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みんなと私の『動機づけ面接』ーークライエントとの同行二人指南(16) 『「反省の色なし!」と言いたくなるのが人情ではある一方で…』

(写真はハチらしい。「ハエの面接ではなくハチの面接を」(汚いものばかりにとどまるのではなく、美しい話題ばかりを拾っていくようにする)とは動機づけ面接でよく言われることである)


開業したことだし、勉強会をまた開催することにした。こちらの記事も更新していこう。



両価性(アンビバレント)に共感するという話をしてきた。カウンセラーはカウンセリングのどんな状況においても、クライエントに共感することはできるだろうか?とても難しいときというのがある。


禁煙外来の例を考えてみる。


あなたは禁煙外来で診療をしている。兵巣服さん(34歳)が入室し、椅子に座った。彼は「タバコは一本も吸っていません」と言う。

そのときである。

タバコの匂いがあなたの鼻に感じられた。


こういう場面ではカウンセラーに間違い指摘反射が起こる。そうなると、「この来談者は、吸っている一方でタバコをやめようともしている」などという両価性の一方に目が向かなくなり、


「まったくやる気がない」「嘘つきだ!」


などといった第一印象を抱きがちになる。

それで対立して、うまくいかなくて、自己嫌悪に陥る。クライエントと相撲をしてしまった場合の末路である。



さて、カウンセラーにとって大変な場面については、カウンセラー自身が優しくされることが大事だ。優しいスーパーバイザーになったつもりで、自分自身に指導してあげるとしたらどうするだろう?カウンセラーが広い心になるために、どんなことをしたらいいだろう?


たとえばこんな方法を考えてみた。


1. 「今吸ってきましたね?」と言いたくなる、己の間違い指摘反射があることと、またそれがどれくらい強いかに気づく。(おそらく間違いを指摘したくなってしまうときのあなたの危険サインというものがあるはずである。そのときにすぐにこれができると良い)

2. そのような自分の思考に対し「このかたは喫煙に関してすごく困っているのだ。苦痛が激しいのだ」と思う、などといった認知的対処をする。


カウンセラーが自分自身に対してするちょっとした認知行動療法である。現場では刻々と時間が進む。とっさに対応できるように対処行動も決めておいたほうがいいだろう。こんなのはどうだろうか?


3.「やめつづけるとか、どんなペースでやるとかは、自分で決めることですからね」と自立性の尊重をするなど、動機づけ面接として適切な対応をさっとする。


最後は行動(話すこと)による対処であり、練習も必要であろう。その前にやはり、1.2.が重要であると思う。機会があればこういう演習を仲間としてはどうだろうか?


さて、以下はMIの祈りというものである。こういう心持ちで動機づけ面接をやるとよい、とミラー先生が主の祈りをパクって作ったものである。半分は遊びであろうが、半分は切実なのではないか。ミラー先生も苦労しているんだな、と思った次第である。

こういうのが嫌いな人もいると思うが、私は好きだ。カウンセリングの前に祈りを心の中で唱えることは、カウンセラーの行動を変える効果があると思われる。

(難しい言い方をすると、事前にこれを唱えておいた文脈が、適切な応答という行動の、プロンプトになるからである)



MIの祈り

願わくは、クライエントの同伴者となり、
空のような広い心で話を聞けるようにお導きください。
クライエントの瞳に映るものが見える目と
語りを熱心に聴ける耳をお与えください。
共に歩める安全で開けた平地をお作りください。
クライエント自身の姿がくっきりと映し出されるような鏡池に私を変えてください。
クライエントの中に神様(仏様)の美と叡智を見出せるようにお導きください。
神様(仏様)がクライエントも調和の中にあるように望まれるように、
健やかで、慈しみ深く、強くあるようにと
クライエントが自分自身の道を選ぶことを讃え、敬うことができるようにしてください。
そしてクライエントが選んだ道を歩むことを祝福できますように。
いま一度、クライエントと私は異なっていても、
それでも一つになれる平和な場所があることを教えてください。

                     ウィリアム・R・ミラー


(仏教徒のために、神様ではなく仏様とも言い換えられるように記載しておいた)



同じ絵を心に描く「共感」という作業は難しい。カウンセラー自体が自分の「感情」「感想」を持ってしまうからだ。そこが空っぽにできないと、相手が心に描いているものが入り込む余地がなくなる。

覚せい剤使用者、性犯罪者といった、カウンセラーにとって苦しみを理解するハードルが高くなってしまうクライエントというものもいる。だが、そういうクライエントたちも苦しんでいる。

カウンセラーの真価は、そういう人たちにも関心を示し、理解しようとするところにある。自分自身への優しさと根気強い修練が、他者への優しさ・優れた対応につながっていくはずである。


2021/7/15 Ver.1.0

前回はこちら


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