関しても反省が残りました。初回の講義も1時間で話せる内容に収めようとしたので、理解度にバラツキがあることがわかりました。

特に、人の認知の仕組み(メンタルモデルの説明など)や、プロダクト利用時のユーザーの関心事への意識について、説明を端折ってしまったので、この辺りは改善が必要です。

講座を主催した感想

最後に、私の個人的な感想をまとめたいと思います。

ちょうど2年前のアドカレ用の記事で、

ユーザーの本来の目的は、文章を読むことではなく、業務のためにアプリケーションを操作すること。

https://note.com/aguri/n/n25c9ffd10a07

と書いたことがあります。これが「テキストだけで考えない」の根っこにあります。

その後、2年間ありがたいことに、私はSmartHRの開発組織の中では比較的多くのプロダクトの業務に関わることができました。同時にSmartHR Design Systemの取り組みを通して、社内のいろいろなプロダクトデザイナーの意思決定プロセスに触れて、見識を広めることができました。

おそらく、これら経験がなかったら、UXライターが「テキストだけで考えない」ことを教えるプロダクトライティング講座を作り出すことはできなかったと思います。今、振り返ってみるとこの講座は、私がSmartHR開発組織でUXライターとして働いてきたひとつのマイルストーンとも言えるような気もしています。

もちろん、まだまだ至らない知識や足りない経験はあります。講座自体も「次」があるのならば、進化させたいです。しかし、自分が身につけてきたことを誰かに渡す機会を得られ、やってみて本当によかったなと思います。

第1期の受講生のみなさんには、この試みに参加してもらえて、感謝の気持ちでいっぱいです。

初回講義のスライド

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