みんなと私の『動機づけ面接』ーークライエントとの同行二人指南(11) 『キョウカン!』
共感とは
共感は大事だ。関係性を作るために。動機づけをするために。
では共感とはなにか?
共感の少し低い例と、それより高い例を挙げてみる。そこから共感が高いということの感じを掴んでみよう。
(なおこれは架空のケースではあるが、性犯罪の話が出てくるので、専門職でなくそのような内容にショックや強い怒りを覚えるようなかたは読まないでいただきたい。)
【症例】
あなたは保護司である。何度も性犯罪で捕まりこの度刑務所を出所してきたばかりの男性の、再犯を止めることを目標としよう。彼は友人もおらず人との関わりも少ない。面接を重ねるうち、バスで痴漢をしたときの心情を話してくれるようになった。性的な欲求が一度湧くと抑えることができず、痴漢行為をしようと思うと、もうどうしても止めようがなくなるのだという。
以下はそれを話を聞いた後の保護司のセリフである。
犯罪を犯した人については、なかなか共感しづらいかもしれない。だからあえて、その中でもとくに共感しづらいテーマを扱っている。
彼は、生涯このような話を、咎め立てされる文脈以外では聞いてもらえることがなかったのだ。だからなかなか安心して話すこともできなかったのである。
上のセリフはどちらも温かみのある感じで話されているものとする。さて、1よりは2のほうが、共感の度合いが少し高くなったというのが分かるだろうか。
さて、このセリフの上を目指してみよう。もっと共感的にするのだ。
これならどうだ!という一例である。
いかがだろうか。この保護司のセリフこそが共感の高いセリフである。全体のイメージがどう変わったかを味わってほしい。
これぞ複雑な聞き返しと呼ぶものである(しかもサマライズであるかもしれない)。
こう言われれば相手も「先生、やっぱ自分はどうにかしないとダメだと思います」というチェンジトークを口にするかもしれない。
(ちなみにこのセリフでは維持トークとチェンジトークの順番も意識し、「一方」という接続詞を用いるといったことまでが計算されてなされている。だが今はその意義については省略する)
勘違いしないでいただきたいのは、長いセリフが共感的だということではない。ここではすこし大げさにしてみせた感もあり、長くなってしまった。でもまあ、これくらいは複雑にしてほしい。
短くても、すぐれて共感的であることはできる。
前回の課題を出してみよう。
共感とはなにか、の答えをまだ言っていない。こっちのほうが共感が高いという例をあげてきたのでなんとなく掴めてきたかもしれないが、まだ「こういうものですよ」とは説明してないのである。まずは例から学ぶ、というやりかたが貫かれている。
そのなんとなくの感じからこの問いに答えてみよう。間違ってもいい。
答えは2である。
共感とはなにかをやっと言おう。見出しの絵を見るとイメージがつきやすい。「相手と同じ絵を描くこと」だ。言葉や振る舞いを観察した上で、クライエントの思いを自分の心にも描くことである。
中でも、感情や価値観といったもまでもを思い描けるとずっと共感的であり、良い。相手の頭に描いているものばかりか、あるいはまだ描いてさえいなかったものまでもをありありと描き出すと、さらに良い。
これは、相手の心の中を知ろうとするからできることである。必ずしも最初から分からなくても、まずは分かろうとすることが大切だ。
2021/4/22 Ver.1.0
前回はこちら