始まりは シロクマ文芸部
始まりは 【590字】
始まりは恥鞠だった。
僕が初めてそれで遊んだ時、その上に乗ってひっくり返って、したたか頭を打った。みんな笑い転げてて、僕もきっと引き攣った笑いを浮かべてたに違いない。
それから頭の調子が良くない。頭が悪い?のとはちょっと違う。
連絡が良くないというのか、接触が悪いというのか、僕の頭は少しずつ歪んでいっている気がしていた。
気のせい?
そんなんじゃないよ。あの恥鞠の日から僕の頭は変化していってる。寝ている間に接続が全て外されて、繋ぎ直しの作業が始まってる。道路工事を見るとチョコレート作りの行程が見えてくるのはそのせいだ。万事がそんな具合だから、僕に勉強は無意味になった。でも無駄ってわけじゃないんだ。
数学の時間、先生が黒板に方程式を書いた。三角関数だったかな。それをグラフにした時、僕にはわかったんだ。
幼虫として、葉を取り込んで十分に熟した僕の頭蓋骨はその中で変態の準備をしていた。僕の脳はドロドロに溶けてスープとなった。もはや何者でもなかった。もう物体でさえなかったのかもしれない。
やがて僕の頭蓋骨の内容物の再生が始まると、裸の鹿皮の鞠に絹の糸を色とりどりに巻きつけるように、最適な美しいバランスで行程は進められていった。
恥鞠の日から一ヶ月、僕は生まれ変わってしまった。
これを何と呼べば適切だろう。変態、変身?いや、これは破壊と創造の過程だ。
僕は女性として再生した。
小牧部長さま
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