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『世界は終わってしまうけど』読了

こんにちは、深見です。
文学フリマ福岡9で購入した、九十九九音氏の『世界は終わってしまうけど』(サークル「しろいかみ」さん)を読了しましたので、感想を書いていこうと思います。

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あらすじ

世界は終わる。少女は「好き」から逃げる旅に出る

巨大隕石の衝突によって世界が終わることが確定した世界。残り数ヶ月で世界が終わる中、主人公高崎真世は幼馴染の新庄昇から告白される。
ある事情から人とは違った価値観を持つ真世は昇の告白から逃げるように旅に出た。
行き先は大阪に落ちた流星雨のクレーター
真世はその道中で多くの人に出会う。流星雨のクレーターで真世を待ち受けていたものとは

文学フリマ福岡9 サークル「しろいかみ」Webカタログより

終末系にジュブナイルを足したみたいな感じかな?多分好きなやつだなーと思って買いました。
本当は『塔』も欲しかったんですが、深見が行った時には既に売り切れていました。無念。

感想

やっぱり好きなやつでした。

『終末系』ってだいたい2パターンに分けられると思っていて、それは「日常が崩壊しているかいないか」なんですけど、この小説は後者でした。

巨大隕石が降ってきて、世界が終わる。そんな中でも日本では、ほぼこれまで通りの営みが続けられているわけです。
終末を迎えるというのに、レンタルビデオ店が営業しているのは、さすがにちょっと笑ってしまいました。ちなみにこの笑いは「あー、ありそー笑」の笑いです。日本ならやりかねん。

それは惰性による日常の継続でもあるし、ちょっと無理をしてでも日常を継続することにより秩序を保とうとする、涙ぐましい努力の結果でもあります。

とにかく、作中では日常が継続されている。レンタルビデオ店も開いているし(レンタルビデオ屋なんて、昨今のサブスクブームでただでさえ崖っぷちだというのに!)、運転本数は減っているものの電車も走っている。人々は変わらず仕事や学校に行き、ありもしない「未来」のために働いたり勉強をしたりしている。

もう、この空気感だけで満足できます。このまま騙し騙し日常を続け、そしてある日どうにもならない終末がとうとうやってくる。その描写だけで「はい、おしまい」と言われても、あー良いものを読んだ!と満足します。深見は。

しかしこの小説は、この空気感の上に更に青春&ロードムービー的要素まで入れてくるのです。というか話が逆で、青春ロードムービー的ストーリーに終末フレーバーがかかっています。


「みんなとは違う」という息苦しさを抱える少女が、学校をサボり、フェリーに乗って旅に出る。正直、終末設定がなくても充分成り立つのでは?と思います。それでも最後まで読むと「終末要素は確かに必要だった」と思わせてくれるのが、この小説のすごいところです。

物語を読んでいると、時々「この世界は終末を迎えつつあるのだ」ということを忘れそうになります。世の中が普通に動いているからです。
それでも、登場人物や主人公の言葉の端々に「終末」が滲んでおり、そして私は思い出すのです。「あ、そうだ。そういえばこの世界、もうすぐ終わるんだっけ」

日常の中の非日常を綴りながら、その実、日常こそが非日常であるという構成。すごい。

そして物語の終盤、青春パート(?)はそれとしてひとつの結末を迎えます。その先に、当然のような顔をして終末が待ち構えているのですが、「結局この子たち、どうなったの?」までは書かれません。「全てを書ききらない」美しさです。読み終えた時、思わず溜め息が出ました(勿論、感嘆の意味で)。

長々と書きましたが、要するに「とても私好み!」
『塔』を購入できなかったことが、つくづく悔やまれます。でも他にもたくさん書いていらっしゃる作者さんなので、まだまだ楽しみは続きそうです。


以上です。終末系小説、良いよね。

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